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3・盗撮は許可制

花坂さんがストーカーになって1週間が経ったが、朝の付き纏いくらいで、学校生活での花坂さんは今まで通りだ。


大人しい姿を見ていると、俺の前で饒舌に喋る様子とのギャップが激しいので、びっくりする。

どっちも可愛いから、いいか。


「花坂さん、帰ろう」


「ありがとうございます永瀬くん。私がストーカーだとバレないようにこうして皆んなの前で堂々と誘うことで私が永瀬くんと歩いていることを不自然に思わせないお気遣いありがとうございますっ」


「いや、普通に花坂さんと帰りたいと思ったから、誘ったんだけど」


「では私は永瀬くんの10歩後ろを歩かせていただきますので」


堂々と言い放つ花坂さん。自分の意見を口にするのを躊躇っておどおどしている教室内の彼女と、乖離が激しい。


「えっと、いい加減俺の隣で歩いてくれませんか?」


「そんなっ、畏れ多いので遠慮します」


くそう。また女子と話しながら下校するチャンスを逃した。


そして初日は5歩後ろだったのに、何で増えてるんだ。ストーカーなら、寧ろぐいぐい来いよ。距離が遠いよ。


俺は仕方ないので、諦めて1人で歩き出す。

花坂さんは一定間隔を保って俺の後ろをつけていた。


こうなったら、彼女のストーカーポリシーだか何だか知らないが、俺から話しかけても無言なのでつまらない。ちぇ、と思いながら、歩いていると、ぬっと花坂さんの顔が隣にあった。


「永瀬くん」


「うおっ、びっくりした」


ビビったぜ。

気配がまったく無かった。


「盗撮していいですか」


花坂さんは、スマホを構えていた。

許可を取ってる時点で、盗撮ではないと思うんですが。


「……えっと……うん、まあいいよ」


「ありがとうございますっ!」


特に断る理由もなかったので許可を出すと、花坂さんはぱあっと顔を輝かせた。眼鏡の奥の黒曜石の瞳が、キラキラとしていた。


この子、俺のこと撮って嬉しいんだ………


俺は平平凡な顔立ちしかしてないので、イケメンでなく俺を選ぶあたり、花坂さんの感性は謎である。


「ではお写真撮らせていただきますねっ」


スタジオか。


俺が要領が分からずスマホの方を向けばいいのかと思っていると、花坂さんから指導が入った。


「いえ、永瀬くんは普通にしていただいてて、大丈夫ですよ!勝手に撮りますから!あくまで日常のスナップ写真が欲しいんです!」


なるほど、盗撮だ。


俺の前、横、後ろ、と無作為のタイミングでシャッターを切る花坂さん。

全方位カバーされていた。腕の立つカメラマンだ。


「うへへ」


花坂さんはまた俺の10歩後ろに戻った。

スマホでたった今撮った写真を満足そうに見返している。よだれでも垂れそうなほど、口元が緩みまくっていた。


見ようによってはなかなかヤバい変質者だが、俺のことが好きだと思えば嬉しさが勝つ。

……あくまで俺の造形が好きで、俺本人を好きとは言われてないけど、俺は考えないことにした。


ふと、俺は気になったことを訊いてみる。


「ソレ、何に使うの?」


「……………」


花坂さんは、黙った。目からハイライトが消えていた。


「永瀬くん」


「はい」


「世の中には真実を知らない方が幸せなこともあるんだよ」


「…………、なるほど」


何かあまり良くない使い方をされる予定らしい。

花坂さんは口を割りたくないと、ひしひしと拒絶のオーラを現していた。


「永瀬くんは、どこまで許容できますか」


何に使われるんですか俺の写真。


「……個人的利用なら。俺に社会的なダメージが無ければ大丈夫」


「ありがとうございますっ!」


俺が考えた末に、著作権みたいな適用範囲を提示すると、花坂さんは大満足の顔をしていた。


何に使われるんだろうか。

個人的利用………


「夜、じっくり眺めますね………えへへっ」


「…………ウ、ウン」


俺はかろうじて頷いた。


夜………

……もし俺の写真で花坂さんが……してたら、興奮するなぁ………。


俺の方がよほど、ヤバい思考回路をしているのかもしれなかった。







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