恐怖
程、の便利さは異常
俺が着席して5分程で担任の内田が教室に入ってきた。
そして、教壇に登るやいなや、無駄に通る明るい声で、俺達に告げる。
「なんと、いきなりだが、といっても前々から決まっていたことで、みんなには内緒にしていただけなんだが、今日からこのクラスに転校生が転入してくる。」
当然ながら、俺含め、クラス一帯が『はあ?』に包まれる。 しばしの自失を乗り越え、クラスのお調子者が重要な質問を投げかける。
「その人は女の子ですか~」
「そうだ」
男子がざわめく。
その子可愛いかな?と期待に胸を膨らませる奴。
もしその子が俺に一目惚れしたら…なんで自意識過剰な妄想にふけるものもいる。
女子は女子で、仲良くなれるかな~とまだみぬ転校生を想う。
俺はというと、正直言って、内心は結構ざわついていた。
「はい、静かに、じゃあ入って来てくれ」
シーンと聞こえそうなほどに静まった教室にガラガラ、というドアが地面を擦る音が響く。
「よろしく」
教室、いや世界が止まった。
現れた転校生が、超のつくほどの絶世の美少女だったから……ではない。
逆に間違っても美、をつけることは憚られる容姿だから…でもない。
いや、このさいそれでも良かった。むしろそれが良かった。 今の状況に比べたら、十段階評価でも、9を与えられる。
さて、そんな今の状況は、一言でいうと、『内田はいらない子』。
まず、性別が違った。女の子?いくら生まれ変わっても無理だろ、という容貌。 パンチパーマ。ジャストフィットサングラス。
スーツを着せたらあら不思議。二十歳にも達してないのに、ヤーさんの出来上がり。
「荒川瑠衣」
名前だけを端的に述べる。
「あ~瑠衣って名前だから、女の子だと思っていたが、男の子だったとは」
黙れ。あとこの人に子はやめろ、どうみたら子をつけられる。お前の脳うじ湧いてんじゃね。
「え~みんなじゃあ仲良くしてくれ、それではHRを終える
ああ、あと瑠衣君、君の席は空いてるとこね」
事の重大さに気づかない馬鹿は明るく退場していく。
つか、仲良くとかねーから!どう頑張っても無理だっつの!!友達、なんて対等の関係築けるか!!!築けるのは、主従関係か敵対関係(多分、なったら人生終わる)だけだろ!
心のなかでとはいえ ツッコミに疲れ息が切れる。
ハッ!そういえばあの馬鹿は空いてる席、といった。ならば ちらりと一瞥した隣は、無人の机が聳えたっていた。
漫画とかなら、ここは可愛い女の子が座り笑顔で、「よろしくね」ドキッ、だろう。
それが、これだよ! 隣にヤーさんがきとドキッ、なんかできるか!確実にビクッ、だよ!。
横からギギ、という椅子引きずり音が耳に届く。
やばいこわいやばいこわいやばいこわいやばいこわい。
いや、まてさっきはパット見だけで顔を注視はしていない。
案外なんてことも…なかった~~!?
ですよね~
知ってましたよ、無駄だって、でも少しでもなにか寄すががないと精神保てないんで。
うわぁ、生暖かい頑張れ、視線があちこちからむけられてるぅ。
恐怖におののいていると一限目開始のチャイムが奏でられる。
世界史の初老の教師が入ってくる。
生まれて初めて授業に真剣に取り組みたいと思ったよ。
「そういえば転校生君はまだ教科書もってなかったね。では櫻井君、見せてあげて下さい。」
なん…だと…!
教科書を献上しろというのか。
…くっ、仕方ない。 「どうぞ」
あっ、目があった。
あれ、生きてるや僕。
ヤーさん君近いよ、いやまじで。
俺が求めていた変革はこうして行われた。
いつも通りの日常カムバック!!