プロローグ わたしへ
「おい、日向!この本はここだと散々言っただろ!」
野太い、中年男性の怒鳴り声が聞こえる。
「はい、すみません。」
それはわたしに向けられたもので、形は謝っておく。
わたしの胸元の日向という名前プレートと、その少し上に適当に貼ってある「研修中」の紙。
先週から、知り合いの進めでここでバイトをしている。
ただ、さっきの中年男性、店長がわたしに任せてくる仕事は研修中のバイトがやるような仕事量と労働量じゃない。
だから何度も間違えて、怒鳴られての繰り返し。
そりゃあ、バイトがやるのは本棚に本をしまったりポップを書いたりする程度のはずで、事前に聞いていた仕事もそんなものだったのに、そんなものじゃない。
商品の仕入れ計画だとか、出版社の営業などへ対応だとか。
絶対にバイトでましてや、研修中の人間がやるものじゃないのに。
黙って頭を下げ続けているわたしに店長は愚痴を溢し続けている。
心の中で面倒だなと思いながらも黙っているとわたしの前に影が出来た。
顔を上げると、背の高い男の子。
男の子は人の良さそうな声で店長をなだめた。
「まぁまぁ、店長。日向さんは入ったばっかだし、仕方ないですよ。僕も入ったばかりの頃はこんなでしたから。」
「そ、そうかぁ…?まぁ、今回は柴田に免じて許してやろう。」
クルッとこちらに振り返った彼、柴田蒼くんは遠くに行った店長に聞こえない程度の声でわたしに。
「店長、日向さんに難しい仕事ばっか押し付けてるの知ってるから。今度から僕に言って?」
愛想の良い笑顔を浮かべた柴田くんにわたしは、ありがとうございます。と伝え、出来る仕事に戻った。