13.満たされぬ月
パールの部屋の窓から、まだ満ちきっていない月が見える。
本来なら、あと一日。
その時を待つはずだった。
「パール様」
執事がノックと共に声をかける。
「ヴィクター様とルシアン様が、お呼びです」
最上階の儀式の間に向かう途中、パールの前に選択肢が浮かび上がる。
①今すぐ儀式の間へ向かう
②部屋に戻って準備を整える
③立ち止まって考える
(これは・・・)
しばらく選択肢を見ていなかったせいで忘れかけていた。
ハードモードでは、一つの選択が生死を分ける。
(ここから大事な分岐点が始まるってこと?)
***
パールは③を選ぶ。
焦って行動を起こすより、まず状況を整理する必要がある。
立ち止まった場所は、窓際の小さな張り出し。
そこからは、王立魔法学院の方角が見える。
翠色の光が、夜空に漂っていた。
(カイトは、準備ができているのだろうか)
考えを巡らせていると、選択は正しかったことが分かる。
階段を上がってくる足音。
声の調子から、ヴィクターとルシアンが何か議論している。
「やはり危険すぎる」
ヴィクターの声。
「満月でないことは、レイン以上のリスクになる」
「ですが、これ以上待てば」
ルシアンが答える。
「ルビーの暴走は、誰にも止められなくなる」
二人の会話を聞けたことで、パールは状況をより正確に把握できた。
そして、次の選択肢が浮かび上がる。
①二人の前に姿を現す
②もう少し会話を盗み聞きする
③別の階段から儀式の間へ
***
パールは慎重に考える。
今の状況で、最悪の選択は③だろう。
重要な局面で、守護者たちの信頼を裏切るような行動は避けるべきだ。
①か②。
そして、これまでの経験が教えてくれる。
より多くの情報を得ることは、決して間違いではない。
パールは②を選んだ。
「カイトからの返信は?」
ヴィクターの声が続く。
「儀式の準備は間に合うのか」
「翠の力は、既に整っているそうです」
ルシアンの答えに、僅かな安堵が混じる。
「問題は、月の満ち欠けによる影響で」
「三つの宝石が、不安定になる可能性が高い」
ヴィクターの声が低くなる。
「特に紫と蒼の共鳴が」
(そうか、それで呼ばれたのね)
パールは胸に手を当てる。
今の自分が扱える二つの力。
その安定性を、確認する必要があるのだ。
***
新たな選択肢が浮かび上がる。
①今こそ姿を現し、自分の決意を示す
②二人の会話が終わるまで待つ
③その場で二つの宝石の力を試してみる
(③は危険すぎる)
パールは即座にその選択肢を否定する。
不安定な月の下で、準備もなく力を使えば、制御を失う可能性が高い。
残るは①か②。
だが、これ以上会話を盗み聞きすることに、どれほどの意味があるだろう。
むしろ今は――。
「私にも、考えを聞かせてください」
パールは①を選び、姿を現した。
二人の守護者が振り返る。
驚きの色は見せるものの、どこか予想していたような表情でもある。
「来ていたのか」
ヴィクターの声には、非難の色はない。
「ええ、話は聞かせていただきました」
パールは真っ直ぐに二人を見つめる。
「そして、私なりの答えがあります」
***
新たな選択肢が浮かび上がる。
今度は、自分の意見を述べる内容を選ぶものだ。
①月の満ち欠けに頼らず、自分の力を信じる
②レインの危機を優先し、リスクを取る
③もう一日だけ、準備の時間を取る
パールは深く息を吸う。
これは重要な選択になるはず。
一つ間違えば、取り返しのつかない結果に。
(でも、答えは明確だ)
「私は、①月の満ち欠けに頼らず、自分の力を信じたいと思います」
その言葉に、二人の表情が変わる。
特にルシアンは、何か深い理解を示したような目をしていた。
「理由は?」
ヴィクターが問う。
「満月の力を借りなければ制御できないのなら」
パールは静かに続ける。
「それは本当の意味で、力を理解していないということではないでしょうか」
***
「興味深い考えです」
ルシアンの碧眼が、真摯な光を帯びる。
「では、試してみましょうか」
「今から?」
ヴィクターが眉を寄せる。
「ええ」
ルシアンは頷く。
「聖女様の言葉に、確かな手応えを感じます」
新たな選択肢が浮かび上がる。
①今すぐ力を示す
②もう少し説明を求める
③ヴィクターの判断を仰ぐ
(ここで躊躇ってはいけない)
パールは①を選ぶ。
紫と蒼の力が、ゆっくりと目覚めていく。
不安定なはずの月の下でも、二つの宝石は確かな輝きを放つ。
「これが、私の答えです」
パールの周りに、美しい光が広がっていく。
それは不完全な月の光さえも、取り込んでいくかのよう。
***
「見事です」
ルシアンの声には、明らかな感心が滲む。
「月の力に頼らず、自身の力で制御できている」
ヴィクターも、僅かに表情を緩める。
パールの力は、彼の予想以上だったのかもしれない。
だが、その時。
遠くから、不穏な気配が襲いかかってくる。
紅い光が、夜空を染めていく。
「レインの力が」
ルシアンの声が緊張を帯びる。
「もう、限界にきているようですね」
選択肢が浮かび上がる。
①今すぐ儀式を始める
②カイトを待つ
③レインの元へ向かう
それぞれに、致命的なリスクが伴う。
①はカイト抜きでの儀式。
②は手遅れになる可能性。
③は自分の身が危険に。
(でも)
パールの心は、既に決まっていた。
***
「レイン様の元へ向かいましょう」
「危険だ」
ヴィクターが制止する。
「今のレインは、制御を失いかけている」
「だからこそ」
パールは真っ直ぐに答える。
「紫の力で、少しでも抑えられるはず」
新たな選択肢。
①ヴィクターに同行を頼む
②ルシアンに助言を求める
③一人で向かう
(これは)
パールは一瞬の迷いもなく、①を選ぶ。
もう分かっていた。
独りよがりの判断は、最悪の結果を招くということを。
「ヴィクター様、お願いします」
パールが振り返る。
「私一人では無理かもしれない。でも、あなたと一緒なら」
紫の瞳が、真摯な光を帯びる。
***
「分かった」
ヴィクターが頷く。
「ルシアン、カイトを」
「ええ、私が王立魔法学院へ向かいます」
ルシアンは既に行動を開始している。
「準備が整い次第、レインの元へ」
階段を駆け下りながら、新たな選択肢が現れる。
①馬車で向かう
②魔法で移動する
③アメジストの力を使う
通常なら①が最も安全な選択肢。
だが、今は一刻を争う。
そして、パールの中で紫の力が確かな手応えを示していた。
「③アメジストの力を」
パールが告げる。
「私の力で、二人分の移動ができます」
ヴィクターが一瞬驚きの表情を見せる。
だが、すぐに理解を示すように頷いた。
「わかった」
その言葉と共に、紫の光が二人を包み込んでいく。
***
アメジストの力が、二人を包んだまま夜空を駆けていく。
遠くには、紅の不安定な輝きが見える。
レインの居城は、王都の北側。そこまでは、まだ距離がある。
「力の消耗は?」
ヴィクターが問いかける。
「大丈夫です」
パールは確かな手応えを感じていた。
今の自分なら、この距離は問題ない。
新たな選択肢が浮かび上がる。
①全速力で向かう
②力を温存しながら進む
③一度地上に降りる
ここでの選択は、これからの戦いに大きく影響するはず。
パールは慎重に考える。
レインの暴走を止めるには、全力の力が必要になる。
だとすれば――。
「力を温存しながら進みます」
その判断に、ヴィクターが静かに頷く。
二人を包む紫の光は、より安定した輝きを放ち始めた。
***
夜空を進むにつれ、紅の光は強さを増していく。
その不安定な輝きは、まるで炎のように揺らめいている。
「レイン様の居城まで、あと少しです」
パールが告げる。
「警戒を」
ヴィクターの声が低くなる。
「これほどの力の暴走は、想定以上だ」
新たな選択肢が浮かび上がる。
①正面から城に向かう
②一度周囲を偵察する
③地上に降りて、徒歩で接近
紅い光が、選択を急かすように明滅する。
だが、ここで焦って間違えば、取り返しがつかない。
(ルビーの力は、情熱と勇気)
(だからこそ、慎重に)
パールは②を選ぶ。
アメジストの力で高度を上げながら、居城の様子を確認していく。
すると、思いがけない光景が目に入った。
***
居城の中庭に、一人の人影。
翠の守護者、カイトだった。
「どうして」
パールが息を呑む。
「カイト様がここに」
「やはり」
ヴィクターの声には、意外な色が混じっていない。
「同じ結論に達したか」
新たな選択肢。
①カイトと合流する
②ヴィクターの説明を待つ
③レインの様子を優先する
パールは一瞬の迷いの後、②を選ぶ。
今は、状況を正確に把握する必要がある。
「カイトは」
ヴィクターが説明を始める。
「レインとは学生時代からの親友だった」
その言葉に、パールは理解する。
エメラルドの癒しの力。
ルビーの暴走を止められるとすれば、確かにそれしかない。
だが、満月でない夜に、それは可能なのか。
***
「降りましょう」
パールが決断する。
今は三人の力を合わせる時。
アメジストの光が、ゆっくりと地上へと二人を運ぶ。
カイトが振り返る。
黒い長髪が夜風になびく中、翠の瞳が静かな決意を湛えていた。
「来ると思っていました」
カイトの声は、予想以上に落ち着いている。
「三つの宝石が揃わなければ、レインは救えない」
その言葉に、パールは確信する。
これが運命の導きなのだと。
満月を待たずとも、今この時しかないのだと。
居城の最上階で、紅い光が激しく瞬く。