生まれいずるは
警告タグチェックに関して、グレーラインな描写があるかも知れません。(本人が大丈夫と思っているだけと言う可能性もあるので)
あらすじに記載したとおり、適宜応じていきたいと思ってます。
彼女と初めて出逢ったとき。
それは、彼女が祝福され生まれ出でた日。
赤子は望まれ、そして愛されるべき存在。
小さな手足に触れることを許され、産着に包まれた身を両の腕に抱いたとき。
――守るべき存在となり、主となった。
それはまだ、五つのオレには理解できなかった。
出来なくてよかった。
そのとき望まれていたのは僕としての存在ではなく、ただの子守で遊び相手だったから。
けれどオレは腕の中で小さく息づく命に、その尊さと儚さと力強さを確かに感じた。
「十斗、これからこの子をよろしく頼みますね」
いつもなら柔らかく暖かな声も産後で疲労の色が濃かった。
それでも赤子を生んだばかりの椛様の言葉にオレはただ、素直に返事を返していた。
「はい! 任せてください!」
偽りもなく、ただただ舞い上がっていた言葉。
初めて抱いた赤子の命の重みを感じ、不思議と気分が高揚していた。
「あら、お前も言うようになってきたのね」
産婆とともに赤子を取り上げる手伝いをしていた母上の言葉に褒められた気はしなくて、一瞬のうちにむくれて小さく唇を尖らせた。
「頼もしい話しですよ。そう不貞腐れることもないわ」
額に汗で張り付いた黒い前髪もそのままに、優しく助け舟を出してくださった。
その言葉にオレは嬉しかったのか、それとも照れてしまったのか笑って抱いた赤子の頬に頬ずりをしていた。
「これ十斗。そんなにしては起きてしまいますよ」
くすくすと笑う母上の言葉に、オレは初めて気がついて寄せた頬を放した。
「それに、そろそろ暇せねばなりませよ。大役成されたばかりですので、椛様もお休みなさらねば」
「はい」
返事を返し、ひらりと目の前に舞ったものを見つけそれを追った。
外には薄紅色の桜が無数に咲き誇り、柔らかく吹きぬけた風と共に小さな主を祝福していたように桜の小さな花びらが開かれた部屋の中にも幾つも入ってきた。
思わず零れた感嘆の声が聞こえたのか、泣き疲れて眠っていたはずの小さな瞳が不思議そうに開かれた。
「あっ……椛様、この子。きれいな菫色の瞳してる」
抱きかかえていた赤子の顔を椛様へ見せようとした途端に、大きな声で泣かれてしまい驚いて、つられて泣きそうになった。
今思えば、情けない……
椛様の細い腕が優しく赤子を抱きしめると、ぴたりと泣き止みほっと一息を付くと周りにいた産婆と侍女たちが笑っていた。
「后守と云えど、やはり生まれたばかりの姫様には手を焼かれるようですね」
「う、うぅ……だって……」
「そう苛めてはなりませんよ、まだ十斗も五つになったばかりの子。これからの長い目で見てやるが私たち大人の勤めでしょう」
椛様の救いの言葉にまた笑い産婆の声掛けによりオレたちは皆、部屋から退出した。
今も色鮮やかに懐かしい――――