プロローグ
キーンコーンカーン。
チャイムの音を合図に二年四組の生徒たちは、ガヤガヤしながらも着席した。
いつもと変わらない朝の光景。少し遅れて担任が教室の前の扉をガラリと開け、「おはようございまーす」と入ってくるのもいつも通り。
「起立」
クラス委員長の号令で一斉に立ち上がるが、今日はなぜか担任の後ろに三人ほど知らないスーツ姿の人達がいた。
「おはようございます」
生徒の挨拶にその人達もペコリと頭を下げる。そしてその顔は生徒を安心させようとしているかのような、にこやかな笑顔だった。
「はい、全員いるね」
三人に集まる注目を自分自身に向けるように担任が声を出す。
「今日はお客様がいるんですが、先に一つだけ。このクラスが異世界修学旅行に当選しました。おめでとう!」
「……は?」
教室内に響いたのは歓声ではなく、クラス委員長鈴木の困惑した声だった。
異世界修学旅行。
毎年ランダムに全国の高校から3つのクラスが選ばれ、異世界へ一週間の旅に送り出される謎に満ちた国の企画。
しかし「二年生は異世界修学旅行の対象になる可能性がある」と言われるだけで、詳細不明。
日本のどこの高校生が行くのか、行ったのか、どんな体験をしたのかも公表されず、全てが謎に包まれているので「本当にやってたの?」というのがまず最初の感想。
そして――
「今から? は!?」
「異世界に一週間って、いきなり言われても」
「俺バイトあるんすけどー」
「期間は転移先により異なり、今回は5日間です。異世界修学旅行を開始してから今年で10年目になります。毎年全国から3クラスを対象にしているので、これまでに27クラス、約800人ですかね。経験者がいますので安心してください」
「聞いてない! そんな話は聞いてない!」
何やら準備をしているらしい二人と、質問に答える雰囲気だけで答えないスーツ一人との押し問答。
「何も心配ありません。これまでの10年で皆様の環境は整えられ、かなり快適なものになっています。ああ、教室から逃げようとしても無駄です。
廊下にも部下が待機していますので」
「加藤がやられた!」
「俺バイトあるんすけど!!」
「ちょ、横暴だーー」
「先程も申し上げましたが10年で親切過ぎるほどに環境が改善されました。あちらへ到着しましたらまず『メニュー』と唱えてください。そちらで色々と確認することができます。これは皆様を地獄へ落とすためのものではなく、様々な経験を通して人間性を育むための研修です。どうぞ楽しんでください」
準備が終わったのだろう。スーツ三人と担任が教壇の前に揃った。
「私も行きたかった。せっかくなんだから楽しんでおいで」
「先生、それ100%他人事だから言えるセリフじゃん!」
「最後にもう一度だけ。あちらへ到着しましたらまず『メニュー』と唱えてください。それでは2年4組の皆様、異世界修学旅行の当選おめでとうございます。いってっらっしゃい」
「拒否権はーーーーーーー」
教室内に強い光が溢れ、誰かの声が遠のいていく。
強制的に意識を失わせられているような、強く引っ張られているような感覚がして、最後にそれがグルリと反転した。




