16.運命の檻
仕事が建て込んでいて、更新遅れてしまいました。
「来てくれて、よかった」
玄関で待っていたカイトが、二人を出迎える。
「レインの容態は安定していますが・・・」
翠の瞳が、何かを訴えるように輝く。
新たな選択肢が浮かぶ。
①レインの様子を尋ねる
②ルシアンの発見について聞く
③カイトの表情の意味を探る
パールは②を選ぶ。
昨夜からの違和感と、ヴィクターの言葉が気になっていた。
「ルシアン様の発見された文書について」
パールが声を上げる。
「私にも、見せていただけないでしょうか」
カイトの表情が引き締まる。
「図書館に。昨夜から、ずっと籠って調べています」
広間を通り、図書館への階段を上る。
三人の足音だけが、静かな邸内に響いていく。
図書館の扉を開けると、ルシアンが大きな古文書を広げていた。
金色の髪が朝日に輝き、普段の軽やかさは影を潜めている。
「これを見て」
ルシアンが古文書を指す。
文字は古い言語で書かれているが、パールにも読める。
『運命の檻』
その文字に、パールは息を呑む。
昨夜からの違和感、そして心の中でずっと感じていた束縛感。
それが、確かな形となって目の前に存在していた。
新たな選択肢が浮かぶ。
①すぐに内容を確認する
②ルシアンの説明を待つ
③他の守護者の反応を見る
パールは②を選ぶ。
ルシアンの真剣な表情には、何か重要な発見があるはずだ。
「この文書には」
ルシアンが静かに説明を始める。
「聖女の試練について、興味深い記述がある」
碧眼が古文書の一節を指す。
『真なる選択とは、心の自由なる意思により為されるべきもの』
「本来、聖女の試練は」
ルシアンが続ける。
「自らの意思で道を選び取るもの。しかし、今の世界では違う」
その言葉に、パールの胸が高鳴る。
自分だけが見ている選択肢。
それは本来、存在するはずのないものなのか。
「私には」
パールが口を開く。
「いつも選択肢が見えます。決められた道の中から、選ばなければならない」
三人の守護者が、息を呑む。
特にルシアンは、何かを確信したような表情を浮かべていた。
「やはり」
ルシアンが古文書をめくる。
「これは、世界そのものが歪められている証なのかな」
新たな選択肢が浮かぶ。
①歪められた理由を尋ねる
②解決方法を探る
③自分の体験を話す
パールは②を選ぶ。
原因も気になるが、まず解決策を見つけなければならない。
「この束縛から、解放される方法はありますか?」
「ある」
ルシアンが古文書の別のページを開く。
「だけど、それには三つの宝石の力が必要になると」
昨夜の出来事が、パールの脳裏に蘇る。
アメジストとエメラルド、そしてサファイア。
三つの宝石が共鳴した時の感覚。
「昨夜の力」
カイトが窓際から歩み寄る。
「あれは偶然ではなかったということですね」
「ああ」
ルシアンが頷く。
「三つの宝石には、それぞれの意味がある。調和と、知恵と、癒し」
古文書には、さらなる記述が続いていた。
『三つの光が交わる時、運命の檻は揺らぐ』
『聖なる意思により、新たな道は開かれん』
新たな選択肢が浮かぶ。
①今すぐ試してみる
②詳しい方法を確認する
③他の守護者の意見を聞く
パールの目の前で、選択肢が揺らめく。
その光景に、今までにない違和感を覚える。
②を選ぶ。
慎重に、確実に。
それが今の自分にできる最善の選択だった。
「具体的に、どうすれば」
「儀式が必要だね」
ルシアンが別の頁を示す。
そこには、三つの宝石を配置する図が描かれていた。
「三角の頂点に」
ヴィクターが図を覗き込む。
「各々の宝石を」
「そして中心に」
カイトが続ける。
「聖女の力を」
パールは息を呑む。
昨夜、レインを救った時の力。
あの時の感覚なら、きっと。
新たな選択肢。
①今すぐ実行する
②レインの回復を待つ
③より詳しく調べる
***
パールは①を選ぶ。
胸の奥で、確かな決意が芽生えていた。
これ以上、誰かに決められた選択肢に縛られ続けるわけにはいかない。
一刻も早くこの檻から出なければ。
「今すぐ、試してみましょう!!」
その言葉を口にした瞬間、心臓が高鳴るのを感じた。
今までの選択は、全て用意された道の中からの選択だった。
だが今回は違う。これは、完全に自分の意思による決断。
「本当にいいのか?」
ヴィクターの声には心配が滲んでいる。
「レインの件で、みな疲れているはず」
その言葉に、パールは昨夜の記憶を振り返っていた。
確かに体は疲れている。
だが、心は今が最も冴えていた。
「大丈夫です」
自分の声に、思わぬ力強さを感じる。
「むしろ、今このタイミングしかないのかもしれません」
昨夜の三つの宝石の共鳴。
あの感覚が、まだ体に残っている。
その余韻が消えないうちに、試すべきだという直感があった。
新たな選択肢が浮かぶ。
①図書館で実行する
②儀式の間へ移動する
③庭園で行う
選択肢を見つめながら、パールの心に強い皮肉が浮かぶ。
選択肢からの解放のために、また選択肢に従わなければならないという矛盾。
***
パールは②を選ぶ。
儀式の間――その場所を選んだ理由は、単なる直感ではなかった。
昨夜、レインを救った時の感覚が、その場所を指し示していた。
「・・・儀式の間へ」
その言葉を口にしながら、パールは自分の心の中を見つめていた。
不安と期待、そして何より、強い解放への願い。
今まで従うしかなかった選択肢という束縛から、自由になりたい。
階段を上りながら、これまでの選択の重みが胸に押し寄せる。
一つ間違えば死に至る選択。
誰かの心を傷つけかねない選択。
そのどれもが、用意された選択肢の中からの選択でしかなかった。
(本当に、これでいいのだろうか)
心の中で自問する。
もし失敗すれば、取り返しのつかない事態になるかもしれない。
だが、このまま永遠に選択肢に縛られ続けることの方が、耐えられない。
儀式の間に着くと、朝日が大きな窓から差し込んでいた。
昨夜の記憶が、まだ空気の中に残っている。
「三つの宝石を」
ルシアンが古文書を確認しながら説明を始める。
「正三角形の頂点に置いて」
パールは床に描かれた紋章を見つめた。
その紋様は、まるで今日のためにあったかのような配置を示している。
心臓が高鳴り、手のひらに汗が滲む。
新たな選択肢が浮かぶ。
①守護者たちの準備を待つ
②自分から位置について
③最後にもう一度確認する
選択肢を見つめながら、パールの心に強い感情が込み上げてきた。
これが最後の選択になるかもしれない。
その思いは、不安というより、大きな希望に近かった。
パールは②を選ぶ。
もう迷いは必要ない。自分から一歩を踏み出す時だ。
紋章の中心へと歩み出す。
足音が静かに響くたび、心臓の鼓動が早くなっていく。
これまでの選択に従順だった自分から、今、解き放たれようとしている。
その予感が、全身の細胞を震わせていた。
「私たちは」
ヴィクターが北の頂点に立つ。
「君の選択を信じている」
その言葉に、パールの目に涙が浮かぶ。
今までの選択は、本当に自分のものだったのか。
それとも、誰かに用意された筋書きに過ぎなかったのか。
カイトが東の頂点へ。
ルシアンが西の頂点へ。
三人の守護者が、パールを中心に三角形を形作っていく。
紫が輝き始める。
翠が応える。
蒼が共鳴する。
三色の光が、パールの周りで交差していく。
その瞬間、新たな選択肢が浮かび上がった。
①全ての力を解き放つ
②ゆっくりと力を重ねる
③守護者たちに合図を送る
この選択肢に、パールは苦い笑みを浮かべる。
ここまで来ても、選択を強いられるというのか。
だが、今度は違う。
この選択肢に従うのではなく、自分の意思で道を選ぶ。
「私の選択は」
パールの声が、儀式の間に響き渡る。
「この檻のような世界から、解き放たれること」
選択肢が、目の前で揺らめき始める。
それは今まで見たことのない反応だった。
パールの心に、大きな確信が芽生える。
これこそが、本当の意味での選択なのだと。
***
三色の光が激しさを増していく。
パールの全身に、温かな力が満ちていく。
それは昨夜、レインを救った時よりも、もっと深い共鳴だった。
選択肢が歪み始める。
今まで固定されていた文字が、まるで砂のように崩れ落ちていく。
その光景に、パールは強い解放感を覚えた。
ついに、この束縛から自由になれる。
「調和の力が」
ヴィクターの声が響く。
紫の光が強まり、パールの心に深く染み入ってくる。
「癒しの力を」
カイトの言葉と共に、翠の温もりが広がる。
それは今までの傷を優しく包み込んでいく。
「知恵の導きを」
ルシアンの声。
蒼の光が、新たな道を照らし出す。
パールの目の前で、最後の選択肢が完全に崩れ落ちる。
その瞬間、強い眩暈に襲われた。
これまでの記憶が、走馬灯のように駆け巡る。
転生した日から今まで、自分が選んできた全ての選択が。
(これが、本当の私の選択だったの?)
その問いが、心の奥深くまで響いていく。
突然、大きな光が部屋を包み込んだ。
三つの宝石の輝きが一つとなり、まばゆい光球となって広がっていく。
パールの意識が遠のいていく中、確かな感覚があった。
これまでの束縛が解かれていく感覚。
そして、新たな自由を手に入れる予感。
「パール!」
誰かの声が聞こえた気がした。
だが、もう意識は深い闇の中へと沈んでいく。
それは不安な闇ではなく、心地よい安らぎに満ちていた。
意識が戻った時、パールは柔らかなソファに横たわっていた。
窓から差し込む陽光が、部屋を優しく照らしている。
体の中を、不思議な感覚が満たしていた。
何かが大きく変わった。そう直感できた。
「っ、目を覚ましましたか」
ヴィクターが、傍らから声をかける。
その紫の瞳には、心配と安堵が混ざっていた。
起き上がろうとすると、体が軽い。
今までずっと背負っていた重圧が、消え去ったかのようだ。
そして何より、目の前に選択肢が浮かんでこない。
「・・・どのくらい」
かすれた声で、パールは尋ねる。
「気を失っていたのでしょうか」
「半刻ほどです」
カイトが窓際から答える。
「儀式は、確かに成功したようですね」
その言葉に、パールは自分の心の中を覗き込むように意識を向けた。
確かに、何かが変わっている。
今まで常にあった選択を迫られる感覚が、完全に消え去っていた。
「私たちにも変化があったみたいだ。宝石の力が、より自然に感じられる」
ルシアンが古文書から顔を上げる。
その瞬間、パールの胸に込み上げてくるものがあった。
今までの選択は、全て用意された道筋の中のものだった。
だがこれからは、本当の意味で自分の意思で選べる。
その実感が、強い感動となって全身を震わせる。
涙が頬を伝う。
それは喜びの涙であり、解放の涙。
そして、新たな始まりを告げる涙でもあった。
***
「レイン様は?」
涙を拭いながら、パールは気になっていた問いを口にする。
昨夜の救出、そして今回の儀式。
二つの出来事が、レインにどんな影響を与えているのか。
「安定しています」
カイトの声には確かな安心感が滲んでいた。
「むしろ、私たちの儀式が良い影響を与えたようです」
その言葉に、パールはほっと息をつく。
レインを救った時の三つの宝石の共鳴。
あの時既に、運命の檻は揺らぎ始めていたのかもしれない。
「これからは」
ルシアンが古文書を閉じながら告げる。
「私たちも、より自由に力を扱えるはず」
その言葉の意味を、パールは深く理解していた。
宝石の力も、選択肢という檻に縛られていたのだ。
だからこそ、決められた場面でしか使えなかった。
パールは自分の手のひらを見つめる。
「聖女としての私は、これからどうなるのでしょうか」
ヴィクターが静かに告げる。
「それは、お前自身が決めることだ」
その言葉に、パールの心が大きく震える。
自分で決める。
その当たり前の権利を、今やっと手に入れたのだ。
窓の外では、朝日が高く昇っていた。
新しい一日の始まりと共に、パールの新たな物語も動き出そうとしていた。
パールは強く握り締めた手を開く。
「これからは自分の意思で、全てを選んでいきます」
その言葉には、迷いのかけらもなかった。
運命の檻から解放された今、本当の意味での選択が始まる。
それは時に困難を伴うかもしれない。
でも、それこそが本物の人生なのだと、パールは確信していた。