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「まったく…あんなに否定しなくてもいいではないか…。」


冬美は涙目になっていたように、当然のこどく、あのバッサリと言われた「違うな。」という言葉には不満だった。


もしそれを言われたのが、興味もない男性と認識していないような有象無象ならば、気にもしないし、おそらくその仮定の下の逆の立場だったならば、信也と同じくバッサリと否定したに違いない。


わかってはいる。同じこともする。


でも、乙女心は複雑だ。正論など通じはしまい。あるのは感情論なのだから。


「…信也くんのばか…。」と呟くと、せっせと一応準備しておいたものを探し始めた。


それはものの数分で見つかるのだが、それを見つけると、冬美の不満などはすぐさまどこかへ行ってしまう。


「ふふふふ♪」


手にしたのは、普段制服以外ではあまり着ることはないスカートタイプの服。本当に1%以下、万が一のことを考え、3ヶ月前の姉が信也と知り合いだと知ってすぐに、チャンスに備えて買っておいた服。


冬美はまだ成長期なので、そのチャンスは永劫に訪れず、タンスの肥やしになることを覚悟して買ったもの。


まさかそれを着ることになろうとは…あの時の私を称賛したい!!先見の明あり!!と。


冬美も恥ずかしくはあるが、もちろん着たくて、その可愛い服を買ったのだ。そういう意味でも着る機会ができて嬉しい。


…それに、これを着る機会ができたということは、逃すことができないチャンスだと言うことだ。もう不満を引きずるようなことをしている暇などない。


「よし!頑張れ、私!!」



冬美はそうして勝負服に着替えると、何度も姿見で変なところがないか確認してから、キッチンの方へと向かう。


ドアから覗くと、信也は秋穂に言われたのだろう、テレビを眺めており、そんな信也を時折見ながら、秋穂は楽しそうに昼食の支度をしていた。


冬美は信也に気が付かれないようにドアを閉めると、秋穂へと忍び寄る…と言っても、秋穂には丸見えなので絶対に信也に気が付かれたくないと秋穂に見せているだけに過ぎないのだが…。


すると、秋穂も意を汲んでくれて、一度料理の手を止めると、信也から見えないように、しゃがみこんだ。


服のことはおそらく、秋穂の予想通りだったのだろう。そのことに言及することなく、話が切り出される。


「どうしたの?冬ちゃん?内緒話?」


「ああ、そうだ。」


そして、冬美はせっかくのチャンスを絶対に活かすべく、秋穂に自分の知りうる全てを話すことにした。


実は信也が姉の元カレであること。そして、先程は誂われるのが嫌なのと、信也にそれを知られる勇気がなかったからはぐらかしてしまったが、本当は自分は信也に好意を持っていること。


ここまでを聞いて、秋穂は「あらあら、やっぱりね♪」なんて嬉しそうにしていたのだが、最後に……と。



……信也が【シグマド】の【SHINYA】であることを伝えた瞬間、固まった後、悲鳴のような声を上げかけた。


「え?……えぇぇぇぇ「ちょ!母さん!!」むぐむぐっ!!」


そして、気が付かれたのではと、2人で恐る恐る信也の方を見るが、信也は丁度携帯画面を見て難しい顔をしており、どうやら気がつかれてはいないようだった。


「ふう…ひとまず大丈夫だったか…母さん、落ち着いたか?」


そう聞くと、コクコクと暴れる様子なく、先ほども気がつかれるのはまずいという反応ができる程度には、冷静なので、冬美が塞いだ手を離す。


すると、早速とばかりに冬美に確かめるように聞いてきた。


「そ、それって本当に、本当なの?」


「ああ、間違いない。姉さんと付き合ってたのが丁度3ヶ月くらいっていうので確信した。」


「……ど、どうしよう…。」


「いや、どうしようではなくてだな…協力してほしいんだが…。」


当然のごとく秋穂は自分のことを助けてくれる。冬美は秋穂が自分の()である故にそう考えていたのだが……。



「え?………普通に嫌だけど?」


返された返事は、まさかの否定だった。



「……か、母さん…。」


動揺のあまりそんな言葉しか出てこず、なぜだという思いが冬美の心を満たしていたが、その答えはあまりにもあっさりと秋穂の口で語られた。


「だって、【SHINYA】とは私が結婚するんだもん!」


だもん…だもん…だ〜もん♪


…まったくいい歳をして…ではなく、今なんて!?


結婚?父さんはどうするんだ!!父さんは!!確かに海外赴任してから、一度も帰ってこないし、どんな顔しているのかさえ覚えてはいないけれども!!


などと一瞬真面目にそんなことを心配する冬美だったが、ふとしたこと…秋穂が【シグマド】の限定エプロンをつけており、それを確認して、その考えに至った。


秋穂は()である前に、【SHINYA】の()()()だったのだ。


そう考えると、秋穂の反応にも納得がいく。


考えてみてほしい。


もし()()を…自分の子供が彼氏、彼女にしたいと言って、その機会が手の届くところにあったとしたら?


そして、それを子供が手伝えと言ってきたら?


()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!


むしろ自分が結婚したいと思っても不思議ではあるまい。



しかし、これでは単にライバルを増やしただけとなってしまう。


ま、まずい!このままでは、ただただ障害を一つ増やしただけで、協力者も得られず、一度でもこの家に連れ込めたというアドバンテージを活かすこともできない。


こうなったら…と秋穂には悪いが、現実というものを見てもらうとしよう。


「母さん、結婚してるでしょ?」


「うっ!」


「それに子供も2人。」


「うっ!うっ!」


「しかも娘の一人は同級生。いわゆる同級生のママだな。」


「うっ!うっ!うっ!」


確実にダメージは与えた。いい意味でKO寸前、もう少しで……で……。


しかし…しくしくしくしくと悲しそうな秋穂の顔を見て、冬美はその攻め手を止めた。


恋は戦。何をしても…。


そうは言うけれど、母親をこれ以上攻めることなど冬美にはできなかった。


「……ごめん、母さん。言い過ぎた。」


「冬ちゃん?」


「…だから…あ〜……もし付き合えたら、ちゃんと母さんと信也くんの時間も作るし、邪魔もしないから…だからっ!」


「……え?いいの?」


「ああ、もちろんだ。」


「やった!!やった♪ホントにホント?デートしてもいい?」


「ああ、もちろんだ。私も信也くんを説得する。」(ダメだと言いたいが、背に腹は代えられない。)


「オッケー♪全力でサポートするわ!お母さんにドーンと任せなさい!!」


冬美としては秋穂が元気になりよかったと思う一方で、少し不安ではあったが、基本的に秋穂は有能で頼りになるので、一種の安心感をも得ていると、ふと秋穂の表情が真剣なそれになった。


「じゃあ、まずはね…。」


「ま、まずは?」


「……私も着替えてくるから、残りお願いね、冬ちゃん♪」


冬美は頼る相手を間違えたのではと思い、盛大にため息をついた。


「……はあ……。」



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