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4.はじめての売買 と 商人マオ

街の入口近く、簡易な屋台が並ぶ一角がある。


その中でもひときわやる気のなさそうな屋台──布で適当に覆われた机の下には木箱が乱雑に積まれ、そしてその机の上には“人”が一人、突っ伏していた。


「マオー、生きてるー?」


ヤヨイが屋台の前で声を張る。


「……んあ……誰や……」


机の上にだらしなく頭を乗せていた少女が、ゆっくり顔を上げた。


くすんだ黒髪が肩のあたりでふわりと広がり、手入れされていない自然な乱れがそのまま残っている。前髪の隙間から半分閉じた糸目がのぞき、だらしなく締まりのない口元にはまだ寝ていたいという強い意思がにじんでいた。


だが着ている服は質が良さそうで、ほころびてはいるものの、もともとは裕福な家の娘が着るような仕立てだった。


「……ヤヨイか。元気やなぁ、朝から」

「うん、元気! ほら、新しいお客さん連れてきたよ」


ヤヨイに背中を押され、リューは一歩前に出た。


「あ、あの、はじめまして。リューといいます。キノコを買い取ってもらえないかと──」

「キノコ?」


その単語が出た瞬間、マオの糸目がほんの少しだけ開いた気がした。


「……見せて」


手だけをずるっと伸ばしてくる。その動きは怠そうなのに、指先だけはやけに素早い。リューが袋を差し出すと、マオは中身をざっと確認した。ひとつつまみ上げ、形と色を見て匂いを嗅ぎ、傘の裏をちらりと確認する。


「……ふん」


短く鼻を鳴らした。


「まあまあやな。傷も少ないし、数もある。銀貨一枚」

「えっと、その……」

「銀貨一枚。それ以上でも以下でもない」


ぴしゃりと言い切られる。


(交渉の余地ゼロだ……)


だがリューには相場が分からない。安いのか高いのかすら判断できない。


「マオさん、銀貨一枚って、ちゃんとした値段?」


ヤヨイが首をかしげる。


「足元見てぼったくるほど、うちも暇ちゃうねん。串焼き屋に卸したら、まあ銀貨一枚とちょっと。手間賃引いたらこんなもんや」

「だってさ。よかったね、リューさん!」


ヤヨイがにこっと笑う。サヨも小さく頷いた。

その一言で、リューの不安はすっと軽くなった。


「じゃあ、お願いします。買い取ってください」

「……はいはい」


マオは机の下の木箱から小さな革袋を引き出し、中から銀貨を一枚つまみ出すと机の上にころんと転がした。


「ほれ。これで取引成立」


リューは震える指でそれを拾い上げた。

冷たいはずの銀貨が、指先の温度でじんわりと温まっていく。


(……これが、俺の……)


孤児院を出てから、日雇いのつぎはぎみたいな仕事はしてきた。だが、それは全部、指示されたことをこなしただけだった。


今、手の中にある銀貨は、自分で考えて森に入り、自分で見つけてきたものの対価だ。


「……ありがとうございます」


自然と口から言葉がこぼれた。


「礼はええよ。儲かる話なら、いつでも持ってきぃ」


マオは大きなあくびをして、また机に突っ伏した。


「ほな、うちは……寝る」

「昼間なのに?」

「夜も客来るねん。体力温存や」


言い訳か本音か分からないが、そのいい加減さが妙に嫌いになれなかった。


「マオさん、また来るね!」


ヤヨイが手を振る。


「……サヨ。ちゃんと食べてるか?」


マオは半分閉じた目をほんの少しだけ開き、サヨに視線を向けた。


「……うん、だいじょうぶ」

「……なら、ええ。でも無理すんなよ。しんどい時は……ちゃんと誰かに言いぃ」


サヨは小さく頷き、ほんの少しだけ頬を緩めたように見えた。


(眠そうなのに……マオさんは、なんでこんなにサヨさんのこと気にしてるんだ?)


リューの胸の奥に小さな疑問だけが、そっと残った。


「こういうお話、好きだな」と感じていただけたら、

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