表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/41

17.守護者の覚悟

カイト視点です。

翠の瞳が、朝もやの向こうを見つめていた。

カイトは王立魔法学院の最上階、自室の窓辺に立っていた。

昨日からの出来事が、まだ鮮明に脳裏に焼き付いている。


レインの救出。

三つの宝石の共鳴。

そして、運命の檻からの解放。


全ては、聖女の出現から始まった変化だった。

パールという聖女の存在が、彼らの世界に新しい風を吹き込んでいる。


「カイト様」

執事が、ノックと共に声をかける。

「陛下がお呼びとのことです」


王からの召集。

それは、昨夜の出来事が、既に王の耳に入っているということ。

カイトは深いため息をつく。

今までのように、形式的な報告では済まされない。

全てが、大きく変わろうとしているのだから。


***


玉座の間に向かう途中、アレクサンダーとすれ違った。

王太子の赤い瞳には、いつもの冷静さが欠けている。

彼もまた、変化を感じ取っているのだろう。


「カイト」

アレクサンダーが足を止める。

「昨夜の件、詳しく聞かせてもらおう」


「レインの救出は成功し」

カイトは簡潔に答える。

「その後の儀式で、世界の在り方が変わりました」


「世界の在り方、か」

アレクサンダーの声には、僅かな苛立ちが混じる。

「何故即座に報告しなかった」


カイトは黙って窓の外を見る。

クリスタリア王国の首都が、朝の光に輝いている。

この景色は変わらなくても、もう何も同じではない。


「私たちは」

カイトが静かに告げる。

「もう、決められた道筋には従わないということです」


その言葉に、アレクサンダーの表情が変わる。

王太子として、常に正しい選択を求められてきた彼にとって、その意味は重い。


「カイト様、陛下がお待ちです」

侍従が再び声をかける。


「分かっている」

カイトは歩き出す。

背後でアレクサンダーが何かを言いかけたが、その声は聞こえないふりをした。


今は、自分の覚悟を、王の前で示さなければならない。

エメラルドの守護者として。

そして、変わりゆく世界の証人として。


***


玉座の間の重厚な扉が開かれる。

カイトは静かに進み出る。

王の前でひざまずきながら、昨夜からの記憶が蘇る。


パールの決意。

三つの宝石の共鳴。

そして、彼女の中にある、確かな光。


「カイト」

王の声が響く。

「昨夜の異変について、説明してもらおう」


カイトは顔を上げる。

王の表情には、怒りよりも深い懸念が浮かんでいた。

百年に一度の聖女の出現。

その意味が、誰の予想とも違う形で現れ始めている。


カイトは真摯に語り始める。

「レインの暴走を、聖女様と、三つの宝石の力で抑えました」


「三つの宝石が同時に」

王の声が低くなる。

「それは禁忌のはずだが」


カイトは、その言葉に静かに首を振る。

「禁忌とされていたのは、ただの思い込みだったのです」


その瞬間、玉座の間の空気が凍りつく。

だが、カイトは続ける。

もう、誰かの決めた規則に従う必要はない。

パールが教えてくれた、本当の選択の意味を、今こそ示す時だ。


「私たちは、新しい道を見つけました」

カイトの翠の瞳が、真摯な光を放つ。

「それは、誰かに決められた道ではなく、私たち自身が選び取る未来です」



「新しい道?」

王の声には、困惑と共に何かが混じっている。

それは恐れか、それとも期待か。


「はい」

カイトは毅然と答える。

「聖女様が、檻から私たちを解放してくれました」


その言葉に、王が大きく息を呑む。

檻――その言葉の示す意味を、王は知っているようだった。


「まさか、古文書に記された」

王の声が震える。

「あの伝説が」


カイトの中で、記憶が繋がっていく。

ルシアンが見つけた古文書。

王家に伝わる秘密。

全ては、繋がっていたのだ。


「陛下は真実をご存じだったのではありませんか?」


玉座に座る王の表情が、深い苦悩を帯びる。

「先代から、受け継いだ秘密がある」

「だが、それを明かせば、王国の根幹が揺らぐと思ったのだ」


カイトは黙って王を見つめる。

エメラルドの守護者として、癒しの力を持つ者として。

王の心の傷も、感じ取ることができた。


「もう、隠す必要はありません」

カイトの声は、静かだが力強い。

「私たちは、真実を受け入れることができます」


窓から差し込む光が、玉座の間を明るく照らしていく。

それは、新しい時代の幕開けを告げているようだった。


***


「百年前」


王が重い口を開く。

「最後の聖女が、この世界の歪みに気付いた」


カイトは息を呑む。

百年前の聖女。

歴史書には、その存在すら曖昧にしか記されていない。


「彼女は選択肢という束縛から、世界を解放しようとした」

王の声が続く。

「だが、失敗に終わり、」


その結果、世界はより強固な檻の中に閉じ込められた。

カイトは直感的にそう理解した。

だからこそ、守護者たちは決められた道筋でしか動けなかった。


「しかし、今回は違う」

カイトは確信を持って告げる。

「聖女様は、既に成功されました」


エメラルドの力が、カイトの中で静かに脈打つ。

それは今まで感じたことのない、自由な鼓動。

もう誰かの決めた通りには、動かない。


王が立ち上がる。

「お前たち守護者は、これからどうするつもりだ?」


その問いに、カイトは一瞬の迷いもなく答えた。

「私たちの意思で、新しい未来を作ります」


それは、ただの決意表明ではない。

守護者としての、そして一人の人間としての覚悟。

パールが示してくれた、本当の選択の意味を、これから形にしていく。


「そうか」

王の声が、不思議な温かさを帯びる。


「私も、この時を待っていたのかもしれん」


玉座の間に、新しい風が吹き込んでくる。

カイトには分かっていた。

これが終わりではなく、本当の始まりなのだと。


玉座の間を出ると、アレクサンダーがまだ廊下で待っていた。

「王は」

赤い瞳が、真摯な光を帯びている。


「ご報告しました」

カイトは窓際に歩み寄る。

「・・・百年前の真実も」


アレクサンダーの表情が僅かに動く。

王太子として、彼もまた知らされていなかったのだろう。

王家に伝わる重い秘密を。


「私は」

アレクサンダーが静かに告げる。

「ずっと違和感を感じていた」


ダイヤモンドの守護者。

王位継承者。

その二つの重圧の中で、彼は生きてきた。

全ては決められた道筋の中で。


「これからは変わります」

カイトは遠くに見える王立魔法学院を見つめる。

「私たちの手で」


エメラルドの力が、カイトの中で確かな意思を示す。

もう、誰かの決めた運命に従う必要はない。

それは、全ての守護者に与えられた新しい自由。


「パールという聖女の存在が」

アレクサンダーの声が、珍しく感情を帯びる。

「私たちの世界を、大きく変えていく」


その言葉に、カイトは静かに頷く。

彼女は、ただの聖女ではない。

全ての束縛から、彼らを解放してくれた救世主。


「さあ」

カイトは廊下を歩き出す。

「レインの様子を見に行くとしましょう」


新しい朝の光が、二人の背中を押していた。

それは、始まったばかりの物語の、確かな証。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ