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朝9時頃、信也は学園のある駅の前に来ていた。


柱時計の周りには、恋人とのデートや友人と出掛けでもする人たちがそれなりにいて、今回信也もその中の一人である。


周りがおしゃれをしている中、服はしっかりしているのでそれはともかく、長ったらしく前が見えないのではという髪で顔が判別できない信也という人物はその場に似つかわしくなく、あからさまに歪で、こんな時間に一人でそんなところでなにをしているのかという視線が送られていた。


こんな視線を送られ続ければ、普通その場を離れるなり、もし酷ければ帰ってしまうなんてこともありかねないだろうが、まあ当の信也は生まれてから終始ゴーイングマイウェイなので、ガン無視で携帯に視線を送っていた。


「待った?」


「ううん、今来たところよ。」


と、次々と待ち合わせ相手がやって来て、駅の構内へ。


信也は携帯のニュースを読んでいた。すると、驚くべきニュースがその目に飛び込んできたのだ。


「清水松風引退っ!?」


彼女は恐らく国内歴代最高のピアニスト。信也自身、母からの勧めでその弾き方を最も参考にした、ある意味師匠のような存在。


年齢は確かにいっていたが、まさに寝耳に水。これをネットニュースで知ることになるとは思っていなかった。


「へぇ~、あの人辞めちゃうのね…。」


「っ!?」


思わず振り向く信也。そして…


「お待たせ、信也くん。」


振り向いた信也は思わず携帯を落としそうになった。


「あっ、ごめんね。びっくりさせちゃった?」


「…いや…。」


後ろから声をかけてきたのは、()()…間違いなく今日の待ち合わせ相手だった。


彼女は白のブラウスに青いロングスカートをベースに、その上からジーンズ生地の上着を羽織るように着こなしていた。ちなみに手荷物はトートバッグ。


おそらくこの着こなしは秋穂の年代の人物がするにはあまりにも若作りが過ぎて滑稽に映るかもしれない。


しかしながら、秋穂にそれはあまりにも似合っていた。


今なら、ぱっと…どころか普通に見て大学生、冬美たちの姉だと言われても違和感がまるでない。


普段というか、信也が目にしていた秋穂がエプロン姿だったため、どうやら秋穂の並外れた若々しさを捉え違えていたらしい。



これなら寧ろカナ姉より……いや、まあ…それは流石に…。


…でもカナ姉がエプロンとか同じ格好だったらどちらが年上か聞かれたらわからないかもな…。


ふとそんなことまで考えていた信也。


傍から見れば、その様子は完全に固まっているようですらあったのだ。


だから…。


「信也くん、ごめんね。やっぱり似合ってなかったよね。私も若作りしすぎかなって思ってたんだけど、冬ちゃんが…。」


「いや、寧ろ似合い過ぎてて驚いてるんだけど…。」


これは信也が頭を使わずに出てきた言葉。掛け値なしの本音。


「ホント?」


「ああ、たぶん森ガールみたいな服でも全然問題ないかもしれない…。」


「森ガール?今はそんなのもあるのね。後で調べてみようかな?」


ぎゅっと両手で拳を作り、胸の前で頑張るぞとなんてされてしまうと、なんとも無邪気で可愛いらしいとさえ思えた。


「ああ、そうしてみてもいいかも…な…。」


調子が狂う。


これが信也の心持ちだった。


普段の調子を取り戻せないまま、腕まで組まれ…


「とりあえず似合っているなら良かったわ。それじゃあ、信也くん、そろそろ行きましょうか?」


という秋穂に連れられて駅の改札へと向かった。



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