第二十三話 全てを
先ほどと違って、リージンさんが優勢なようです。
『アリス! 何か来るぞ』
ジルバラの焦った声と共に突風が吹いて、目の前に毛むくじゃらな何か、大きな狼。まさかギルディさん?
「ケイル、これはあなたのものよ」
「君が用意してくれたのかい。ありがとう。この気配、あの犬か。……リージンとアリス、私たちに逆らう者たちを食え」
大きな狼、ギルディさんは盛大に吠えると、私たちに突進してきます。
「この駄犬が!」
私とリージンさんの前に虎の姿になったマリオンが躍り出ました。
「マリオン下がって!」
「フフン、アリス。アタシ、結構強いんだから。親友とおまけの一人ぐらい余裕で守ってみせるよ」
マリオンは地を蹴り、ギルディさんに向かっていきます。そうしているうちに、母も私に攻撃を仕掛けてきました。リージンさんも父と戦っています。長くなった爪で翼を裂かれそうになったところ、私の上に馬乗りになっていた母が吹っ飛びました。
「アリスに触れるな!」
母はリージンさんに殴り飛ばされ、地面にうずくまっています。父も手だけ変形させたリージンさんに首を絞められています。マリオンは身体の至るところから血を流しながら、ギルディさんに噛みついたり引っ掻いたりしています。森のみんなは町の人たちと戦っています。みんな我を忘れている。
『……やめろ。やめろ! やめてくれっ!』
急にジルバラが叫び始め、頭が痛み始めました。何なんですか、ジルバラ! どうしたんですか!
ジルバラの叫びと共に、リージンさんと父の身体が光に包まれました。これはいったい……。頭の中に何かが流れ込んできます。記憶、ですね。
『我は全てを愛しているのに』
そうだった、私は皆が好きだった。父も母もリージンさんもマリオンもギルディさんも。
全てが止まっています。何もかも、停止しました。
『全てを愛しているのに』
頭の中、ジルバラの嗚咽が響いていました。




