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受ける心

 翌日、使いで出ていたオレはそのままの足で陽川神社へと赴いていた。

 頼まれた用事を先に済ませ、大和の助言を受けて何か土産になるような物があればと細工店にも少しばかり覗いた後ではあるが、流石に譲り受けた(かんざし)細工に近いものは見当たらなかった。

 だからと言って、朔耶に何もなし。と言うわけには行かないが、余り長く空けている訳にも行かず近くの染物屋で傷の手当の礼を兼ねて、淡い紅梅に型抜きされた手拭を買った。

「リコ殿」

「ん? あら、いらっしゃい」

 にこりと笑い迎え入れてくれたのだろうが、幾許かその表情が硬く見えた。

「何かあったのですか?」

「ううん。なんで、なんも無いよ」

 取り繕うとする笑みは嫌でも見慣れてしまっている。

「先日の事で何かあったのでしょうか……」

 恐る恐る聞くとリコ殿の表情に影が落ちた。

「何でもないよ、十斗君は気にしなくて平気だから」

「しかし、オレが余計に煽ったようなものですし……何か力になれる事があるなら、遠慮せずに言っていただければ」

「ホントに気にしなくていいって。参るねぇ、君みたいな子供にまでそんなに心配かけちゃってね」

 乾いた笑いを浮かべ、わざと大きな声で客を呼び込み始めるリコ殿だったが、客の足は遠かった。

 遠巻きに向けられる視線は白く、両隣の店は移動した旨を示す札があった。

「先日のお詫びと思い参ったのですが、どうも邪魔しか出来ないようですね」

「十斗君、本当に君のせいじゃないから。そこは安心して……ただ、やりすぎた私自身に責任があるだけだから」

 遠い参道を眺めながら小さく笑うリコ殿は、思い出したかのように声をあげ並べられていた魔魂石をいくつか拾い上げた。

「これ、昨日助けてもらったお礼」

「頂くわけには参りません。あの騒動はオレにも原因がありますし」

「じゃあ、出会った記念と友達記念にプレゼント。これなら受け取ってくれるよね?」

 今度は影も無く笑い差し出され、オレも大和から譲り受けた簪を同じように差し出した。

「そういう事ならこちらを」

「可愛いっ。蘇叉の土産に丁度いいかもね」

 簪を眺めながら、どういう風に使えば良いのか尋ねられ説明に戸惑いながら、侍女達のやり方を思い出しながら説明する羽目になった。

「それにしても今日は、朔耶はご一緒ではなかったのですか?」

 互いに受け取った物をしまい、オレは辺りを見た。

「んー、朔耶ちゃんなら、薬屋の手伝いで朝から出かけてるのよ」

「薬屋ですか?」

「そう。薬を取りに来れない人たちの所へ届ける手伝いって言ってたかな」

「なるほど」

 だから初めて会ったとき薬を持っていたのか。

 しかし、少しばかり残念だな。

「会えなくて残念? そうだ。ならさ、夕方に時間があるなら一緒に買い物に行かない? この土地最後に地元民にご案内願おうかしら?」

「オレでよければ、是非に」

「うん、良かった」

「ではまた後ほどお伺いします。オレも使いの途中ですので」

「分かった。じゃあ夕方ね」

 最後に挨拶をして、神社を後にした。



 屋敷に戻った後、オレは師に呼ばれ部屋へと通された。

 静かな空気の中に僅かに痛みが走るような何かを感じるのは、恐れているからか。

「楽に座りなさい」

「はい」

 いつもと変わらない仕草で座るように言われ、そのままに座った。

「何故、呼ばれたのかは分かっているな」

「……いえ」

「先日の一件と言えばわかるだろう?」

「…………」

 無言で答えたオレに、師は小さく嘆息して見せた。

「別に咎める為に呼んだわけではない、もう少し肩の力を抜け。十斗」

 そう言われて簡単に出来るわけはない。オレはゆっくりと深呼吸をして師の顔へと目を向けた。

「一応、頭領には口止めされているのだが……お前が無茶をしないように制するのも俺の役目だからな」

 師はそう前置きながら、先日捕らえた男たちの事を教えてくれた。

 男たちはこの町よりかなり離れた場所に居を構える者たちで、リコ殿たちのように大陸から渡ってきた商人たちを騙し食い物にしてきていたらしい。

 役人たちも以前からその一団に目をつけていたとの事だ。

「それだけなのですか……?」

「それだけとは?」

 思わず口をついていた言葉に、オレは先を続けるべきなのかを迷った。

「何を疑問に思うのか、尋ねたい事があるなら言ってみなさい」

「……何故、その後の情報は極秘とされたのですか」

 言葉を選び師の表情を窺うが、僅かに見せた変化も錯覚とも思えるほど短く緩く首を横へと振っていた。

「先に言ったとおり、頭領から口外無用と言われている。いや、正確には綾之峰様ご自身からの通達だ。お前の身を案じての事でもある」

「オレの、ですか?」

「ああ。お前も自ら危険と分かっていて飛び込むからな。あの御方にとっては、十斗、お前も彦様や姫様同様に大切な子なのだ。あまり、心配をかけるな」

「……お言葉、ありがたく頂戴致します。しかしながら、オレも后守を背負う者です。御剣に降りかかる厄を防ぎ払うのが役目……」

 お館様の気遣いを知り素直に嬉しいと思う。けど、オレは約束をした。

 大和を守ると……灯里様を守ると。

 それに、あの一団の頭らしい男は取り逃してしまった。あの口ぶりからして再びオレたちの前に現れるのは明白。

 何時になるか分からないままただ、漫然と待っているより、動こうとするのは、間違っていないはず……

「その頑固さはお二人のうちどちらに似たのか……」

 再び零れた嘆息。

「だが忘れるな。后守十斗という人間はお前以外には居ない。姫様のお役目を外れ、急く気持ちも分からなくは無いが焦りすぎるな」

「……」

 そんなつもりは無かったが、焦っていると云うのはそうなのかも知れない。

 大和にも言われたばかりだったな。

「まあ、ともかく告げることは告げた。下がって良いぞ」

「……はい。失礼しました」

 オレは師の部屋を後にしたのち、大和の元へと赴いた。

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