第十三話 狂愛
美しい妻。愛しさのあまり、この手で壊してしまった彼女。壊れてもなお、私を求めるその姿に、狂おしいほどの愛情が募る。
疑うわけではないが、どれだけ私を愛しているのか、どこまで私に従い応じるのか、試してみたかった。言霊を使うまでもなく、私の望みを叶えようとし、私の表情が少しでも曇れば捨てないでほしいと懇願する。私は、我が子を妻の愛を測る為の道具と見たことはあっても、妻を子を産ませる為の道具と見たことはない。
歪んでいるのは百も承知だ。愛しているから、異端となってさえ、私を求める君を。
哀れな娘は、私は勿論、妻からの愛情も知らない。
この子の兄姉は全て妻の私への愛情を測る為に死んだ。この秘密を知る者は他にいない。妻は子を産んでは死なせを繰り返し、日に日に壊れ、私に執着していった。
そうして産まれたこの娘は、背から羽根を生やしていた。
白に近い灰色の羽根は、我が一族の破滅の象徴。マジョランの純血の一族にしか伝えられない真実の伝承に登場する、この地の真の主。主が持つのも灰色の羽根だと言われている。このような形で遭遇するとは思いもしなかったが、この子の未来は死しかない。マジョラン一族の存続の為だ、致し方ないのだ。——そうでなくとも、この子の命は風前の灯火だったのだが。
妻に殺させてみようか。
この異端を殺せば、私の全てが君のもの、そして君の全てが私のものだ、と言って。彼女の望みは知っている。だから利用する。
今度こそ彼女は壊れるだろう。我が子を取るか私の愛を取るか。結果は既に分かっているようなものだ。彼女はきっと娘を殺す。何がなんでも。
妻は娘を異端の森へ放り込んだ。夕方、娘は帰ってきた。それからずっと屋敷中に妻の部屋から娘の泣き声と妻の金切り声が響いている。私の好きな音だ。妻の愛を感じる。
妻が娘に何を言ったかは分からない。翌日、娘の姿は屋敷のどこにもなかった。だが、あの子は生きているという確信はあった。娘を殺さず、さらに逃がした。妻にはお仕置きが必要らしい。私の望みを叶えられないなら、君の望みも叶えてやらない。床には羽根が散らばっていた。
とうとう、妻は異形のモノになってしまった。それでも私の愛を求め続ける。愛しくて愛しくてたまらない。醜く美しい妻。
「さぁ、今度こそあの子を仕留めるんだ。そうすれば、私は君のもの、君は私のもの」
森へ行った妻は帰ってこなかった。
どれだけ経っても彼女は帰らない。愛しい愛しい妻が帰ってこない。娘の生死などどうでも良い、心の中を彼女が占める。異端たちに殺されてしまったのか? 馬鹿な、彼女の身体の変化には私の言霊も使って強化しているのに。娘を憎み、私の愛が得られないのは娘のせいだと、娘が死ねば私の愛を得られると、……何が起ころうと私を愛し、私の元へ帰るようにと。
「御呼びでしょうか、旦那様」
「民に伝えてくれ」
妻を殺した異端を殲滅すると。