再会
やっと、出た
疲れた
なんだろう、俺は何故日常から一瞬で非日常へと足を踏み入れる、ラノベの主人公のようになっているのだろう。
俺は、どんな異能を使えるんだろう、楽しみだ。
……じゃねぇーーよ!
マジかよ、こんな大男三人を彼女が倒したってのか。
しかも、三秒に満たない時間で。
「あ、ありがとう…」
しかし、なんであろうと、助けられたことには変わりはない。
礼はいっておこう。
「構わない」
そういって、少女はこちらへ振り向く。
艶やかな黒髪が靡く。
美、というべきなのか、麗、というべきなのか。
天が二物も三物も与えまくった結果がこれだよ!
初めて人に見惚れた。
「っ!!!!」
瞬間。世界が反転した。…弱いな、世界が回転…違うな、世界が洗濯機の中に……何をいってるんだ俺は、とにかく、俺は一瞬で壁へと背中を打ち付けて、更に頬までもが痛いという状況に陥っていた。
不良は彼女が倒してくれたはずなのに。
ああ、さっきの女の子は俺の夢だったのか。
さっき殴られるってときに実は誰も助けてくれてなくて、俺は普通に殴られた、と。
ずきずきする頬と背中をさすりながらうっすらと目を開ける。
そこには、さっきの女の子がいた。
後ろにはいまや完全に気絶している不良たちが。
夢じゃないことはわかった。しかし、痛い。
その理由も一目瞭然。俺は彼女に蹴られたのだ。
突き出している足を見ればわかる。
ちなみに黒…ゲフンゲフン!
しかし彼女はそんなことは気にも留めずに恐ろしい形相をつくる。
「ひっ!」
もはやこの人はさっきまでの女の子ではない、鬼がいた。
いや、俺は確信した。
これが、朝に秋が言っていた魔王だと。
オーラがどす黒く観える気がする。
「……ないのよ」
「えっ?」
「なんで迎えにこないのよぉーーーーーー!!」
叫ぶと同時もう一度、蹴りを見舞う。
何とかみっともなく這いずって、それをよける。
「ちょ!ちょっと待ってくれ!迎えってなんだよ、俺たちは今日初めてあったろ!」
俺の言葉のどこが気に障ったのか、彼女を覆うオーラが一層濃くなる…きがした。
「お前はぁーー」
足を振りかぶる。
「最低のぉーー」
俺をまるでサッカーのボールとしか見ていないかのように。
「男だあぁーーーー!!」
実際そうとしか思っていないのだろう。躊躇いなく、淀みもない、単調な、だがシンプル故に極めればとてつもない破壊力を誇る蹴りを放つ。
思考が澄み渡る。
全てがスローに映る。蹴りさえも。
ゆっくりと迫る光から逃れるため全力で左へ跳ぶ。
そのとき全てが現実に戻る。
眼前でコンクリートの一部にヒビが入り、そこから侵食するように周りから崩れていき、
ものの数秒でコンクリートの壁は崩壊した。
よく避けれたな、これ。
死を目前にした人間の強さに感嘆する。
「………」
なにもいえない。
「ちっはずしたか」
「なっ!こんなん直撃したら死ぬだろうが!ふざけんな!びっくりしすぎてアドレナリンドバドバっすわ!」
「殺すきだったから」
おいおい、さらっと何言って。
「とりあえず、落ち着け、一体君は何者なんだ」
俺の真面目な一言に彼女は一瞬、憂いの表情をつくり、すぐに答える。
「至道真生」
……………………
「真生って…なんでここに、小学のときに療養するって引っ越したはず」
ありえない、彼女があの、病弱で人見知り、叫ぶなんてもってのほか、運動は勿論駄目、そんな真生が。
「直ったから戻ってきた」
このとき、最近夢に見ていた約束を思い出す。
あれは真生だったのだ。
「いや、よかったじゃないか戻ってこれたんだろ、この町に」
昔の親友でもう一度出会えて俺もうれしくないわけがない。
だが、真生は頬を膨らませている。
「どうしたんだ?戻ってこれたし、俺も約束は破らずずっとこの町にいた。それなのに何を怒って」
「迎えにこなかった」
はぁ。
「いやでも、あのときの約束は待ってるっっって内容で」
言いながら、しっかりと約束の内容を思い出す。
うん、間違ってない。
「そうはいっても、普通は迎えにくるでしょ!離れ離れになった王子と姫、そして囚われの姫を自分の身も顧みず救おうとする王子、そして、ついに姫のもとへたどり着く王子、しかしその瞬間王子は敵の魔弾に倒れてしまうの、そして駆け寄る私、王子を抱きかかえ言うの、好きですって……」
ほわぁーんと夢の世界へと旅立ってやがる。
つか、王子、死ぬのかよ。あと途中で姫が私になってるぞ。最後に敵って誰だ、医者か?医者が自分の患者連れ去られそうだからって、撃つかよ。
はあ、こいつ、実はこんなメルヘンちゃんだったんだな。
「でも、こなかった」
うっ急に寒気が…
「なんでこなかったのよおぉーーーーー!」
王子じゃないからでーーす!!
もうこれ、女心は複雑、とかってレベルじゃねーだろ!
もうやだ、泣きたい。
突然の再会、今になって気付いた幼馴染の趣味。
なんかもう波乱の予感しかしなかった。