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第二十五話 懺悔

 私は気がついた時には独りでした。両親の記憶も愛もぬくもりも知らない。まだ赤ん坊でしたが成熟した知能を持っていましたから、尚更酷く辛く感じました。当たり前です。いくら知能が成熟していようと、本質的には赤ん坊なのですから。誰かそばに来てほしいと思い、声を上げましたら、見ず知らずの人がやって来て、私を見て酷く驚き私を連れていきました。その人は優しく私を抱き上げてくれました。そのぬくもりに、ようやく私は安堵し、安らかな眠りについたのでした。

 その人は私を引き取り、育ててくださいました。そこで過ごすうちに、私には声を使う能力があると知り、他にも様々な能力を持つ者、能力を持たない者がいると知りました。とりわけ、私の恩人は万能の力を持ち、美しい容姿と聡明な性格で、この方以上にすばらしい人はいないと思いました。彼女の下に能力を持つ者が集い、能力を持たないヒトを助けることになりました。私は特にヒトには興味はなく、彼らがどうなろうとどうでもよかったのですが、彼女がそれを望みのですから、私もヒトを助けることにしました。

 しかし、時が流れ、彼女の願いも虚しく、ヒトが大勢死ぬ争いが起きました。私たちは彼女が決めた一方に加勢し、相手のヒトとそちらに流れた能力者を殺しました。特に、裏切り者の能力者には容赦しませんでした。彼女を裏切ったのです。死をもって償うべきです。ただ、この件が彼女を苦しめ、私を狂わす原因となったことは言うまでもないでしょう。仲間たちが次々と倒れていく様子に、この身を染める赤に、私が愛してやまない彼女が泣き崩れる姿に、恐怖と興奮を覚えました。穏やかな気性の彼女が、ここまで感情を露にしたのです。それが私のためだったなら、そう思わずにはいられません。彼女はその手にかけた仲間を、ヒトを、一生忘れることはないでしょう。実に羨ましい。死を通して、彼女の心に永遠に刻まれるのです。この身を染める赤が彼女のものであったなら、私はこの赤を余すことなく取り除き、それを煎じて飲むでしょう。足元のこれが彼女であったなら、私は急いで優しく抱き起こし、彼女は私の糧として永久に私の中で生き続けるでしょう。彼女の全てが欲しい。だから、彼女が死んでしまったらと怯えるようになりました。

 彼女は弱っていきます。このままでは彼女と別れなければなりません。これも全ては、恩知らずなヒトのせいです。ヒトの些末な欲望が彼女の力を奪ってしまったのです。彼女のそばにいられないなんて耐えられません。彼女は私の希望。愛しい人。貴女を生かしましょう。貴女のためなら、私は何だって致しましょう。手を汚すことすら、貴女のためになるなら喜び。愛しています。貴女が私を選んでくださるなら私は、能力を失ってもいい。

「我は死ぬことにしたのだ」

どうして、そんなことをおっしゃるのですか。何より優先されるべき貴女が、なぜ、そこまでしてヒトのために尽くさねばならないのですか。理解できません。したくもない。私には貴女しかいない。親すらいない私にとって、貴女がたった一人の家族。親であり、友であり、愛しい人。貴女の心、身体、全てが欲しい。私を選んで! 貴女がいれば何もいらない。貴女に名を付けたのは、その『ジルバラ』という名で貴女を縛るため。私から離れないように、失わないようになのに、何で、どうして! 貴女は逝ってしまうのですか?

 彼女に攻撃されたのは、それが初めてでした。ジルバラ様が私にくださるものなら、何であろうと喜んで受け止めましょう。結果として、それは私の魂を消滅させることは出来ませんでしたが、その時私は、殺してほしいと望んでいました。ジルバラ様は死ぬつもりなんです。なら、そこで死ねれば、最後までジルバラ様を目に映したまま死ねるのです。でも、そうはなりませんでした。

 私は自ら放った言葉に操られて、何代に渡ってマジョランを名乗りました。いずれ何らかの形でヒトを全滅させるつもりでした。そうして、ようやくジルバラ様の攻撃で入ったヒビによって、魂が二つに分裂しました。一つはケイル、もう一つはリージン。全く境遇の違う彼らは、性質だけは同じでした。極端な愛情とヒトを滅ぼすこと。彼らは意識していなかったかもしれない。でも確かに、無意識にでも、彼らの中に根付いていました。

 あの時放った言葉が多くの人の人生を駄目にしました。本当は許されないことです。

 ただ、一つだけ言うなら、私は愛を求めただけだったのです。幼い頃から親を知らず、ジルバラ様に拾われてからも彼女はその役目のために私といる時間が短かった。頭で分かっていても、心が付いていかなかったのです。

 でも、それももう良いのです。彼女の愛はちゃんとここにあったのです。私は疲れてしまいました。人を恨み続けるのは疲れるものです。

 さて、そろそろ逝きます。これからはジルバラ様が一緒にいてくれます。もう寂しくありません。

 今まですみませんでした。さようなら。

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