5・学ランで過呼吸
たまに異常に俺に興奮しているが、それ以外はきわめて花坂さんは平穏なストーカーに徹している。
この間は、花坂さんは他クラスのイケメンの内藤くんに告白されていた。やはりひそかに男子人気が高い。
内藤くんは、いい人そうだ。
告白を断る理由がない。
俺へのストーカーも終わるのかと思っていたが。
「好きです、付き合ってください」
「すみません、既に好みの人が居るので」
「好きな人が居ないなら………」
「好みの人が居るので」
内藤くんは儚く散った。
人の好みというのは、千差万別だ。
普通なら内藤くんの彼女になるが、花坂さんは俺のストーカーであることを選んだ。稀有な人だ。
でも何となく嬉しかったのは、……多分、気のせいだ。
いや、花坂さん、可愛いし。
その子が離れると思ったら、残念だと思っただけで。
一般的な男子高校生なら、当たり前だ。
いつも通り支度を済ませて、家を出た。
玄関の扉を開けた。
「おはよう、花坂さ………」
「キャァァァ、学ランんんんん!!!!!」
花坂さんが、失神しかけた。
………まるで推しのアイドルを前にした熱烈なファンみたいな反応をされたが、俺は平平凡な顔立ちの男でかつ、彼女は同級生である。
間違っても、この反応はおかしい。
花坂さんは鞄で顔を隠して、チラチラと俺を覗く。
俺が近付くと、後ずさった。
……嫌われてるのか?
「花坂さ……」
「そろそろ来るかなとは思ってた最近寒くなってきたしね衣替えの季節だよね学校でも学ラン着る男子増えたし、永瀬くんカッコいいぃ!!!」
すげえな。俺のこと見ても、誰もその結論には至らないと思うよ花坂さん。
眼鏡の度数上げた方がいいと思うよ。
まあ、嬉しいけど。
「………じゃあ、行こう。今日こそ、一緒に話しながら並んで歩い……」
「3歩後ろから永瀬くんの御身を護らせていただきますね」
花坂さんが笑顔でぶったぎり、ちぇ、と地面の小石を蹴る俺。
どうにかならないかな、ストーカーポリシー。
毎日めげないで誘う、俺も俺だが。
「あ、でも話しかけていいですか?」
来たコレ。ようやく、ストーカーポリシーの規制が緩和されたぞ。
俺はほくそ笑んだ。
「やっぱり一緒に並んで歩……」
「後ろは任せてくださいね!もし永瀬くんの背中にどんぐりが降ってきても、弾き落とせますからね!安心して私の前を歩きなさってください!」
そんなシチュエーションないと思うよ?
またフラれた。
俺が前を歩き、ちょうど3歩後ろに花坂さん。
「話しかけますね」
「ん」
顔が見えない。おかしい。
「あのですね、私は永瀬くんのこと、パリコレモデルみたいに思ってるんですよ」
頭イカれてんのか。
「そして、私的に永瀬くんの一番のどタイプなところは首の長さなんです」
さようですか。喉仏といいコンプレックスだったので、そう言われるとちょっと嬉しい。
「だから、永瀬くんが学ランを着たら、私には目に毒なんです。………似合いすぎて」
その意見に共感できる人、地球上のどこにも居ないと思うよ花坂さん。
やっぱり目がおかしいよ。
はあ、とため息が聞こえてくる。
「だから、学ラン姿の永瀬くんを迎えいれるには、心の準備が必要だったんです………」
「花坂さん……」
「何で予告してくれなかったんですか!私のこと心臓発作でコロス気ですか!?考えたら分かりますよね!?」
「そんな人居ると思わなかったからだよ!当たり前だよ!」
病院連れて行った方がいいぞコレ。
脳神経内科か、精神科か迷う。
「カッコいいです。永瀬くん、死ぬほどカッコいいです」
「……お、おう……」
「まだ気付いてる人はそんなに居ないみたいですけど、私はいつ永瀬くんのカッコ良さに気付いてモーションかけてくる女子が現れるのかとハラハラして授業もまともに聞けません」
真面目に聞け。そして、そんな女子は悲しいことに花坂さん以外居ない。
「永瀬くん、永瀬くん」
「は、はい」
「他の女子にあんまり優しくしすぎたら、駄目だよ?永瀬くんカッコいいからすぐに惚れられちゃうよ。そしたら私みたいなストーカー沢山出てきて血みどろの戦争になってこの世界に悲しい争いの種が撒き散らされちゃうからね。普通だよ、普通にしとくの。でも普通にしてても、永瀬くんカッコいいから、きっと狙われちゃうね。どうしよう、永瀬くんが学ランなんて着るから悪いと思うの。黒詰襟を日本で最初に学生服として採用した東京帝国大学が悪いよ。現代にこんな悲しい学ラン戦争を巻き起こしたんだからね……」
「…………」
来年の秋は、花坂さんにちゃんと学ランの着用を予告しようと思った。




