第十五話 開戦
「……森の呪縛は解かれた。今こそ立ち上がるときだ!」
森の主は指揮を執る。
「思い出せ。異端と蔑まれ、差別され、愛する者に裏切られた悲しみを、怒りを、憎しみを! 悪の一族を根絶やしにし、こんな状況に追い込んだ者たちに制裁を!」
少女を殺した者たちを消すために。
全てを終わらせるために。
「領民に危害を加えるな。彼らは操られているだけだ」
賢い狼は異議を唱えるも、逆賊として捕らえられた。
「アタシのアリスを、可愛いアリスを殺したマジョランなど、この手で血祭りにあげてやるわ!」
猫神はドラゴンへと姿を変え、復讐の焔を燃やす。
哀れ、異端たちは己が駒として使われようとしていることに気づかない。彼らは、もうマジョランを滅ぼすことしか頭にない。
「我々の自由と平等のために、邪魔をする者は皆敵だ! 今こそ、革命を!」
主は異端を率いて、今、森の出口、結界の結び目を跨ぐ。
一方、異端の森の反対に位置する森。その前にはマジョラン家一族と領民たちが集まっていた。領民たちの前に立ち、現当主メルヴェは言霊を紡ぐ。
「皆に聞いてほしい。あそこに見える森には以前から近づかないように言っていましたね。あそこには、凶悪で、処分することも出来ない、最悪な異端たちが収容されているのです」
領民たちは驚愕する。そんなことをなぜ今まで黙っていたのか。さらに当主は続ける。
「黙っていてすみません。皆を不安にさせたくなかったのです。結界を張り、奴らが出てこられないように、私たちマジョランは見張っていました。しかし先程、異端が二匹現れ、森の結界が解かれてしまった」
当主は一度言葉を切り、領民たちを見渡す。
「力を貸してほしいのです。奴らは必ずマジョラン一族を殺しに来る。もし殺されてしまえば、愛する貴方たちを守ることは出来ない。どうか、私と共に戦ってほしい」
当主の言霊は領民の心にスルリと入り込み、心の奥に溜まる。積もり積もった言霊は領民たちから思考を奪う。
"マジョラン家の皆様が自分を必要としている"
"愛しい皆様はやはり自分を愛してくれている"
"愛しい愛しい皆様の命は己の命にかえても守ってみせよう"
"そうすれば、きっと自分を一番に愛してくださる"
狂気の群衆が出来上がった。マジョラン一族はニヤリと笑う。愚かな者共よ、目が覚めたときが見物だな。
しかし、そんな笑いも狂った目には安堵の表情に見え、彼らはさらに愛しさを募らせる。
ふと、異端の森の方から咆哮が聞こえた。当主は声を張り上げる。
「異端狩りだ!」