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主従の朋

「主殿、折り入っての頼みがあります」

「どうしたの? そんなに改まって」

 オレはあれから直ぐに戻り、直接大和の部屋へ出向いた。

「しばらくオレに暇をくれないか?」

 切り出した言葉は当然、大和を困惑させたようで、少しの間目を瞬かせていた。

「やめるって意味じゃないなら、別に構わないけど。随分と急に……何かあった、んだろうね。その様子じゃ」

「すまない」

「事情、聞く権利はあるよね?」

 素直に説明するべきか、それとも不義と承知で黙するか。

「……今は、言えない」

 言えば、大和を必ず巻き込む事になる。それに、その起因が灯里様に関わる可能性があるなら……また大和にあの力を使わせてしまう。

「すまん……」

 オレは後者を選び、深く頭を下げた。

「ふぅん。まあ、十斗がそう言うなら、余程の事なんだろうね……でも、紀代隆にはどう伝えるの?」

「それは……」

 師への説明は追々考えるつもりだったし、最悪正直に話しても差し支えはないと思っていた。お役目の事を併せて説き伏せられる可能性ももちろんあったが……

「なら、代案。事情は聞かないけど、同行させてもらおうかな」

「ま、まて! それは出来ない……」

 時折、突拍子も無い事を言うのは分かっていたがこう来るとは……

「それじゃあ、暇は出せないかな? 君は僕の后守なんだから、あまり勝手は出来ないよ」

「それは、分かっている……だから、今しばらくの時間が欲しいんだ。紀代隆様だけでなく他の方々にも迷惑を掛けるのは重々承知している」

「なんてね……君は本当に、嘘つけないよね」

 そう言って笑いながら向けられた瞳には赤い色が強く現れていた。

「つまり何かしらの不利があった場合、“君が勝手にやっていたから僕は知らない”と君を切ればそれで終わるような事。それに今はって事は、十斗自身には何も確証は無いけど大事な何かを得た。

 多分、あの事件の事かな。だから僕には何も言えない、君の危惧する通り場合によっては僕は遠慮しないからね」

「…………」

「十斗、今すぐ動いても何も出ては来ないだろうし、紀代隆にだって真正面から挑んで直ぐにどうこう出来る問題じゃないよ」

「なら……どうしろと。奴らはまだ直ぐ近くに居るのに、黙ってろって言うのか!」

「ねえ、十斗……僕が本当に冷静なままで居ると思う?」

「何をっ――!」

 静かに変わらぬ口調のまま問いかけられ、オレは言葉を途切れさせた。

 自分を制しているのか、大和の瞳はあの時よりも苛烈な赫い色を浮かべていた。

 口振りとは裏腹なまでに激しい感情を剥き出しにして、射抜くように睨んで来ていた。

「すまなかった……」

「気にしないで。多分だけど、時が必ず来るよ」

「何を根拠にそう言う?」

「勘、かな? けれどね、何かを起こすにも準備が必要だよ。十斗、僕は灯里のためならなんでもする……そう言ったよね」

 くすくすと暗紅色の瞳を緩く細め、確かめるように小首を傾げてきたのでオレはゆっくりと頷いた。

「――僕が君の協力者になるよ。それが一番、簡単に秘密を守れる」

 他愛もなく大和は自ら危険に晒すと告げた様なもの。説得して思い留めさせるにも有効なものが浮かば無かったが、それでも首を横に振った。

「お前にまで何かあったら、オレは、そこから動けなくなる」

「君は本当に真面目だね。でも、君が言ったんじゃない。“お前を守れば、厄は灯里までは及ばない”って。自分で言った言葉なのに、もう忘れちゃった?」

 そう、来たか。忘れるはずも無い。あの日、確かに大和に向かっていった言葉だ。

 だけど、いやしかし……と、ぐるぐると悩む思考の渦に陥っていた間も、大和は静かに紅い瞳のまま待っていた。

「……分かった。主の望むままにオレは従おう」

 結果として、大和を巻き込む事になったのは心苦しいが他人に任せ、安易に事を知られるよりは良いだろう。

 師にも、誰にも伝えなかった事だ……このまま、内に秘めたまま過ごせれば、それに越した事は無い。

「君ならそう云うと思ったよ。なら、ちゃんと話してくれるよね? 何があって、今に至るのかを……」

「分かった。だが、お前が関わる事が頭領の耳に届く事だけは避けたい。

 だから、もし紀代隆様に問われる事があっても、オレが勝手を起こしていると告げてくれ。それが、オレからの条件だ」

「そうさせてもらうよ。だから、一つだけ最初に準備したい事があるんだけれど、いい?」

「勿論、構わないが……」

 頷いたオレを見た大和は笑っただけで詳細はまた後日伝えると言い、先の一件の説明を求めて来た。

 オレはその説明を最後まで済ませ席を立った。

「オレの身勝手な事に巻き込んでしまうが、許してくれ」

「気にしないでいいよ。それに、僕が家に居るときは気兼ねなく外に出ても構わないから。外を知り、経験を積むのも良い事だと思うよ」

「何の事だ?」

 何処と無く意味深に笑う大和は、何でもないと呟き机の中から布筒を取り出した。

「さあね。はい、これあげる」

「……大和、これを一体オレにどうしろと言うんだ?」

 くすくすと笑うだけの大和から渡されたのは、数輪の花を拵えた淡い桜の枝を模した簪だった。

「あの魔魂石の店主に迷惑かけたんでしょ。こちらからのお詫びでどう?」

「あぁ、そういう事か」

「そういう事。と、言いたいんだけど……灯里に贈ろうとしたらどうもお気に召さなかったようでね。ただ捨てるだけになるより、土産になれば良いかなって。

 それに、十斗の事だから手土産も無く、あの店主に謝りに行くだけになりそうかなぁって……思ったんだ」

「ぅ……否定、出来ないな」

 確かに、謝罪に行こうと思っていたがそこまでの気は全然回らなかった。

 そうだな、土産か。

 二人とも何時までこちらにいるかわからないが、こういう土産は良い記念になるのかもな。

 明日にでも、渡しに行こう。

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