11.ヤヨイの裸に向き合う
朝日が差し込むと同時に、リューは目を開けた。
天井の穴からこぼれる光が、床にゆらゆらと揺れている。
ウィンド領で迎える、四日目の朝。
床は固い。背中は痛い。家は寒い。
だけど──水筒には川の水が入っている。
(……昨日は、本当に……いろいろ大変すぎた……)
水をひとくち飲むと、体の奥がすっと落ち着いていく気がした。
(さて……まずは状況を整理しよう)
持ち物を確認する。
・水筒
・ポケットに入る小さな布袋
・銅貨が数枚(串焼きのおつり)
・ボロ家(風通し抜群)
(……装備、弱すぎるだろ)
何度確認しても、現実は変わらなかった。
(問題は食料……キノコも薬草も運ゲー。となると……やっぱ農業か?)
ウィンド領の村人がやっているのは農業だけ。
二日で育つ“カブ”が主食らしい。
(でも俺、農業なんて……やったことないし。道具もない)
悩むほど胃が鳴いた。
(情けないけど、ヤヨイかサヨに……相談、するしか……)
そう思った瞬間、昨日のサヨの泣き顔が鮮明によみがえった。
(サヨ……誤解、解けたのかな……)
サヨのことを思い出すと、胸のあたりがきゅっと締めつけられる。
(でも……二人とも、本当に……優しかったよな)
そう思いながら、二人の姿を思い浮かべる。
ヤヨイ。
栗色のセミロングの髪は陽の光で橙色に輝く。
笑うと頬がふわっと赤くなる、愛嬌のある女の子。
明るい。快活。よくしゃべる。
距離感ゼロで、初対面でもガンガン話しかけてくる。
そして──昨日。
水浴びしているところに、俺は……。
(……ヤヨイのお尻……綺麗だったな……。おっぱいも……)
思い出した瞬間、顔が熱くなる。
「…………おっぱいも……柔らかそうだった、よな……」
小声でつぶやいた、その時。
「──柔らかいよ? 自分で言うのもなんだけど!」
「うわああああああああああ!!?」
跳ね上がって振り向くと──
そこには、太陽みたいに明るい笑顔のヤヨイが立っていた。
「おっはよ〜リューさん! 今日も元気そうだね!」
「い、いやいやいやいやいや!?
えっ!? いまの聞こえてたの!?いつからいたの!?」
「“おっぱい柔らかそう”のところから、ばっちり!」
「死ぬ!!!!」
家の中に悲鳴が響き渡る。
ヤヨイは、頬を赤くしながらも腕を組んでいう。
「ねぇリューさん……昨日のこと、そんなに思い出してたの?」
「いやいやいや違う違う違う!!思い出したというか……その……なんか……!」
語彙力が死んだ。
ヤヨイは顔を赤くしながら、じと〜っと俺を見る。
「ふぅん……。じゃあつまり、リューさんは──」
ヤヨイがぐいっと顔を近づける。
「“ヤヨイのお尻とおっぱいが忘れられない!”
……ってことで、合ってる?」
「ぎゃあああああああああ!!!」
床を転げ回るリュー。
ヤヨイは、怒っているわけではない。
が、顔は真っ赤で、耳まで熱く染まっている。
「も〜……からかうとおもしろいんだもん、リューさん」
「人の命を削りながら遊ぶのやめて!!」
「ふふん♪」
無邪気に笑うが、耳の赤さはまったく隠せていない。
「……まぁ、その……昨日のこと、怒ってないよ。裏口の鍵もかけずに水浴びしてた私も悪かったし……リューさんが悪い人じゃない、ってのも分かったし……」
「そ、そうなの……?」
「うん。あんな状態でも、変なことしようとしなかったしね」
「その基準どうなの!? ゆるすぎない!?」
「それに……私なら、まあ……見られても……その……」
言い終えるころには、頬が真っ赤になっていた。
ヤヨイは話題を変えるように、ぱん! と両手を叩いた。
「さてっ! サヨの誤解なんだけどね!」
「そ、そうだ! サヨさんは……!」
「昨日のうちに、私が説明したよ!
“リューさんはエッチだけど変態じゃないから安心して”ってね!」
「言い方ぁ!!」
「いいじゃんいいじゃん〜。サヨもね、半分くらいは信じたと思う!」
「半分……」
まだ怖がられている未来が見えた。
しかしヤヨイは胸を張る。
「でもね、誤解が完全に解けるまでは、私がフォローするから!」
その笑顔は、眩しかった。
「……ありがとう、ヤヨイ」
「えへへっ」
「で、えっと……その……なんで家に?」
「サヨに説明してたらね、その話をお母さんに聞かれちゃって」
「え、アカネさんに!?」
「うん。“これからも長く付き合っていくんだから、事故とはいえ裸見られたことはちゃんと本人と向き合って、わだかまりを無くしてきなさい”って言われて……」
お母さん──ウィンド領長アカネさんに、ヤヨイの裸を見たことが伝わった?
領長とは、領主様の次にこの土地で権限を持つ人。村の運営を任されている事実上のトップ。その人にバレたのだ。
アカネさんの厳しい表情が頭をよぎり、リューの足ががくがくと震えた。
「で、どうなの? 昨日のこと?」
「は、はい!」
リューは思わず背筋を伸ばしてしまい、ぎこちなく返事をした。
ヤヨイは視線をそらし、指先でもじもじと髪をいじりながら続けた。
「……その……水浴びのとき……私の裸、見ちゃったんだよね……? ……その……お尻とか……おっぱいとか……」
「わああああああ言わないでぇぇ!!」
「私だって恥ずかしいんだからね!? でも、大事なことだから、ちゃんと向き合わないと!」
「アカネさんの言う“向き合う”って、たぶん、そういう意味じゃないと思うよ!!」
家の中で、朝からおかしなテンションが続く。
「……ねぇリューさん。やっぱり、あの……見たのかな……お尻とか、おっぱいとか……だけじゃなくて……その……女の子の一番大事なところも……」
「!!!!!?」
リューの思考が一瞬で停止した。
「な、な、ななななな……!!?」
「ほら、言ってみて?正直に。誤魔化したら怒るよ?」
「い、いや、それは……その……」
桶の水に反射して、ヤヨイのぷっくりとした割れ目、オ〇〇コがはっきり見えてしまった光景が脳裏で再生される。
ヤヨイは両手の人差し指をちょんちょんと突き合わせ、上目遣いで恥ずかしそうに聞いてくる。
「ど、どうなのかな……見た……の……かな?」
(……かわいい……)
胸がどくんと跳ねた。
「…………見ました……見てしまいました……すみませんでした!!」
「っっ~~~!!!」
ヤヨイの顔が、沸騰するように真っ赤に染まった。
「な、なんで正直に言うのそれぇぇぇぇぇ!! ばっかじゃないの!? ほんとに!!」
「正直に言えって言ったの、ヤヨイだろ!」
「言ったけどぉぉぉ!! そうだけどぉぉぉ!!」
床を踏み鳴らしてバタバタ暴れるヤヨイ。
恥ずかしすぎて泣きそうな顔をしている。
「ふええ……リューさんのばかぁぁぁ……!!」
「ご、ごめん! ごめんなさい! 全面的にオレが悪かったです!」
「でも……そうなんだ……。やっぱり、ぜんぶ見られてたんだ……。
うぅ……だったら、これはもう……」
ヤヨイは小さくつぶやき、真っ赤な顔で視線を落とす。続けて何かを言いかけたようだが、声が小さすぎて聞こえなかった。
リューは思わずため息をつき、正直に答えたことを激しく後悔した。
これはもう嫌われたに違いない、と思った、その矢先──
「で! 今日どうするの? 食料とか!」
突然、距離ゼロの笑顔でヤヨイが顔を寄せてきた。
「私、いろいろ教えてあげるから!」
「え、うん……本当に助かる。頼もしすぎる……!」
「ふふーん! リューさんには、頑張ってもらわないとね!」
「???昨日も今日も……ありがとう。マジで助かってるよ」
「……どーいたしまして!」
ヤヨイは嬉しそうに笑った。リューには、どうして急に笑顔になったのか分からなかったが── その笑顔はただまっすぐに眩しくて、素直に「かわいいな……」と感じた。
こうしてウィンド領で迎える、四日目の朝が始まったのである。
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