10
ワァーーーーッ!!!
湧き上がる歓声の中、汗を滲ませながら、ステージを後にする。
ハァハァハァ……。
信也たちが裏に下がって息を整えていると、ふと目の前に落ち着いた髪色の女性が現れた。
「はい、みんなお疲れ様。この後の出番は他のグループの演奏が終わってからだから、各自自由にしてて大丈夫よ。」
彼女の名前は安瀬愛羅。信也の従姉であり、彼女自身バンドでメジャーデビューしたものの上手くいかず、今は信也たちのマネージャーをしてくれている。
「え〜っ!まだ帰っちゃ駄目なの〜?」
これはミイの言葉。
「ミイちゃん、そんなこと言っちゃ駄目だよ。」
「じゃあ、帰りたくないの〜?疲れてない…とか?もしかしてメイちゃん手抜いてたの〜?」
いけないんだ〜!というミイの煽り。
それはメイに売り言葉に買い言葉的な返答をさせた。
「そ、そんなことないもん!!めっちゃ疲れてるし!すんごく帰りたい!!もう超特急で!!」
こんな2人のやり取りはいつものこと。
しかしながら、ここはステージの裏ということもあり、信也たちの後にそこに上がる人たちもいるわけで、次に上がるアイドルグループ(信也は名前すら知らない)の彼女たちは頬のあたりをヒクヒクとさせていた。
それを見たカナは2人の背中を押すようにして、この場から離脱させていく。
「ほらほら2人ともこんなところでそんなこと言ってないの。ほら、お昼…は流石に外で食べてくるわけにはいかないでしょうけど、お夕飯はいいみたいだから、みんなでどこかに食べに行きましょ?2人はなに食べたい?」
「肉っ!!」
「あっ、私はお魚が…。」
というような感じで…。
さてと、と信也も続いて、控え室へと下がろうとすると、グループの女性の1人に声を掛けられた。
「し、SHINYAさん!!す、凄く良かったです!!」
「?ああ…どうも。」
「わ、私たちも負けないように頑張りますので、見ていてくださいっ!!」
なにやら必死な様子で祈るように、そう手なんてものを握ってくる彼女。彼女はその手をいつまでも離さず、出番だというスタッフさんの呼び掛けにも応じず、メンバー全員がその場に留まるなんてことをしてきた。そんな彼女たちに対し、信也はと言えば…。
「???」
…まあ、こんな反応が妥当だろう。
…えっと…とりあえずここにいろ…ということか?
まあ、今日は暖かいし、タオルである程度汗は拭いたから、このままここにいても風邪なんかは引きそうにないけど…。
じ〜〜〜っ(アイドルグループのマネージャーすら含めた期待の視線)。
「…はぁ…わかった。」
「い、いいんですかっ!!」
「いいよ、わかったからさっさと行って来い!」
パシンッ!
「ひゃ、ひゃいっ!!い、行ってきます!!」
信也に背中を叩かれ、送り出させるリーダー。
そんな彼女を「流石リーダー!」「粘り勝ちやね!」「リーダー握手してください!!」などとメンバーは称賛し、リーダーの「や、やだ!しばらく手は洗わないから!」なんて言葉が、絶好調な彼女たちのパフォーマンスとは対照的に、信也になんとも言えない倦怠感をプレゼントしてくれた。
…そして、それを見ていた次のアイドルたちもまた…。
じ〜〜〜〜〜〜(期待の視線)。
ここまで言えば、その後どうなったかはわかるだろう。
概ねアイドルたちのステージが終わり、『れみね〜ど』がやってくるまでそれは続いた。
「こうして、復興記念ライブ及び式典は終わりとさせていただきます。」
こうして夕方頃、恙無く、今回のライブも終わった。
信也たちが安心して帰ろうとしたところで、大臣をしているレンの叔父さんに会い、そして…
「最近、信也くんの周りを公安がうろついているみたいだけど…君なにかした?」
…と聞かれた。




