第七話 陽の魔術師と憐れな男
私は知らない、
この異端の物語の終焉を。
もうこの世と別れる時が、すぐ近くまで迫っていると理解した。私は永く生きた。未練はない。
ただ一つ、ずっと昔から心の端で考えていたこと、たった一人の肉親、私の双子の弟のこと。あれは今もあの場所にいるのだろうか? マジョランの家の者は、ほとんどが生まれながらの言霊使いだ。私はあの時、すでに一人前の魔術師として弟と共に身を立てていた。私は“陽の魔術師”、弟は“夜の呪術師”、そう呼ばれていた。
「あぁ、なんと。とても悲しいです。あなたは我がマジョラン家の恩人ですのに。人の生とは儚いものなのですね」
ふと、人の気配で我に返ると、部屋の入り口にマジョランの現当主、ケイルがいた。私の死を心から悲しんでいる、という表情をしている。何が温厚だ、何が慈悲深いだ。腹の中はぐるぐるとどす黒い禍々しい感情で溢れているくせに。
「逝くとしても、そう一日二日で逝くわけではない。私には一つだけ確かめねばならないことがある」
「それはいったい?」
「内緒」
内心苛ついていることだろう。しかし、教えてはやらない。邪魔が入ると困る。
己の娘まで異端として森へ追放した男。あの娘が異端だと? 違う。あの子はもっと神聖なモノ、恐らく、天使。私も以前、天使に会ったことがある。普通の人間とは違う、優しい美しい人だった。
「君とは、ここでお別れだ」
パチン、と指を鳴らした途端、私の身体は橙色の炎に包まれる。
「もう操られるのは御免なのでな」
「行かないで!!」
こちらに駆け寄ってくるケイル。昔はよく遊び相手になってやったものだ。
「さらば」
すぐ近くまで彼が来た、のが見えた気がした。すでに私はそこにいないのだが。
私の創った“永遠の森”は代々マジョラン家に悪用されてきた。罪のない異端達があの森に大勢いる。罪を犯した人間も多く追放されている。あの中がどうなっているのか、見当もつかない。
この長い人生の中で、私は何度もマジョランの言霊に惑わされてきた。そして正気に戻ったあと、何度も後悔してきた。あの森だってそうだ。私の罪、ならば逝く前に清算せねば。
私が迎えに行こう。
この異端の物語の終焉を。