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土日は朝から晩まで竹刀を降り続けた。


カナのアドバイスをもとに、由美香に戦いを挑み続け、敗北に次ぐ敗北。


彼女の言葉の意味を探り続けたが、やはりなにか一歩足りない。


そうは言っても、総体の前哨戦たる大会を明後日に控え、冬美は身体を休めるようにと周りに強く薦められた。


焦り故に思わず竹刀を手に取りそうになったり、走りにでも行きたくなるが、事実、最近のハードワークで随分と疲れが溜まっているのが稽古でも目に見えていたので、今日は朝練だけでなく、部活自体休み。


なのでと、いつもより少し遅めに朝起きた冬美が久々にのんびりと朝食を食べていると…。


『この前、信也くんと合コンで会ちゃって、お家にお招きしちゃったんですよね♪でへへ♪』


ブフッ…げほげほげほ。


「は、はい!?」





信也はいつものように朝起きて、朝食。


時間帯乱れることなく、家を出て、学園に着くなり、教室へと向かうと、いきなり目を見開くような出来事に遭遇した。


なんと由美香が前触れなく、なぜか怒った様子で信也へと迫ってきたのだ。


「しんやん!!あんたの元カノどうなってんのよ!!」


「は?」


元カノ?と意味がわからずに疑問符を浮かべる信也に由美香は首元でも掴まん勢いでさらに身を寄せてくる。


「は?じゃなくてね、し〜っんや〜んっ!!……。」


あっ…なんか殴られそうだな…なんて考えていた信也。…しかし、すぐに由美香の怒りは鎮静したのか、言葉は尻すぼみになっていき…。


「…って、ああ……うん…うん…や、やっぱり今はいいや…じゃ、じゃあまた後でね。しんやん。」


…などと、由美香は信也から離れていく。


その様子はまるでなにかより強い圧力を感じて、正気に戻ったかのようなものだと信也は感じた。


なので、気になった信也は由美香が見ていたであろう辺りを確認すると…。


「信也くん、ちょっといいか?」


…そこにはまたもや怒り顔の冬美が…。


彼女の言葉はわずかそれだけ。


しかし、由美香よりも遥かに有無を言わせない冬美の雰囲気に信也は大人しくついて行くと、そこは屋上だった。


信也がそんな彼女の醸し出す雰囲気にも慣れ、思わず、ははは…突き落とされるのかななんて少し冗談染みたことを考えてみると、冬美が俯いた様子で聞いてくる。


「……信也くん、あのアナウンサーの家に行ったんだってな…。」


「?」


はて?あのアナウンサー?


…アナウンサー?


アナウンサー…。


………アナウンサー?


………そんな人………ああ……ああ……そういえばあの人そんな職業だったっけ?


考えても考えても出てこなかった答えにようやく辿り着く信也。


それほどまでに彼にとってのアナウンサー像から彼女は離れていたのだ。


「アナウンサーってもしかして空美のことか?」


「空美?」


ニッコリ。


「そう、その空美さんのことだな。楽しかったか?」


そう冬美が口にした途端、ギリギリ小春日和とでも言うのが相応しい天候に影が指し、体感温度が少しばかり下がったような感覚を信也は覚えた。


一瞬、その殺気にも似たその感覚に日和そうになるが、よくよく考えてみると、なにも良いことやイイコトなどありはしなかったので、普段通り、少しの呆れを含んだ口調で答えた。


「は?別に。だってあんな酔っ払い送ってったって面白くともなんとも…。」


「えっ?酔っ払い?」と、冬美が驚いた様子で信也の言葉に口を挟んできた。


「ああ。偶々同じ店にいたんだが、その時にな…。」


それから信也は空美のことを説明。


合コンに呼ばれて、そこに空美が乱入し、場を荒らすだけ荒らして、彼女がお眠になってグースカ寝ているものだから、放っておけず…というか、処理に困って、一番合コンに乗り気でなかった信也たちが送っていくことになった。


と、なんとも怠らしのない大人モドキの面倒を見ただけだと口にすると、冬美は慌てて謝ってきた。


「す、すまない!!ど、どうやら勘違いをしていたらしい!!私はてっきり…。」


冬美が勘違いしたのは、今朝のニュースで空美が自信満々であんなことを口にしたから。


実際、今、外だけでなく学園内でも、その話題で持ちきりだ。


このことを知らないのは、そうそういないことだろう。


ちなみに、空美の言葉は勘違いだと、彼女を合コンに呼んだ空美の友人であるアナウンサーから発信され、訂正が瞬く間に広がるが、それは今はどうでもいいことだろう。


朝食の時、今日は初音と話をしていて、テレビを見ることができず、事情など知らなかった信也。


しかし、冬美の態度や口ぶりから、なんとなく空美のことをズルいと思っていたらしいことがわかった信也は口を挟むことにした。


「…もしかして…。」



「…え?」


「もしかしてなんだが…冬美はまた家に来てほしいのか?」


信也の言葉。


それは確かに冬美の望みの一つである。


…しかしながら、それは望みの一つであり、それで完結ではない。


つまり、冬美が怒っていた理由はそれではないのだ。


…が、どうやら信也はそれをわからないのか、言葉をその通りに受け取っているらしく…。


「そ、それはその…だな…えっと…。」


…そうなんだが、違う。


でも今の流れでそれを説明するのは…と乙女な冬美は悩み…その結果…。


「…うん。来てほしい。」


…と、とりあえず貰えるならと、現物で利益を得ることにした。信也の説明では亜美も合コンで一緒だったらしいし、これくらいなら問題ないだろうと返事。


「…今日でいいか?」


「……うん(てれり)。」


そうして、朝の始業のチャイムが鳴り、そんな約束を取り付け…放課後…。


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