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こうして膝枕を…。
「ふふ〜ん♪」
「……。」
「ふふ〜ん♪」
「……(なでなで)。」
「ちょっ、信也くん♪くすぐったいぞ♪」
…してもらうことになった冬美。
「悪い。じゃあもうなでなではやめておくか?」
「ううん、もっとしてほしい♪さっきのは照れ隠しだ♪ホントは凄く気持ちいい♪」
信也に優しく頭を撫でられている冬美。
欲望に素直になり、普段どこかある硬さはどこへ行ったのやらというほどに、彼女はご満悦という様子。
「ふふ〜ん♪」
しばらくそれを続け、トロトロになった冬美が信也の太ももあたりに頭をごろごろと擦り付けるなんてことまで始めた頃、信也は尋ねた。
「…なぁ、冬美?どうした何かあったか?」
「え〜♪うん、らいじょ〜ぶ…らいじょ〜ぶ…ん?…あれ〜?にゃにか忘れて〜るようにゃ…う〜ん…って、はっ!」
そして、冬美はようやく思い出す。
自分が膝枕をしてもらうのではなく、冬美自身が膝枕をするのだということを。
冬美はてっきり信也がそれをしてもらっていたのだろうと思い、膝枕の準備をしようとしていた。
すると、信也が準備ができたぞなんて言って、太ももをポンポンとするものだから、冬美は思わずダイブしてしまったのだ。
これが今この状況になってしまった理由。
正直、この状況に身を委ねてしまいたくなっている自分に冬美は気がついていた。
ふるふるふるふる。
信也の太ももから身体を離そうとすると、震える。
冬美の身体は信也のそれを求めていた。
「あ、ありがとう。信也くん。」
「ん?ああ。」
冬美はなんとか身体を起こすと、信也に背を向け、涙目で歯を噛み締めつつ耐えた。
少し心音が落ち着きを取り戻すとすぐに深呼吸し、潤んで零れそうになった涙を男前に拭いて、信也へと向き合う。
「信也くん!そうじゃない!そうじゃないんだ…ぞ…。」
正座をしている信也の太ももがチラリと見え、冬美の心は揺れ揺れ。しかし、ブンブンと冬美は頭を振り、正座をすると、さあ今度はこちらの番だと手を広げた。
「さあ信也くん、どうぞ!!」
「あ…ああ。今度は冬美がしてくれるのか?」
冬美が勢いよくそんなことを言って、ブンブンと頷くものだから、どうやら信也はそれに思わずつられたらしい。
「それじゃあ失礼。」
「ひゃんっ!」
「っ!?どうかしたか?」
「い、いや…な、なんでもない。」
彼女のスカートから覗く太ももに信也の髪が軽く当たったのだ。それが急にくすぐられたような感覚で備えようがなく、妙な声を上げてしまった冬美。
「っ…っ…。」
そっと信也が太ももに頭を乗せる瞬間、冬美は横にした人差し指を噛み、声を上げないよう耐えた。
その顔は恥ずかしさと信也の体温を感じたからか、先ほどより真っ赤に染まっている。
「そ、それじゃあ…な、撫でるぞ。」
「あ、ああ。どうぞ。」
冬美は引っ叩くのではないかと思うほど手を高く上げ、そろそろそろそろと腕を下ろし、ぴとっ。
信也の頭にそっと触れた。
最初はぎこちなく、双子相手に馴れている信也と違って、怖怖と髪を撫でる冬美。
それも徐々に馴れてきて、熱に押されるような熱さが和らぎ、ほんのり心が温かくなり始めた頃、冬美にふと悪戯心が過ぎる。
この家に来て、ずっと信也は長い前髪で顔を隠したままだった。
それを払ってしまおうと、手を伸ばし…。
サラッ。
「……え?」
冬美は驚きの声を上げた。
「…どうかしたか?」
「え?う、ううん…な、なんでも…ないぞ。」
そう口にした冬美は信也から顔をそらし、口元を覆う。
なぜそんなことをというと…なんと信也の顔が真っ赤になっていたのだ。
そのことを自覚した冬美の胸を打つ。
ド〜〜〜〜キュンッ!!!
「…なんだ…冬美…。」
口調は変わらないものの、どこか照れを含んだように思える声のトーン。
今まで自分のことで手一杯で気が付かなかったが、おそらくずっと…。
そう思うと、心が締め付けられるような感覚が止まらなくなった。
キュンッ!キュンキュンッ!!
…ま、まさか…し、信也くんがこ、こんな可愛いなんて…。
冬美は初めて信也のことをそう思った。冬美の中で信也イコールカッコいいだった。それが少し覆される出来事。
そして、溢れ出してくるなんとも言えない感覚があり、それが何なのか冬美が自覚しようとしたところ…。
ただいま〜。
と言う声が下から聞こえてきた。
秋穂が帰ってきたことに気がついた信也が頭を上げ、秋穂へと挨拶しに行ってしまったので、今回のボーナスタイムはこれで終わり。
信也が部屋から出ていったからだろう。冬美は落ち着きを取り戻していき、秋穂がいなかったりという予想外の出来事でどこかに行ってしまっていた本来の目的を思い出すと机の引き出しに入れていたあるものを手に取り、そろそろ帰るという信也を送っていくと秋穂に伝えて家を出た。




