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信也は別段断る理由というものもないので、冬美の誘いを受けることにした。
すると、冬美はすかさず信也に手を繋ぐよう促してきたので、今、2人は仲良く手を繋いで歩いている。
その様子は、冬美がしっかりしてそうな美少女であり、信也が目元が完全に隠れるほどに前髪を伸ばしていることから、だらしない兄を引っ張っていく妹といったところか?
信也としては、まあ、その認識は大して間違っていないように思う。
冬美は2つほど年下で、実際に昼食を食べる場所へと案内されているのだから。
手を繋いでから、冬美はずっと顔を真っ赤にして、信也が話しかけても気が付かないらしく、ずんずんずんずんと手を引いて行ってしまうので、結局のところどこへ連れて行かれるのかは不明。
まあ、冬美の生真面目さは先ほどなんとなく感じ取ったので、変なところへ連れて行かれることはないだろうと思い、手を振り払うようなことはしなかった。
着いてからのお楽しみというやつだ。
一応、信也の中で当たりをつけたところ、洋食和食の系統別でカフェか蕎麦屋が妥当、大穴としてスイーツバイキングが案外面白いのではないかと予想を立てていたのだが、どうやらその全ての予想が覆ったらしく、冬美が完全に歩みを止めたのは、とある一軒家の前だった。
まさかの隠れ家的ごはん処!?
と、未体験な出来事に少しワクワクしていた信也だったが、どうやらそれもないらしい。
冬美はピンポンとチャイムを押すことなく、信也と手を繋いだまま、カバンを手を繋いだ方の脇に挟み込むと、ポケットから鍵を取り出し、差し込んだ。
ガチャリ。
チェーンロックは掛かっていないらしく、信也も中に入れるようにしっかりとドアを開ける冬美。
すると、トテトテとスリッパが擦れるような音がして、どこか冬美に似た綺麗な女性が出迎えにやってきた。
「ただいま、母さん。」
「おかえりなさい、冬ちゃん。」
「こ、こちらは…。」
冬美がやはり顔を赤くしたまま、チラリと視線を送ってきたので、信也が自己紹介くらいは自分でしようとしたところ、冬美の母親は頰に手を当て「まあまあ♪」と嬉しそうに微笑むと予想外の一言を言ってきた。
「まさか冬ちゃんが彼氏さんをお家に連れてくるなんて♪狭い家ですけど、自分のお家だと思って…。」
「か、彼氏だとっ!?」
「え?違うの?だってずっと手を繋いでるのに?」
「え?……あっ!?こ、これはっ!!」
「これは?」
慌てる冬美。それをどこか誂うような目で見るその母親。
冬美は楽しそうにしている母親のそんな視線に耐えきれなくなったのか、信也の手を振りほどくなどせず、丁寧にもう片方の手で解くと、両手を振って否定する。
「と、とにかく!!ち、違うのだっ!!これは信也くんが家を知らないから、家まではぐれないようにするための必要な措置であって……た、確かに…ゴニョゴニョ(そうなれば…いや、なるために頑張るのだが、やはり今は違うのでそんな偽証は許されん。…でも…少しくらいは…。)」
冬美のゴニョゴニョは信也には聞き取りづらく、誤解されたままというのは、望むところではないだろうと、信也は気を利かせ、「違うな。」とバッサリカットすると、なぜか冬美は涙目になってしまい、着替えてくるようにと秋穂に言われて、2階へと上がっていった。
ちなみに秋穂という名前は、リビングに案内されるときに聞いた。