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11.翠の予兆

夜明け前、パールは目を覚ました。

窓の外はまだ暗く、アメジストの花々が淡い光を放っている。

昨日の図書館での出来事が、鮮明に蘇ってくる。


三つの宝石の関係。

(アメジスト)(サファイア)の力を得て、そしてこれから現れる(エメラルド)の守護者。


「パール様」

ノックと共に、執事の声。

「朝食のご用意が整いました」


食堂に向かう途中、パールは立ち止まった。

窓の外で、見慣れない鳥が羽を休めている。

翠色の羽を持つその姿は、まるで何かの前触れのよう。


「カイト・・・?」

自分の声に、確信めいたものを感じる。

朝の未来視で見た光景が、現実になろうとしているのだろうか。


食堂に入ると、いつもと様子が違った。

ヴィクターの隣に、ルシアンの姿がある。

二人の守護者は、何やら真剣な表情で話し込んでいた。


「おはよう」

ヴィクターが顔を上げる。

「今朝は、特別な練習をする」


テーブルの上には、古い巻物が広げられている。

その上には、三つの宝石の紋章が描かれていた。


「これは」

パールが近づく。

「昨日の本に描かれていた」


「ええ」

ルシアンが頷く。

「三つの宝石による、古い儀式の記録です」


(アメジスト)(サファイア)の間に、(エメラルド)の紋章。

その配置には、何か特別な意味があるように見える。


***


「この儀式は」

ルシアンが巻物の文字を指でなぞる。

「宝石の力を受け継ぐ際に行われていたものです」


パールは息を呑む。

確かに、守護者たちは代々その力を引き継いできたはず。

その時、三つの宝石が重要な役割を果たしていたということか。


「調和があり」

ヴィクターが説明を続ける。

「知恵が導き、癒しが支える」


三つの力が重なり合うことで、新たな守護者は安全に力を受け継ぐことができる。

それは同時に、聖女の力を目覚めさせる方法でもあるのかもしれない。


「カイトは」

ルシアンの声が静かに響く。

「この儀式について、誰よりも詳しい」


そうか。

だから朝の未来視に現れたのは、エメラルドの守護者。

パールの力を目覚めさせるために、必要な存在なのだ。


「ですが」

パールが顔を上げる。

「儀式となると、もっと準備が必要ではありませんか?」


「その通りです」

ルシアンが巻物を丁寧に巻き直す。

「さあ、練習の前に朝食をどうぞ」


***


朝食を終えると、三人は練習場へと向かった。

今日は中庭ではなく、館の最上階にある特別な部屋。

床には既に魔法陣が描かれ、三つの宝石の紋章が配されている。


「この場所は」

ヴィクターが説明する。

「儀式のために作られた」


天井まで届く大きな窓からは、朝日が差し込んでいる。

その光を受けて、魔法陣が淡く輝き始めた。


「まずは」

ルシアンが中央に立つ。

「三つの力の流れを、感じてみましょう」


パールは深く息を吸う。

(アメジスト)の力が、体の中で目覚める。

そこに(サファイア)の光が重なり、そして――。


***


空いている一角に、(エメラルド)の紋章が浮かび上がる。

まだ力は宿っていないが、その存在感だけは確かにそこにある。


「エメラルドの位置は、重要です」

ルシアンの声が響く。

「アメジストとサファイアの間で、バランスを取る」


パールには分かった。

今、自分の中で流れている二つの力。

(アメジスト)は優しく包み込み、(サファイア)は意味を示す。

その間に(エメラルド)が入ることで、完璧な調和が生まれる。


「感じられますか?」

ヴィクターが問いかける。

「三つ目の力が必要な理由が」


「はい」

パールは目を閉じたまま答える。

「でも今の私には、まだ何か足りない・・・」


その言葉が終わらないうち、魔法陣が強く明滅した。

窓の外で、鳥の鳴き声が響く。

先ほどの翠色の鳥が、優雅に舞い降りてきた。


***


「来たか」

ヴィクターの声が低くなる。


窓の外の空が、翠色に染まっていく。

エメラルドの守護者の気配。

それは、アレクサンダーやレインとはまた違う、穏やかな力だった。


「カイトは」

ルシアンが窓際に立つ。

「儀式の準備が整うまで、王立魔法学院に留まるそうです」


ノーマルモードでは、カイトは魔法の指導者として現れた。

その立場は、この世界でも同じということなのか。


「準備には、どのくらいかかる」

ヴィクターが尋ねる。


「三日といったところでしょうか」

ルシアンの声には確信が滲む。

「満月の夜までには準備が整うと思います」


魔法陣の光が、さらに強まる。

(アメジスト)(サファイア)の間で、(エメラルド)の紋章が鮮やかに浮かび上がった。


三日後。

満月の夜に行われる儀式。

そこで何が起こるのか、パールにはまだ分からない。


***


「今日の練習は、ここまでにしましょう」

ルシアンが魔法陣の力を解く。

「明日からは、儀式の準備に入ります」


パールは静かに頷く。

今朝感じた予感は、確かなものだった。

エメラルドの守護者の出現。そして、これから始まる儀式。


「心配するな」

ヴィクターが近づいてくる。

「お前のペースで大丈夫だ」


その言葉に、少し安心する。

(アメジスト)(サファイア)の力を得て、次は(エメラルド)

一つずつ、確実に前に進んでいる。


窓の外では、翠色の鳥が優雅に旋回していた。

その姿は、まるでカイトからのメッセージのよう。

これから始まる新たな試練を、静かに見守るように。

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