1.6.2
信也は放課後居残りする羽目になった。
こんな話をし始めれば、図書室での作業が残ってしまったのかと思うかもしれないが、そうではない。
彼がいたのは、さまざまな部活動が声を張り上げ、青春の汗を流すところ…そう、グラウンドだった。
グラウンドでなにをするのか?
流石にこれ以上は野暮か。
…まさか俺が面倒な女こと、愛の手のひらで踊ることになろうとは。
おそらくあの女のことだ。
この事実を知れば、身悶えるに違いない。激しく、またビクンビクンと身体を震わせ…。
「はぁ…。」
信也が小さくため息を吐く。
そこにあったのは、早々にやめたいという思いのみ。
彼としては、イケナイ美人司書とのプレイという爛れたものに臨む気などないのである。
グラウンドに来たものの、すぐさまそんな思いに駆られた彼が、心持ちサボタージュへの誘惑に乗せられそうになったところ…つんつん。
彼の頬になにやら当たる感触が生まれた。
「えい!」
これをしたのは、もう一人の面倒な女になってしまいつつある存在…もとい愉快なゆみゆみである。
「つんつん♪つんつん♪」
…そう。
この【三人四脚】に信也が参加することになった原因の一つが彼女にあった。
由美香は、今日のロングホームルームでの体育祭の競技決めの時、【三人四脚】の選手に立候補するなり、あっという間に信也ともう一人をチームとして選手登録してしまったのである。
あれはあまりにも流れるような手際であり、まるで信也がGW疲れで半分ぼ〜っとした瞬間を狙ったかのようなジャストなタイミングだったからだろう、気がつくと、それが決まっていた。
なお、信也の場合、最悪仕事が被ることも考え、本当に最低限の参加種目に登録することが、担任である柚との間で話し合い済みだったため、信也が体育祭で参加する種目がまさかの【三人四脚】のみという事態になってしまったというわけでもある。
「ほ〜れ、うりうり〜♪」
イケナイプレイをする要因を生み出した彼女のこんな行動に若干の苛立ちを覚える信也。
そんな由美香は知ってか知らずか、【ホッペつんつん】やめたと思ったら、今度は指を器用にも爪が当たらないよう押しつけ始めて…。
「やめい。」
「きゃん♪しんやんのいけず〜♪」
「……。」
信也がそのように目に見えて煩わしそうにしたわけだが、そんなのは関係ないとばかりに、由美香は本当に楽しそうに笑っている。
「えへへ〜♪」にこにこ。
「…はぁ…。」
やれやれ。
こんな笑顔を見せられては、呆れつつも小さく笑みを溢すしかあるまい。
信也が嫌なのは変態とのプレイであって、別に彼とて、彼女たちと【三人四脚】するのが嫌というわけではないのだから。
「…で?何の用だ、ゆみゆみ?」
「おっ!しんやんの笑顔、珍しいね!これはチェキチェキだ!」
「はいはい。」
「ちょ〜!ノリ悪〜い!ゆみゆみ、ぷんぷんだぞ!」
「はいはい。」
「うが〜!!し〜んや〜ん!」
信也はさらに悪感情が消え去っていくのを感じていた。
由美香の行動を見ていると、それがあまりに天真爛漫であり、あの変質者まがいとは天と地ほどの差があるとはっきり思えてきたのだ。
信也は思わず由美香の頭へと手を伸ばす。
なでなで。
「まあ、落ち着け、ゆみゆみ。」
「おっ!反撃ってやつだね!ふふん!果たしてその攻撃、このゆみゆみ様に効くかな♪」
信也としてはもちろん、軽い意趣返し的な意思など欠片も持ち合わせていなかったのだが、由美香がそんなことを言い出したので、少々荒っぽく手を動かして見ることにした。
「ほ〜れ、うりうりうり〜。」
「負けないぞ〜、しんやん!…あっ…ちょっ…ひゃ〜ん♪やめて〜、あははは♪」
そんなふうにじゃれ合っていると、どうやらもう一人来たらしい。
「…信也くん、由美香なにしてるの?」
と、戸惑った様子の亜美がそこにはいた。
そう。【三人四脚】のもう一人のメンバーは亜美なのである。
信也がそう呑気にやっと来たかくらいで思っていると、由美香は信也の手を頭の上に乗せたまま、乱れた髪を放って、何にもなかったとばかりに表情だけを整え、敬礼なんてことをし始めた。
「お務めご苦労さまです!!」
「……。」
「……。」
「お務めご苦労さまです!!」
「…プッ、由美香、なにしてるの、もう…。」
「ホントにな。」
信也がシレッと由美香の頭から手を離し、亜美に同調なんてことをすると、由美香は信也に裏切り者と声を上げる。
「ちょっ!?今のはしんやんとの共同作業でしょ!!」




