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「良かったの、レン兄?」
「なにが?」
「亜美のこと。」
実はレニーがレンに連れて来るよう頼まれたのは亜美だった。
なんでも雑誌で見て気に入ったらしく、強引に…だったら、友人なのでレニーが止めただろうが、そうではないギリギリのラインで言い寄ることくらいは考えにあった。
しかし、レンは少し声を掛けはしたが、その程度で終えていたのだ。
これはプレイボーイなレンには珍しい。
「……ああ、まあ…ね…相手が信也だから…ね…。」
「?」
「どうやらお前は気がついていないみたいだけど、正直僕じゃ、あいつには勝てないから…。」
容姿、音楽のセンスなど、客観的に見て、レンは信也に劣っていた。
しかし、おそらく地頭はトントンでそれほど良くはなく普通、また素の運動能力ではレンが勝っているだろう。
問題なのは、信也の器用さだった。
敢えて、地頭、素のという表現を使った。つまり信也は普通の見方ならば、レンに対して、思いつく限りのことで勝っているのだ。
頭の良さはカナによる教育で…。
身体的な器用さは天性のもの。
前に信也を無理矢理連れて、プロスポーツ選手の知り合いたちと遊んだことがあったのだが、その時にプロスポーツ選手たちはそのあまりの上手さにあんぐりと口を開けた。
信也は指先から足の先まで、全てを上手く使うことができるらしく、あらん限りの能力を存分に使えるらしい。つまりは演奏や発声などの精密な作業では絶対に勝てない。
今の信也ならやりはしないだろうが、精密作業能力に音楽的なタイミングを図るセンスなんかを使って、伝説的なプレイボーイである彼の父のように女性を玩具のようにすることすら可能だろう。
…そんな相手に喧嘩を売るなんて、阿呆らしいことこの上ない。
それに加え、信也は優しく、レンがこっぴどく振られた時なんか、ドラキチとは違って寄り添ってくれたことなんかもあった。
しかし、まあ、これを妹であるレニーの前で口にするのは、流石にレンのプライドを傷つけるのだろう。だから…。
「…だって、信也のアソコはデカいからね。」
そう。下ネタだ。レニーは下ネタOKな女子。だからこれくらいなら平気だろう。そう思ったレン。
すると、レニーはレンのその言葉に「……えっ…。」と声を漏らし…呆然とした後、顔を真っ赤にして、それを逸らした。
そして、レンは気がつく。
「…まさかレニー…。」
「……。」
レニーはそっと顔を逸らしたまま。
そういえば、レニーは下ネタを言っているのを見たことはあったが、それをレンとの会話ではしたことがなかった。それによくよく思い出してみると、実体験なんかからの生々しさは皆無だったように思う。
「……。(マジか…そういうこと…うわぁ…やっちゃったよ…。)」
レンは気不味さを感じると、すぐに忘れられるようにと話題を変えた。
「…いや、なんでもない。それにしてもまさかドラキチがお持ち帰りするなんて思わなかったね。」
よかったよかったと無理に笑ってなかったことにしようとするレン。これであの僻み根性が少しはなくなるだろうと付け加え…。
しかし、レンの気遣いの甲斐なく、そのまましばらく無口なレニー。すると、家につく頃、ボソリと呟いた。
「…ドラキチが連れてったあの娘童貞ハンターだから。」
「……えっ…。」




