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第二話 深淵迷宮

 深淵迷宮――それは世界の創造神、アレグスによって造られた。


 アレグスは二面性、両極性を持つ神であり、この神に造られた世界は光と闇、正と邪という二面性、両極性を持たされる事となった。


 アレグスは様々な存在を造りあげたが、中でもお気に入りとなったのが人間という存在だった。


 正と邪の均衡の中、たやすく揺れ動く不安定な魂。そんな人間達をアレグスは愛した。

 そして世界は、人間を正と邪に揺さぶる仕掛けに彩られた。

 

 そんな仕掛けの最たるものが、この深淵迷宮である。

 果ても知れぬ広大無辺なる迷宮――人はここで力を求める。


 救う力、滅ぼす力。いかなる理由であれ、力を求める人間はアレグスを喜ばせた――。







 迷宮内へと転移したレイドットは静かに歩き出す。暗い通路では所々松明が燃えて道を照らし出している。アレグスの手による消えない松明だ。しかしその明かりだけでは薄暗く、物陰に潜むモノがあっても照らし出せないであろう。


「《銅の円環》《月夜の明かり・相対位置固定・安定持続》」


 魔力を乗せた《言葉》で魔法陣を呼び出し手をかざす。通路を照らす光をイメージして魔法陣を魔力で満たしていく。


「・・・《発現》」


 頭上に光球が生み出された。穏やかな月光のごとき明かりだが、満月程度の光量はあるだろう。これで少しは先を見通せる。実際、少し先に敷き詰められた石の色まで見分けられるようになった。


 魔法――それは魔力を込めた《言葉》により魔法陣を召喚し、イメージと魔力を流し込むことで行使される。呼び出す魔法陣の規模次第で強力な魔法を使うことが可能だ。


 魔法陣の規模は小さなものから鉛の円環、銅の円環、鉄の円環と続き、以降、銀、金、白金、星、月、太陽と並ぶ。

 レイドットが召喚できるのは鉄の円環までで、初級レベルの魔法陣に留まる。銀が使えれば準中級、金で中級、白金で上級、それ以降はマスター級と呼ばれる。


 単に照明を得るなら《鉛の円環》でも十分だが、長時間の持続とこちらの動きに付随するという条件付けをするため《銅の円環》を召喚した。明かりの効果は与えた魔力がすべて消費されるまで続く。


「さて、さすがに少し真面目に金稼ぎしないとな……マメにモンスター狩りでもしますか」


 通路の隅でブルブルと震えるスライムを見付ける。うっかり近寄ると酸を吐き出すアシッドスライムだ。武器での攻撃は使用武器が腐食するうえスライムの酸の体液が撒き散らされるので避けねばならない。


「《鉄の円環》《急速凍結》・・・《発現》」


 魔法陣から透き通った氷のような槍が出現し、アシッドスライムを刺し貫く。槍は一見氷に見えるが、正体は『凍結のイメージ』で変換された魔力塊だ。刺し貫いたところで物理的なダメージは与えられないが、変換された魔力がアシッドスライムを凍り付かせていく。


「《銅の円環》《叩き割る衝撃》・・《発現》」


 乾いた音と共にアシッドスライムは砕け散り、その場に何枚かのコインを残して消えてゆく。


 アレグスにより造られたモンスターは死骸を残さない。倒されたモンスターはコインと、何らかのアイテムを稀に残して消滅する。


 アレグスの迷宮貨――残されたコインはそう呼ばれている。形はいくらか楕円形で、青白く冷たい色をした鉱物から成っている。


 コインは一般には迷宮貨と呼ばれ、市場で使われる通常貨幣への換金も可能だ。迷宮貨は魔力を含む鉱物から成るため、主に魔法具の材料として扱われる。倒したモンスターの強さ次第で得られる迷宮貨も異なるため、この辺りの雑魚をいくら倒してもたいした稼ぎにはならないだろう。


「ポイントも知れてるだろうしなぁ……」


 迷宮貨を拾いあげたレイドットだが、あまり嬉しくなさそうだ。どちらかというと欲しいのは迷宮貨よりもポイントだったからだ。


 アレグスの造り出したモンスターを倒した者には、恩寵権と呼ばれるポイントが与えられる。倒した本人に何ポイント入ったかを知ることはできない。だが迷宮貨と同じく、倒したモンスターの強さに応じて増えることは明らかだろう。


 溜まったポイントの使い道として、地上のアレグス神殿において年に一度神権代行者によるポイント引き換えが行われる。ポイントを貯めた者達は神権代行者に願いを述べる。神権代行者はポイントに応じた願いを叶えてくれる。


 ただ制限はあって、戦いに役立つと認められる願いだけだ。例えば強力な武器、肉体強化、魔力上昇などで、これらにより通常の努力では届かない力を得ることが出来る。それゆえポイントをいわゆるステータス強化に当てる者がほとんどだった。


 レイドットの望みは決まっていた。かなり無理そうな願いだから、多分……いや、絶対叶えられないだろう。それでも一応ポイントは溜めておきたい。


 通路を進むと壁面に扉があった。扉にはプレートが掛けられ、文字が書いてある。


【固く 白く 笑うもの】


 レイドットはそれがスケルトンを指すことを知っていた。アレグスは奇妙なユーモアを持っている。迷宮に挑む冒険者にヒントを与えるのもその一つだ。


 扉を開けて中に入ると、待ち構えていたように奥からスケルトンが迫って来た。その数、三、四……五体。


 ――パタン


 レイドットは何事も無かったように部屋から出て扉を閉めた。


「…………」


 部屋の中からスケルトンの無言の抗議が聞こえた気がしたが、レイドットは構わず扉から離れて歩き始めた。スケルトン二体なら魔法で簡単に倒せる。しかし三体目からは危険かも知れない。


 レイドットは《鉄の円環》までしか呼び出せない。スケルトン一体なら一発で倒せるが、複数を一度に倒すなら魔力を大量に消費する範囲魔法が必要になるだろう。鉄の円環ではそれに必要な魔力を扱えない。


 幸い戦わず部屋から出てしまえばモンスターの追撃はない。ただし中で戦闘行為を行った場合、一定時間結界が張られ部屋から出られなくなる。出るには時間を待つか、モンスターを倒さなくてはならない。


 結局この日の稼ぎは迷宮貨が八十ニ枚。ドロップアイテムは回復系の薬品類が七個、ナイフが二本だった。ギルド受付に帰還報告を出し、貯めていた七日分の迷宮貨を通常貨幣に交換する。


「迷宮貨の交換ですね、では測定します」


 受付の係がレイドットから受け取った迷宮貨を大きなトレーに乗せる。専用の測定魔法陣が刻まれたそれは、即座にそれぞれの魔力を測定する。


「魔力値Hランクが三百八十二枚、Gランクが百九十一枚。今のレートだと合計銀貨十三枚と銅貨三十七枚になりますがよろしいですか?」


 承諾し、銀貨と銅貨を受け取る。


 貨幣価値は銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨五十枚で金貨一枚、金貨十枚で白金貨一枚だ。


 迷宮貨は魔力濃度によりランク分けされている。今のレートだとHランクなら一枚で銅貨一枚、Gランクなら一枚で銅貨五枚。これが最低のJランクだと百枚で銅貨一枚という低い価値しかない。迷宮の一層から五層まではJランクしか出ないため、これでは小遣い稼ぎなどしても割が合わない。

 だいぶ上のAランクだと一枚で銀貨十枚。Aの上にもAA、AAAとあり、現在最高のSランクに至っては一枚で白金貨十枚の価値だ。迷宮深層において稼げる実力があれば、かなりの稼ぎが可能である。


 ただしギルドに納めるカネも高額になるうえ、それなりに値の張る装備も必要になるだろう。深層に潜る冒険者のほとんどが強力な魔力付与アイテムを装備するが、これがまた恐ろしく高額であるうえ消耗品である。


 レイドットはそんな深層に潜ろうとは考えない。今月も生活費諸々を賄えるだけの稼ぎは得られそうだ。多少貧しい食生活にはなるかも知れないが。




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