8
「あっ…私がおうさまだ〜、えへへ~、じょお〜さまだぞ〜、みなのものひれふせ〜♪」
その言葉を聞いた瞬間、みんな一斉に顔をしかめた。
なにせさっきのさっきだ。
また碌でもないことを言い始めるに違いない。誰もがそう思ったのだ。
…そして、それはやはり当たる。
「それじゃあね、それじゃあね…一番と三番がディープキ…。「読無さんっ!!エッチな命令はほどほどにしてくださいね。今日は未成年者もいますからね!!」……あ〜……そうだったっけ…確か……う〜ん…じゃあチュ〜は?」
早速とばかりにそう口にした空美。せっかくノリ良くスタートを切ろうとしたのに、それを遮られたからか、口を尖らせていると、レンはこれ以上余計なことを言わせまいと信也に話を振る。
「…信也、君、キスしたことなかったよね?」
「…ああ、ないが…。」
「だそうですよ。」
まあ、レンはしっかりと信也を出汁に使ったわけだ。
そして、その甲斐あり…。
「…じゃあ、ほっぺまでにしゅる…ヒック…でもそれじゃあつみゃんにゃいにゃ〜……う〜ん……じゃ〜命令変更して〜…2人で愛を語りあって〜それでいいや〜。」
…と破壊力というものは大きく軽減されることになった。
それにレンは一息つく。
すると、どこからかゴクリと生唾を飲み込むような音が聞こえた。
おそらく男のものだろう。
それは今日は異常なほどに大人しくしていたドラキチのものだった。
驚くべきことにドラキチ…彼は実はチキンだったのだ。
男友達にはズバッと斬り込んだり、余計なことをペラペラと話すことはできるのだが、女の子を前にすると、途端に口下手になる。
今日もそのせいで目立つことなく、女性たちに「ああ。」「違う。」以外の言葉を口にすることはなかった。
そして、それでいつものように合コンは終わりを告げるのだと思っていた。
しかし、天啓が訪れたのだ。
それが2人で愛を語り合えという命令。
ドラキチはなんと3番を引いていたのだ。
まさか自分に女性と絡めるこんなにも美味しい機会が訪れようとは…。
「お、俺が3番だ。」
こう口にするとき、ドラキチは緊張で心臓が口から飛び出そうだった。
それは彼女いない歴年齢の大学生にとって、まるで宝くじを引き当てた時のようなドキドキと幸福感。
しかし、ドラキチよ。…心配はいらない。
なにせこれは彼女…読無空美の合コンクラッシャーたる所以の一つなのだから。
王様ゲームにおける彼女の技…神引きと神の悪戯。
要するに相手は…。
先ほどまでやり過ぎないようにと引率の教師然としていたその人物は、顔を真っ青にして震えながら、まるで衆人環視の授業参観で親に無理矢理手を挙げさせられるように手を挙げた。
「…僕が1番だ。」
「……へ?」
ドラキチは喜び一転、絶望の表情。
「「……。」」
見つめ合う2人。数秒の静寂の後…プッという吹き出す声が聞こえ、手を挙げさせたレニーは煽り出した。
「さあさあ、プッ、お二人さん、存分にどうぞ。プッふっ!」
なんとそれはレニーが面白そうだと思い、いつか悪戯でやろうとしていたことだったのだ。
…まさかこんなところで見られようとは…。
自分にも近々代償が降りかかるとは知らないレニーは望みが叶って、本当に楽しそうだった。
レンはそんなレニーに助けを求めるように見ていると、レニーはそんなことに気がついた様子なく笑っていた。レンはそれになにをトチ狂ったのか…。
(え〜…あんなにランク下げてもらったのにやらないの?うわ〜…それって男としてどうなの?)
…と思っての無視だと思い…。
妹に舐められまいと思ったレン。彼は覚悟を決めた様子でドラキチのもとに行くと、呆然と虚空を眺めるドラキチと真正面から向かい合った。
「……ドラキチ。王様の命令は絶対だろう?」
「…っ!?」
ドラキチは突然目の前に現れたレンの言葉への驚愕とともに、サーッと血の気が引いた。
「待て!待ってくれっ!!レンっ!!悪かった!!悪かったからっ!!」
果たして何が悪かったというのか?
ドラキチよ…そんなことを言っても無駄である。
なにせレンの目はもう限界までクルクルクルクルと回っていた。
レンはこの悪夢を意識せず…無意識という知覚認識せずの状況下で、とにかく早く終わらせようとしていたのだから。
「ああ、わかってる。わかってるさ。ドラキチ、でも君が悪いんだ。僕には君がこんなにも…。」
こんなふうにして、レンの口説き文句は始まり……。
「…愛おしいのだから。」
「っ!!………っーーーーーっーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」
……そして、断末魔が響き渡った。
当然、ゲームはその後も続き…。
9割がた空美が神引きで王様となり、どこかの願いを叶えてくれる神の悪戯(悪意があるもののみ)を繰り返す。
幸い信也のみその餌食とならなかったのだが、まあ、デフォルトとして、断末魔が響き渡った結果、そのあまりの多さから、何度か店員が飛んできて、罰ゲーム…もとい王様の命令はこれ以降自重した、よりソフトなものとなった瞬間、空美の神引きはなくなった。
ソフトなものの代表例は、兄妹の触れ合い…レンがレニーの頭を撫でるというものだろうか?
レンの優しい笑顔と、レニーのどこか嬉しそうなのだが、早くしろとでも言いたげな表情。正直あれはなんかほっこりした。なんとなく昔はレニーが喜んでしてもらっていたのだと想像できて…。
まあ、そんなものが挟まれたとはいえ、それ以前のせいか、被害は甚大だ。
ドラキチ含め数人は失神し、生き残ったレンたちは息絶え絶え。レンはなにかを噛みしめるように上を向くと、やっと終わりだと宣言した。
「…次で最後…みんな…よく耐えてくれた。僕はみんなのことを誇りに思う。」
「……レン。」「…レン兄。」「…レンさん。」
感動した様子の信也以外の面々。
「ほえ?ねむねむ。」なんて空美の声は信也以外誰の耳にも届いていなかった。
「それじゃあ行こう!!せ〜のっ!!」
「「「「「王様だ〜れだっ!!!」」」」」
これで亜美は王様を引き、彼女は最後に良い目にあって、ゲームを終える。
その後すぐ、空美が眠気に負け…。




