第二十四話 終結
「な、なぁ、魔術師さん。あれ、どうなってるんだよ……」
「私にも分からない」
陽の魔術師とニコが丘の上から戦いの様子を見ていますと、急に光が発生し、その光が消えると全てが止まっていました。宙に浮いている者も、地に倒れ込んでいる者も、掴み合っている者も、全て。
「近くへ行くぞ」
「えっ、行くの? 危ないよ」
「お前は見届けるのだろう」
「……分かった、行くよ」
二人は戦いの中心部に近づくにつれ、多くの人が倒れているのを目にしました。しかし、先程見えたように、ついさっきまで動いていたような体勢で固まっているのです。二人は唯一動いている人を見つけました。その人は四枚の翼を持つ女性で、地面に座り込んで泣いています。
「どうしたの?」
「我のせいだ……。私はいつも死なせてしまう」
「お前、始まりの異端か」
陽の魔術師の言葉に、その人は顔を上げました。美しい目から涙を流し、麗しい顔をよりいっそう美しく見せています。
「そうとも言えるし、そうでないとも言えます。久しいな、あの時の双子の兄だろう」
「そうだ。これはどういうことなんだ? 皆動きが止まっているようだ」
「我が我の影響下にある者たちの動きを止めました。もう死なせたくありませんでした。だが、やはり我は大勢死なせてしまった」
地に伏し苦しむ女性、首を押さえて倒れている男性、大きな狼と虎の攻防。涙を流すその人の回りを囲む彼ら。その回りでは、異端と呼ばれる人々と化物と化した町の人々が掴み合い、相手を引き裂き、押し潰し、投げ飛ばし、そのままの状態で固まっています。
「ねぇ、貴女はまだ生きている人たちを守ったんだよ。死んだら帰らないけど、生きている人がいるんだよ」
「我の役目はヒトを守ること。私は皆を愛しているのに! 一人の家族が泣いても、多くのヒトが助けを求めるなら、たった一人の家族を置いて行かねばならん。能力者の仲間と何の力もないヒトと、どちらを救うか選ばなければならないときもありました。私は仲間を見殺しにした。我を愛してくれた者に応えることもできず、アイツの心を壊してしまった。……仲間もヒトも守れない、何が主だ!」
その人の感情が暴風となって暴れます。陽の魔術師は急いで結界を張ると、中に飛ばされそうになっていたニコを引っ張り込みました。
風は結界の外で大きな狼になり、虎になり、色々なものに形を変え、化物になったあと、男性と女性の形になって消えました。
「ただ、止めたかっただけなのに」
そう言うと、その人は倒れてしまいました。
陽の魔術師は何か悟ったようで、その人と首を押さえて倒れている男性を並べると、何か唱えました。二人の身体が光り、身体の中から何かが出てきました。
「誰、この人たち」
「さっきまで話をしていた者と、おそらく彼女がアイツと言った者の思念だ」
『ジルバラ様! ずっとお会いできるのを心待ちにしていました』
『もう良い。ヒトは能力などなくとも自分の力で生きていけたのだ。我は全てを持っていく。……共に来てくれるか?』
『当たり前です! もう一度言います。私を愛してくれますか?』
『フフッ、ああ。今度はお前を選んでやる』
二人が口付けを交わすと、その姿が消え始めました。同時に固まっていた人たちから光が生まれ、光が天に上っていきます。皆が目を覚ましました。
異端と呼ばれた人たちの身体はもとの能力のない姿に戻り、洗脳されていた町の人たちは解放され、化物にされた人たちはもとの姿に戻りました。
「ジルバラ!」
「今まですまなかった、アリス。我らのせいで苦労をかけた。お詫びに、この地に生きる愛し子たちに贈り物を」
ジルバラが手を上げて大きく円を描くように振る。すると、人々のあらゆる傷が癒え、あらゆる病が消えました。
「離れても、我はお前の味方だ。愛し子、お前に勇気を」
ジルバラはそう言うと消えました。




