第四章 もうひとりの『やり直した者』
――運命は、抗えば抗うほど、形を変えて迫ってくる。
そんな風に思い始めていた。
彼女を救いたい。死なせたくない。ただ、それだけなのに。
放課後の屋上に、僕は立っていた。
風が冷たくて、春だというのに凍えるようだった。
ここが、“最初の結末”が起きた場所。
だけど、今日も彼女は来なかった。無事でいてくれた。それだけでよかった。
それなのに。
「お前、もしかして……やり直してるだろ」
背後から、静かな声が降ってきた。
振り向くと、そこには──風見颯真が立っていた。
その表情は、いつもの明るい彼のものじゃない。
まるで、何もかもを知っているような目だった。
「……なんのこと?」
とぼけるしかなかった。僕がやり直していることは、誰にも話していない。
というより、“どう説明していいか分からない”。
でも、彼はすぐに言った。
「俺も、やり直してる。今で……四回目だ」
思考が止まった。
「……は?」
「お前と同じだよ。最初は、ただ“巻き戻った”。でも、何度やっても、如月ひよりは──死ぬ」
風見の顔から、表情が消えていた。
「俺、彼女のことが好きだったんだよ。いや、“今も”だ。だから、救いたくて何度もやり直してる。でも……無理だった」
信じられなかった。でも、彼の言葉には妙な説得力があった。
「俺たちがやり直してるのは……偶然なんかじゃない。たぶん、彼女自身が“そうなる運命”なんだ」
「やめろ」
思わず言い返した。
「俺は……彼女を、救えると思ってる」
「なら、証明してみろよ」
風見はそう言って、屋上を去っていった。
その背中が、あまりにも遠く感じた。
(……他にも、やり直してる人がいる。しかも彼はもう、何度も失敗してる)
怖かった。
自分も同じように何度繰り返しても、結末を変えられないかもしれない。
それでも──
(僕はあきらめない。彼女を救えるのは、“僕だけ”だ)
そう信じたかった。
その夜。僕は夢を見た。
校舎。屋上。ひよりが落ちていく。
無数の時間が重なって、いくつもの“彼女の死”が押し寄せてくる。
そして──
最後に、真っ白な空間で、ひよりが立っていた。
「ねえ、ユウトくん。どうしてそんなに、私に優しくするの?」
彼女の瞳には、深くて暗い夜が映っていた。
「私はね、救われたくなんてないんだよ」
その言葉で、目が覚めた。
冷や汗をかいていた。息が苦しい。
(……彼女は、本当に“助けを求めている”のか?)
僕のやり直しは、ただの自己満足なんじゃないか。
その疑念が、僕の胸を締め付けていた。