第八話 昔話
異端、異端と言いながら、結局は何が異端なのか分からなかった。遠い国では「魔女狩り」と称して多くの者が処刑されたとか。この地域で言う、「異端狩り」と似たようなものか。
異端の基準は特にないらしい。強いて言えば、人とは違う能力を持つ者や、一つのことに異様な程優れた者、容姿が人とは違う、特にこの世の者とは思えない程美しい者、これらの者達が狙われた。
異端ではない人間をヒトと表すと、彼らにとってこの凶行は単調な毎日に刺激を与える娯楽、スパイスの役割を果たしているのだろう。それ以上にこの「異端狩り」は、愛してやまないマジョラン家一族と話ができる絶好のチャンスなのだ。異端を見つけ報告した者は、年の暮れにマジョラン邸へ招待され、当主直々に礼を言われる。ヒトにとってはこれこそ最上の褒美だそうだ。
「まったく、理解出来んな」
「そうだね、兄さん。この地域のヒトはもう手遅れだ。仕舞いに、あの一族を神と崇め始めるよ」
マジョランの言霊を解くため、俺と兄さんは当主に取り入って、潜入に成功した。
「君たちには異端を駆除してもらいたい」
「その前に、異端について教えてほしい」
「そうだよね。なんにも知らないのに犯罪の片棒担がされちゃってたら困っちゃう」
俺たちの言葉に頷いた当主は異端との確執を語り出した。正直、俺は半信半疑で聞いていた。マジョランの言霊は真剣に聞くほど効力が増す。それ以前に俺自身の直感がこいつは信用出来ないと訴えていた。でも、真面目な性格の兄さんは違ったようだ。
「分かった。任せてくれ」
「え、兄さん、引き受けるの!?」
「当然だ。当主殿の話は聞いていただろう。何をためらう必要がある?」
愚かにも、真面目な兄さん。ちゃんと話を聞いていたんだね。マジョランの言霊に惑わされてしまった。兄さんの協力はもう仰げないなぁ。
当主は俺の反応が気に入らなかったらしい。依頼を断るごとにあちこちから突き刺さる視線。あー、やだやだ。操られるなんてまっぴらごめん。
俺はリージン・クロスロード。夜の呪術師。俺は俺自身の意思にしか従わないよ、愚か者のオニイチャン。