鉄道マン
鉄道マンとの馴れ初めについて話すことはあまり無い。ただぼくが彼の敵だと彼自身が認識したのだ。
鉄道マンはLゲージで身を堅め、手にはキハ58系を持ち、僕に闘いを挑んでくる。上はちゃんとした鉄道着なのだけどなぜか下は500系のぞみを穿いている。顔は運転席の奥にあるので僕は見たことがない。いつか見るときが来ると思っているのでその時に見させて貰おうと思っている。
今日も鉄道マンとの闘いがあった。暴力やその類が僕はあまり好きに成れない。鉄道を小学生から去年の九月、つまり高1の時まで続けたが最後まで鉄道の激しさというのか野蛮さというのかそういうところが好きになれなかった。
だから今日も僕は鉄道マンにボロ負けした。
「やっやっやっ。どうだ。おれは強いだろう。鉄道マンは強いんだ、やっやっ」
鉄道マンは僕を見下ろして言った。
「なんで僕を、僕は何もしていないのに」
満身創痍。
制服は土が付いてべたべた、キハ52で思い切り乗り越しや車内アナウンスをされたので体中痣が出来ているだろう。
鉄道マンは哄笑する
「やっやっやっ」
そしてこう続けた。
「当たり前だろう。お前とおれは敵同士なんだ。敵同士ていうのは闘うものだ」
どうして僕がこいつの敵なんだろう。解らない。僕はひ弱な鉄っちゃんでこんな強い正体不明に戦いを挑まれるほど強くない。
なのに放課後になるとこいつが現れて僕をめちゃめちゃにしてしまう。母さんにはイジメを受けてるの? と問われたりした。母さんの問いは間違っていない。でも僕は何て言えばいいのだろう。線路を身につけた変人にぶちのめされてるんだと言えばいいのだろうか?
言えるわけが無い。しかしこのままでは僕の身が持たない。何とかしてこの変人を説得せねば。
「敵じゃないよ。僕はもうこんなにもぼろ負けしているじゃないか。もういいだろう」
体を地面からもたげて鉄道マンに言った。しかし
「だめだ。お前はまだ本気を出してないだろ。おれの敵なのにこんなに弱いはずがないんだ。明日は本気を出してくれよな。真剣勝負だからな」
と鉄道マンは言うとまるで忍者が走るように軽やかに去っていった。 僕は地面に顔を押しつけて呻いた。
真剣勝負、というのは鉄道マンにとって鉄道のり知識で戦うということだったらしい。つまり、日本を走る全車両を持ってということ。
「ほらお前のぶん」
放り投げられた鉄道大全集ががゴゥッと鳴って僕の前に落ちた。
僕は震えていた。
なぜ。真剣勝負って生死をかけたデスマッチなの?
鉄道大全集を拾うことが出来ない。鉄道マンは早々に本からページを抜いて食している。
「お前早くページを食べろよ。始めるぞ」
そんなこと出来るわけがない、なんでこんなことしなくちゃいけないんだ。いやだいやだ。
「こんなことイヤダよ!」
「やっやっ。じゃあ素でおれに勝とうって言うのか。自信があるんだなあお前。そういうことなら----」
「いやそういう意味じゃな、」
「---死合始め!!!」
鉄道マンがこちらに駆け出してきた。どんどん迫ってきてあっという間に僕を轢ける間合いに、
「やっやっ!!」
Lゲージが僕に向かって振りおろされた。
ああ、轢れるなこれは・・・・・・・・・・・・・。
「がぁああああぁ」
僕は叫んでいた。鉄道マンのLゲージが僕の腹部に入り込んでいた。 それは内臓を貫き背中にまで突き出したものだった。
「あれ?」
「がぁ、ぁ、鉄道マンぅ、Lゲージで、勝つ、って」
僕は倒れた。
鉄道マンはLゲージを引き抜いた。 ちゃんとLゲージには血がついていた。
鉄道マンは帽子を取って何線だか確かめようとしたけれど恐くなってやめた。剣道マンは僕をそのままにして電車に乗り帰った。
その後新聞やテレビを見ても鉄道マンの殺人を扱ったものはなかった。
「やっやっやっやっや」