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1.無一文 と ヤヨイとサヨ

「……だ、だまされた、のか?」


リューは、泥道に膝をついていた。


ここは辺境の街ウィンド領の入口。

手の中には、一枚の紙切れ。


『新天地で第二の人生を! 開拓団募集! 住宅・畑・生活保証つき!』


つい数日前まで、これは希望の紙だった。孤児院を出てから、ろくな仕事もなく、流れ流れてたどり着いた“チャンス”。


──だったはずなのに。


「……全部、取られた……」


荷物も、金も、何もかも。集合場所にたどり着いたときには、それらを預かると言っていた連中は、きれいさっぱり消えていた。

残されたのは、紙切れと、無一文で空腹のこのひ弱な身体だけ。


「うわ、本当にいた。サヨ、ほら見て。お母さんが言ってた“詐欺に引っかかった人”って、この人じゃない?」


急に、明るい声が飛び込んできた。

顔を上げると、二人の少女がこちらへ駆けてくる。ひとりは肩までの栗色の髪がふわふわ揺れる、笑顔の眩しい少女。もうひとりは黒髪をまとめ、少し距離を空けて立つ、大人しそうな少女。


栗色の方が、勢いよくリューの目の前にしゃがみ込んだ。


「ねえねえ、あなた、開拓団に応募した人でしょ? ここに来たら誰もいなかったとか、そういうやつ?」

「あ、えっと……はい。そう、です」


近い。顔が近い。大きな瞳がじっとこちらを覗き込んでくる。


(……かわいい……)


脳内で最初の感想がそれだった。気づけば、心臓の鼓動が一段階早くなる。

後ろに立つ黒髪の少女も、よく見ると整った顔立ちをしている。静かで、物憂げで、どこか儚い雰囲気。


(……この子も、きれいだ……)


到着して一分も経たないうちに、リューはもうこの領の女子二人を好きになっていた。チョロいとか言われたら反論できない。


「やっぱり! 最近すっごく多いんだよ、その詐欺。ねえ、全部取られちゃった?」


栗色の少女が、ためらいゼロで聞いてくる。


「……はい。荷物も、金も……全部、です」

「うわー、マジか。徹底してるなあ、悪い奴ら」


彼女は大げさに肩を落として見せたあと、ぱっと表情を明るくする。


「あ、自己紹介してなかった! 私はヤヨイ。このウィンド領で宿屋の手伝いしてるよ。そっちは──」


ヤヨイは屈んだまま、首だけ回して黒髪の少女をちらりと見た。


「こっちが、妹のサヨ!」


サヨは、リューと目を合わせないまま、ほんの少しだけ頭を下げる。


「……サヨ……です」


それだけ。必要最低限。

けれど、その短い声が、妙に耳に残った。


「で、あなたは?」

「えっと……リューっていいます。あの、その……王都の孤児院で」

「王都!? すごっ! やっぱり都会の男の子って雰囲気ちがうよね! なんか落ち着いてるし、声も大人っぽいし!」


ヤヨイは、勝手に納得してひとりで盛り上がる。


(いや、全然落ち着いてないんだけどな……)


胸の中では、さっきからずっとバクバクしている。

気づけばヤヨイの顔がずいっと近づいてきていた。至近距離でのぞき込まれ、息が止まりそうになる。

しかも、かがんだ姿勢のせいで服の胸元がゆるみ、ちらりとおっぱいの谷間が見えた。


(や、やめて……そんな無防備な……)


あわてて視線をそらすと、少し離れて後ろに立つサヨと目が合った。


黒髪の、静かな雰囲気の少女だ。華奢な体つきなのに、おっぱいだけ妙に主張が強くて──ふわっとした胸元が目に入った瞬間、リューの心臓はさらに跳ね上がる。


「っ……!」


サヨはビクッと肩を震わせ、胸元を腕で隠しながら一歩あとずさった。

まるで「見ないでください……」と言いたげに。


「サヨ?」


不穏な気配を感じたのか、ヤヨイが後ろを振り返る。サヨの様子を確認してから、リューの方へ向き直り、真剣な顔になる。


「サヨは男の人苦手だからさ。リューさん、変なことしたらダメだよ?」

「し、しませんって!」


あまりの早口に自分でも驚き、逆に怪しく聞こえていないか不安になる。

その時、サヨの後ろのほうから、少し厳しめの声がした。


「何の騒ぎだい。こんな街の入口で、立ち話なんかして」


リューが顔を上げると、街のほうから一人の女性が歩いてきていた。赤い髪をきっちりまとめ、腕を組んだままこちらをじっと見据えている。表情はきつく、眼光も鋭い。


アカネ。街で唯一の宿屋「ウィンド宿」の女将にして、ウィンド領の領長だ。


「お母さん、この人ね、例の詐欺に引っかかったんだって」

「またかい」


アカネは、これでもかというほど深いため息をついた。


「……最近多いとは聞いてたけど、本当に後を絶たないね。いいかい、あんた」


すっとリューに視線を向ける。


「世の中には、騙す方が悪いって言葉がある。でもね、この辺境で生きるには、騙される方も悪いんだよ」


ずばっと言い切られ、リューは思わずうつむいた。


「……はい。軽率でした」

「軽率って自覚があるだけ、まだマシだね」


アカネは肩をすくめる。


「で、今あんたは無一文。武器も、荷物もない。この辺りは盗賊も出るし、すぐそばには魔の森。そんな場所を若造がひとりで歩けば──生きて帰れないよ」


言葉は厳しい。でも、そこに嘲りはない。ただ事実を告げているだけの口調。


「……でも、死にたくないなら、立ちな」


アカネはふっと目を細めた。


「この領に、まったく居場所がないわけじゃない。ヤヨイ、サヨ。例の空き家に案内しておやり」

「うん!」

「……分かった」


ヤヨイがリューの腕をぐいっと引っ張る。


「さ、行こう! 立てる? ふらふらしてない?」

「あ、はい。大丈夫、です」


本当は足元が少しふらついていたが、ヤヨイに引かれるまま歩き出した。


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