第六話 夢にまで見る話
今ではもうぼんやりとしか覚えていないけれど、この森に来る前のことを夢で見たりする。決して綺麗な思い出ではない。私は家族の誰からも愛されなかった。それでも、私をこの世に生み出してくれた人たちだから、どうしても嫌いになれなかった。私は愛していた。
「貴様という奴は、こんな化け物しか産めんのか? 先の子は結局流れてしまったし、その前は病弱な女の赤ん坊だったではないか。今度こそはと誓ったにもにも拘らず、よりによって異端を産むとはな。……恥を知れ」
母は何より父を愛していた。私が生まれる前、私には何人かの兄や姉がいた、らしい。全員もうこの世にはいない。濃い血を残すため、何代にもわたって近親婚を繰り返してきたせいで、生まれるのは身体の弱い子どもばかり。久々に父と母は血縁でない者同士で結婚したのだけれど、身体の弱い子どもを産む母に父は罵声を浴びせていたとメイドが話しているのを聞いた。どちらかというと父の方に原因があると思う。でも父の中では、自分が一番正しく、その次がマジョラン家血族、それ以外は信じない、という公式が成り立っていたため、夫婦であっても他人である母のことなど、子を産む道具にしか思っていなかった。もう一ついうなら、こんな母はマジョラン家に取っては不要品。しかし、父に「捨てないで」「こんどこそ健全な子を産みますから」そう言って泣いて縋る母は、サディストの気がある父にとっては格好の獲物だったようだ。
そんな時に生まれてしまった異端の私は、当然愛されなかったし、母の立場をさらに悪くした。母は私に己の痛みをぶつけた。私は幼いながら母を憐れみ、愛し、全て受けとめようと思った。私がここにいるのは、異端の私が存在していられるのは、母が私を生んでくれたから。