1.6.1
「……は?」
信也は司書の先生兼文学部顧問である飯櫃愛の言葉に思わずそう聞き返した。
彼女はフフフとなんとも不敵に笑うと、再び楽しそう…いや、(愉悦を孕んだ)愉しそうにその口を動かす。
「フフフ、だから【三人四脚】を提案しておいたって言ったの。」
「…いや、それはわかったんだが…。」
信也自身、彼女が発した言葉でその部分は理解していた。
というよりも、【三人四脚】という言葉の意味くらいは高校生になれば、【二人三脚】の言葉に付随して一度くらい聞いたことはあるだろう。
信也が彼女の言葉に聞き返した理由は、もちろん他にある。
愛は再びナルシスティックに、不敵に笑った。
「フフフ、信也くんともあろう方がわからないのね♪ああ…なんてこと…。こんなにも文学的に面白そうなことが起こるようにしてあげたのに…。」
「…はぁ…。」
やれやれなんとも面倒な女だな…。
「…聞こえているわよ、信也くん。」
「…いや、聞こえるように言っているんだが…。」
そういかにも面倒な存在を見るような視線を送ると、愛は身体を震わせた。
ビクンッ!「あはんっ♪そう!その目よ!!もっとその目で見て!!」
「……。」
まあ、見ての通り、この愛という女はなんとも面倒なやつなのだ。
「あはんっ♪」
…おっと口に出てしまったか…気をつけないと、悦ばせてしまう。
今の彼女はかつて…確か高校生くらいの頃にヒット作を一本仕上げた天才作家の成れの果て。
天が授けてくれたそれに縋り生きる者。
敢えて彼女を悦ばせる言い方をすれば、こんなところだろう。
人とは違うと誇るナルシストにして、ドMな彼女には…。
まあ、実際は文学について拘りのある、有識者ぶったお姉さんと言ったところなのだが、時折、波一つない水面に小石を一つ放り投げるなんてことをしてくる。
「ふっ♪フフ、流石信也くんね♪こんなにも私を悦ばせてくれるなんて。」
…どうやらまた所々口に出ていたらしい難儀なことだ。
「さっさと話してくれるか?時間の無駄だから。」
…まあ、彼女にはナルシストという短所もあるので、実のところ、ドSの側面もあるということ。
「あはんっ♪わ、わかったわ…んっ♪愛、頑張る。」
そうか…頑張ってくれ。と信也がエールを送ると、愛はコホンと一つ咳払いをし、話し始めた。
「うちの学園って、美人教師が多いでしょ?」
「ああ、確かにな…。」
保健医や体育教師を筆頭に、子供ではあるものの信也の担任である柚や、さらには恋も見た目はかなり良い。
皆、美女、美少女に該当するだろう。
「まあ、要するに男性教諭の多くはそんな彼女たちの瑞々しい肢体に合法的に触れたいと思っているということよ。」
…なるほど…つまりは男性教師の助平心を煽ったということか…。
「もしかしたら新しい恋がいくつも生まれて、刃傷沙汰なんてことになるかも?ああ…私は今、他人の運命を操っている…最高っ…♪」
トリップした彼女の運命を操るなどというまるで神になったかのような妄言。
信也は放課後に再び呼び出されるという面倒な未来を回避するべく、この昼休みという短い時間を有意義に使うため、どうせ自分には関係ない彼女の言葉をテキトーに聞き流すことにし、手を素早く動かしていく。
「…えっとこれは…あっちか?」




