表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/47

7

私は長谷川亜美。高校3年生。受験生というやつである…と言っても、まだ受験勉強開始前の成り立てで、明確な志望校は決まっておらず、とりあえず大学には行っておこうという程度のガチ勢というわけではない。


成績も中の中なので、大丈夫なの?と母親は心配しているらしいのだが、私個人としては大丈夫なのだと疑ってはいなかった。


その理由としては、私の仕事が関係している。


そして、私の仕事というのは…。


「私たちって今年受験生。ガリガリしなきゃ。なのに亜美はいいよね~。だって()()()じゃない。」


「?別にそんなことないけど?」


…とまあ、そんなことは()()


だから正直、大学は親に行けと言われているから、受験しには行くが、最悪ダメでもいいと割と本気で思っていた。


親不孝というやつかもしれないけど、雑誌で表紙を飾ったり、特集を組んでもらったりと、これでご飯が食べていけるのではないと思えるくらいの手応えもあり、勉強への意欲というやつが落ちていたのは、仕方のないことだろう。


それになんと言っても、高校生活というものは楽しいものに溢れている。


亜美は普段澄ましてこそいるが、友達との絡みや遊び、そして、ファッションも仕事でお金があることで楽しんでいた。


…定番の恋の方は、さんざん言い寄ってきていた()()が彼女を作ったことで、なんかもういいやという気分になり…。


そして、今のもっぱらのブームは半年ほど前から変わらず…。


「でもホント亜美って運いいよね~。」


「?なんで?」


「いや、ちょっとなんでって…亜美ちゃ〜ん?私の話聞いててくれたかな〜?」


「いや、普通に聞いてなかった。」


「って、なんでやねん!」


「……。」


「…す、スベった?」


「いや、単に驚いただけ。」


「そかそか、それは良かった良かった。」


「…で、なにが運がいいなの?」


「あっ、その話?もっと私のスベらなかった喜びに耳を傾けてくれてもいいんじゃないの?」


なんでこの友人はスベることにこんなにも執着するのだろう?関西人?グループ卒業した元アイドル?それとも、もしかしてお笑いやりたいとか?事務所紹介してくれそうな人紹介するよ。


あっ、でも、私をそっちに引っ張っていこうとするのは勘弁ね。それほどお笑いに興味あるわけじゃないから。


なんて、先程のように自分の中で考えを巡らせていた結果、重要なところを聞き逃すのではないかと思われたが、どうやら今度は必要な部分だけではあるが、聞き逃さなかったらしい。


「…と要するに、昨日の【シグマド】のコンサートチケットが当たったことが羨ましいのですよ!私は!!」


「ふふん♪いいでしょ?最高だったよ♪」


「……くっ…。」


ここまで引っ張っておいてなんだが、亜美のマイブームは【シグマド】だった。というか、これからもずっとそうだろうと思う。


好き…ホントに好き♪


音も歌詞も、テンポも…そしてなにより…。


「カーーっ!!生【SHINYA】とかちょーうらやますぎるーーっ!!いい席っ?まさかいい席っ?そんなんだったら、マジで友達やめるからね!!」


「うん、いい席だったよ。ホントに真ん前。」


「クソがーーっ!!やめてやる!やめてやる〜〜っ!!」


と、駆け出すようにして芸人のように教室を出ていくと、女子数人を連れてすぐに戻ってきた。


「ほらほら、こいつが裏切り者の亜美だ。昨日のコンサートに行きやがったな…。ほら!お前ら!聞きたいことがあるなら、聞きなはれ!聞きなはれや〜!!」


由美香が連れてきたのは、先程からこちらをチラチラ見ていた同じクラスになった人達。


由美香は面倒見が良く、こうして近寄りがたい雰囲気のある亜美に友人を作ろうとしてくれるのだ。まあ、こちらを見ていたこの娘たちを放っておけなかったからかもしれないが…。


「あっ、それじゃあ、はい!」


「よし!それじゃあ、佳子!」


「えっと…じゃあ、単的に一番聞きたいこと聞くけど、今朝ニュースで見た…あの【SHINYA】のキスしてない宣言を……。」


「……ぽっ(赤面プラス遠い目)。」


「見たんですね!!その耳で()聞きしたんですねっ!!ずるいずるいずるい!!」


「は?亜美、マジ?」


「…よかった…本当によかった…。」


あの真剣な表情のかっこよさ。時折見せる笑顔は格別だと思っていた。けど…まさか…【SHINYA】にあんな可愛い一面もあったとか…萌える!!このワード、本当のところはよくわからないけど、やっぱり()()()!!


亜美のどこかとろけたその表情を見て、あ〜亜美って本当に【シグマド】が好きなんだな〜と思うと同時に羨ましさで、一発くらいドついてもいいのではと思っていた面々だったが、そんな空気感をぶち壊すような出来事が、新クラスになったばかりにも関わらず起こった。



『春香、俺たち別れるのか?』


『あれ見たんでしょ〜♪ならわかるはずじゃ〜ん♪』


から始まるこのくだりが…。



本当に胸糞の悪いそれが…。


亜美たちもそれを見ており、その別れ話が終わると、こちらの雰囲気もお通夜で、振られた男子生徒に同情的だった。


「…なんかね…。」


「うん、あれはひどい。」


亜美もそれに同意し、亜美に言い寄っていた()()に睨むような視線を送ると、やつは丁度チラリとこちらを見て…そして、いやらしく笑った。


「……うわ…これってもしかして…。」


その笑みの理由がなんとなくわかった亜美は、あまりの気持ち悪さに、()()()()()()()()()ことを悟ると、由美香たちも気分が悪いだろうと思い、教室を出るため、ジュースでも買ってこようかと提案した。


「じゃあ、行くぞー。ジュースじゃ。ジュース!!亜美が奢ってくれるっていうから、ジュースで友情維持しちゃって〜な。」


「奢んないわよ。」


「はい?マジで崩壊よ。」


「私、信じてる。由美香はそんなことで私と別れないって…。」


「……マジ?亜美って百合…。」


「…さて、佳子さんたち、行きましょう。奢ってあげるわ。」


「ちょ!冗談!冗談やからーー!!」


「ぷっ。」「あはは。」


そんなふうに席を立つ亜美。しかし、亜美には引っ掛かることがあった。


それはというと、被害に遭った男子生徒について。


(…あの男子生徒、【SHINYA】と声が似ていたような…。)



「で?春香ちゃん、いつからあいつと付き合ってたんよ?」


「え〜、3()()()()からだけど〜。って、マジやめてって言ってんじゃん〜。」


「悪い悪い。」


あいつらのそんなクソみたいなやりとり。



しかし、亜美にはそれがまるで天啓ように聞こえた。


【3ヶ月】


このワード。


これは【SHINYA】もインタビューで言っていて…。



『……まあな。3ヶ月付き合ったやつに…。』



亜美は思わずその男子生徒を見た。


声も…話し方も同じ…背丈も同じくらいで……。


「ほら、亜美、なにしてんの?」


「え?」


「ほら、行くよ。」


由美香に手を引かれ、そうして教室を出た。



亜美は始業式中、役員決めの間とモヤモヤ悩んでいた。


まさか…まさか…と思い、チラチラ見ているうちに、まるで本物のように見えてきて…。


気がつくと、下の名前がわからない彼…安瀬くんと同じ図書委員を選んでいた。


そして、授業は半日で終わり…机の中のものをカバンに入れようとしたところで…。


「信也くん…ううん、安瀬先輩を呼んでください。」


瞬間、亜美の動きは止まり、自然とその美少女の動きを目で追い始めると、あの春香という女たちとのやり取りが始まった。


彼女の名前は冬美、春香というあの女の妹でありながら、かなりのしっかり者らしく、姉やあの連中に一切やり込められることなく、それらを視線で蹴散らすと、安瀬くん…し、信也くんの手を取り、教室を出て行った。


「…まずいわね。」


亜美の口からはそんな言葉が自然と出ていた。


恋は戦争。


その言葉が頭の中の大部分を占め…。


そして、信也の正体が、あの【SHINYA】であると判断し、学内に冬美という強力なライバルがいることを知り……亜美は信也を軽く脅迫することにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ