披露目
失ったものを取り返すのは行動で示すのみ。
覚悟を見せるのもまた同じ。
大和がお館様たちと家を空けている間に、伯父、昇靖が鍛え上げた刀を授かった。
白雛。そう銘を明かされ、深く感謝の意を表した。
目の前にあるのは道場の庭。刀の披露目を合わせて、巻藁が幾つも試斬台と共にあった。
道場の縁側で高みの見物を決めた姿勢で座っているのは、師範である頭領と昇靖殿。二人は少し席を離して、並び座っている。
見物人は后守に名を連ねる者以外では道場の門下生たち。御剣の屋敷にいたオレには馴染みの無い顔ばかりだが、向こうはオレの事は知っている。
それ故に、好奇と品定めの混じった視線が多い。
「冬臥。七連」
礼をして既に構えていたオレに、頭領から事も無げに言われ、周りが僅かにざわついた。
七連戟。一呼吸で成せと云われた。
普通の披露目なら二連か三連でも十分だが、言われて出来ないと言うことの方が悔しい。
細く呼吸を整えて、居合いの形で構えていた白雛をゆっくりと引き抜いた。
居合いの形でなら速度をもって一刀目を見せるが、七連戟では最後をしくじりかねない。
「破っ!」
振りぬきざまの一刀を変えて、上段、返し、袈裟斬、なぎ払い、切り上げ返しで二つ、大きく踏み変えて背後の一つに逆胴。
最後の手ごたえが硬かった。振り抜き切ったが、掌に感じる痺れは柄を握り直して誤魔化した。
「ありがとうございました」
刀を納め、頭領へ頭を下げた。
「どうだ、兄者」
頭領の問い掛けに、昇靖殿は無言だった。
考えているその姿に、先程とは違うざわめきがあった。
指示通りの結果は出し、周囲から終りの拍手は確かに起こった。だが、それだけだというのは自分でも分かっている。
「曉殿、最後の一つに意地の悪い仕込をされましたな」
その一言に、皆が最後に落ちた巻藁へ目を向けた。
もちろん、オレも心持ちゆっくりと平静を装って振り返り、切り分けたその巻き藁の中心を見て、痺れた原因がわかった。
通常であれば藁だけを巻いて作るが、その最後の一つだけ、芯に鉄を通した青竹を巻いて作られていた。
「せっかくの披露目でいきなり曲げられては、いくら私といえど苦言も言いたくなる。だが、冬臥。見事だ」
太く低い音を立てて、昇靖殿の掌が打ち鳴らされた。
「お前の刀をそう曲げるとは思えなかったのでな。許せとは云えぬが、確かに見事だった」
その言葉でオレはようやく、ほっと一息を吐いた。
「昇靖殿、白雛。ありがたく頂戴いたします」
刀鍛冶師へ改めて刀を掲げ、礼を述べた。
「皆、片づけを頼む。二人とも、中へ」
頭領の一声に、不満げな気配も見えたが、オレと昇靖殿は呼ばれた声に従い、道場の中へと入った。
白雛を昇靖殿が最後に確かめながら、新しい油を塗ってくれた。
その最中に「芯がぶれていたのなら、早々に手入れ直しになるところだ」と、褒められた。
刀の刃は見た目に反して柔らかく曲がりやすい。それを知っているにも拘らず、七連戟などを強要した頭領へ向けた視線は厳しかった。
そのやり取りは、開いた戸の外から中を伺う者にはよく見えただろう。頭領は気にした様子もなく、近くに座るよう促した。
「冬臥、いい見世物だった」
「……はい」
「それと兄者。後で頼みたいことがある、鍛冶場に使いをやるから面倒でなければよろしく頼む」
「今聞くわけにはいかないのか」
「ああ。それも含めて書いておく」
「そうか」
それだけで納得したのか、昇靖殿はそれ以上、食い下がることもなく、見るものは見たと云って帰り支度を始めていた。
「冬臥、白雛だけでなく黒螢でも気になるところがあれば、遠慮なく来い」
「ありがとうございます」
黒螢は双也となった大和の刀の銘だ。刃紋が炎のように美しいのは覚えている。
昇靖殿を門の前で見送り、再び頭領に声を掛けられた。
見るものは見たという昇靖殿の言葉を借りるように、見せるもんは見せたと云って、近くに居た師範代に道場の後を任せて、引きずられるように町中へと出ていた。
連れて来られたのは、頭領の馴染みの酒宿だった。
宿自体は旅人用だが、酒場自体は気兼ねなく利用できるらしいが、正直まだ日の高いうちに、何処で道草を食おうと云うのだ……この人は。
「あら曉はん、ひさしぶりやないの。何時ものとこ空いとりますんでどうぞ」
「助かる。女将さんのお勧め、いくつか見繕って持ってきて」
刀を預け、事も無げな挨拶を交わして、奥へ進んでいく頭領を追いかけながらオレも女将へ頭を下げた。
「あらっ、お父はんとは違うて、礼儀正しいやないの。ゆっくりしてって頂戴」
女将の笑う声にもう一度だけ曖昧に頭を下げて、頭領の背を追った。
酒場の奥は座敷になっていた。いくつかの部屋があるらしいが、頭領はその中でも一番手前の部屋に入った。
普通なら奥の部屋を選びそうだが、さっさと自分の位置に座り向かいを促した。
「冬臥、お前は道場を継ぐ気は無いか」
座ったと同時に投げ渡された台詞に、流石に「何を言い出す」と心で呟きながら目線で訴えた。
「そう分かりやすい顔をするな。何も考えていない訳じゃないぞ」
笑いながら一区切りをして、合間に運ばれてきた酒を慣れた手つきで女将が頭領の杯を満たして、オレの方へ来たが、辞退した。
正月の祝い酒は飲んだことがあるが……辛くて美味いとは思えん。
「少しは酒を覚えろ。その為に祝い合わせで連れてきたんだ」
「あらっ、お誕生日やったん? 曉はんも先に一声掛けてくれれば、一緒に持ってこれたのに」
「それじゃ、今から頼む」
嬉しそうに声を弾まされ、断ることも引き止めることも出来ない間に、女将の姿は遠くにあった。
「外れは無いからな。言った様にこれを機会に、酒を覚えてしまえ。まあ、過ぎた酒はよくは無いがな」
「……今、暗に潰すと言いませんでしたか?」
「お、察しが良くなったな」
豪快に笑った頭領に眩暈がした。




