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イルカショーには苦い思い出しかない。


あの人とのデートは中盤に差し掛かり、なんとなくあの人が私とのデートに乗り気でないことがわかっていた。


それでも一緒に楽しもうとして、私が先導して席を前の方に陣取って…。


イルカが跳ねた時、ふいに横にいたはずの彼が消え、ふと背に何かが触れるのを感じると、私はたくさんの水を被って…。



それから信也たちはポール状の水槽の中の熱帯魚や、確かに水辺にはいるけど水族?と思うペンギンなんかを見て回ると、丁度お昼時となっており、昼ご飯でも食べようかと、食堂?フードコート?おそらく後者よりの表現が正しい食事処へと入った。


中はお昼時ということもあり、人で溢れており、GWということもあるのだろう。家族客に、恋人たち、はたまたご年配方とバリエーション豊かだった。


信也は自分たちははてさて前者2つのどちらに見えるのだろうなんて考えてみつつ、秋穂に腕を取られ、同じくバリエーション豊かな料理が扱われている店たちの中から、洋食のそれへと並ぶ。


頼んだ料理はそれぞれオムライスとハンバーグ。


どちらもやはり魚たちを見てきたからか、魚介系のそれを選ぶことはなかった。


秋穂なんかは寿司や海鮮丼なんかの店並びを見た瞬間、軽く頬を引き攣らせていたのだから、当然かもしれない。


今は昼食後。


ある意味、水族館をコース料理に例えるなら、そのメインディッシュへと向かっていた。


「イルカショーだって、秋穂さんっ!!」


イルカショーという言葉に信也は興奮気味だった。


なぜ信也がそんな普段ならあり得ないそんな反応をするのかというと、信也は秋穂の手前、内心ずっと子供のようなはしゃぎっぷりだったそれを隠していたのだが、イルカというその愛らしい存在の登場でいい加減振り切ってしまったのだ。


「い、イルカショー?」


しかし、信也の出した言葉に対する秋穂の反応はなにやら芳しくなかった。


「いや…なのか、秋穂さん。」


「えっ…と…。」


正直、信也はイルカショーが物凄く楽しみだった。


昨日ネットでそれがあるのを確認した時なんか、食い入るように見ていたのだから。


だからなんとしてでも、これだけはここに来て見逃すことはなるまいと思っていた。


…でもそうは言っても、今日は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と冬美に頼まれたからここに来たわけで、彼女が嫌がるようなら、信也はそれを()()()でも我慢することは厭わない。


「…う、ううん、そんなことないわ。そうね、イルカショーいいわね。」


「…そうだろ?いいだろ?」


後から思えば、明らかに秋穂が信也を慮っていたことがわかる。


しかし、そのことに興奮気味の信也は気がつかず、秋穂の手を取ると、ズンズンと進み、会場へと。



ガヤガヤガヤガヤ。



「パパ、イルカさんまだかな?」


「ショー楽しみねっ!!」


「おお、こっちだ!こっち!!」


聞こえてくる、脈絡のない、雑多な言葉の数々。


そこにはすでに多くの人が入っていた。



「信也くん、そんなに前に座ると、水が…。」


「大丈夫。大丈夫だって!おおっ!この大きな水槽でイルカたちがっ!!」


「ふふっ、もう信也くんったら。」


どうやら調子を取り戻してきたらしい秋穂。



ほんの10分ほど待つと、遂にそれは始まった。


『お待たせ致しました!それでは当水族館自慢のイルカショーを開演致します!では早速彼らに入場して頂きましょう、トリトン、ルーシー!!』


「かわいい~~っ!!」「おおーーっ!!」


なんて湧き上がる歓声。


水槽の内縁を一周するようにしてイルカたちが入場し、進行役のお姉さんの近くへと。


そして、ショーは始まった。


水槽の周りを一周し、トレーナーの元へ。


それからいくつかの芸を披露して、ご褒美の小魚を貰い、嬉しそうな彼ら。


彼ら同様、会場も徐々にエキサイトしていった。


トレーナーが勢いよく手を振り上げ、指示を出す。


彼らは大技を披露せんと、天高く飛び上がり……。



…飛沫上がった水はあの時の再現のように2()()()()


それに秋穂は思わず目を閉じ…。


ビシャンッ!!


…しかし、あの生暖かく、徐々に熱を奪っていくあの感触がいつまで経ってもやって来なかった。


「……あれ?」


秋穂はそう呟きながら、恐る恐る目を開けて…。


「……え?」


…目を見開いた。


「信也…くん?」


「…ああ…なんというか大丈夫だったか、秋穂さん?」


そこにはびっしょりと濡れた信也の姿。


どうやら彼が壁になってくれたらしい。


「悪かったな…やっぱり秋穂さんの言う通りだった。ああ…くそ…。せっかく久々にテンションが上がったのに…。こんなことなら秋穂さんの言う通りにしとけば…。とりあえず濡れて無さそうで良かっ…って、あっ…。」


水を被ってすっかり冷静さを取り戻した信也が覗き込むような姿勢をしていると、秋穂に浴びた水が垂れそうになったので、そうはならないようにと前髪を上げた。


「っ!?」


瞬間、秋穂のほぼ眼前で明らかになる信也の素顔。


水滴る髪に、水を弾く肌。


黄金の瞳は物凄く綺麗で吸い込まれそうで…。


「……。」


「…秋穂さん?」


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