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おつかいの内容を聞くと、信也はさっさと買って来るかとどんどん歩いて行ってしまう。


それを見た2人は思わず追いかけようとするが、冬美は亜美に呼び止められ、ナーシャのみが信也に着いてきた。


「…お兄さん、ホントによかったデスか?」


「あ?別に構わねぇよ、たかがパンの一つや二つだろうが。」


「あ、ありがとデス。」


信也へのあれは割と失言だったな〜と思いつつ、信也って案外いい人かもと再認識していたナーシャ。


正直、ナーシャは初見の信也を少し警戒していた。なにせ前髪で顔の半分程度しか…それもマスクなんかと違って上半分が見えないという怪しい風貌だったのだ。これで警戒の一つもしない女性はあまりにも剛の者すぎるだろう。


しかし何と言えばいいのだろうか?一見寂れたラーメン屋に入ってみたら、美味しいラーメンが出てきたというのか、そんな感じで、話してみると、案外普通の人で割と優しい。口調はぶっきらぼうなのだが、思いの外愉快な人で、信也に温かい印象をナーシャは抱いていた。


これなら冬美が好きになるのもわからんでもないという程度には、現段階では認めていた。


さて、これからはこの人とどう付き合っていこうかとニヤリと笑みを浮かべていたナーシャ。


すると、ナーシャは誰かにぶつかって…。


「きゃっ!」



「おいコラ、どこ見て歩いてやがんだ?」


そんなこと言ってくる相手から悪意を感じた信也は咄嗟に殺気を込めつつ…。


「あ?テメェこそどこ見てやがる?」


と言うと、その相手は急な反撃にビビったのか引きつった表情で固まり…そして、信也も動きを止めた。


…って、春香の彼氏?なんでこいつがここに?


「……っ!?…ハッ!イキがってんじゃねぇぞ、俺に女を奪われた陰キャの分際で!」


と、信也の肩を押し、来た道を戻って行った。それもいつもの取り巻きどもなしのたった一人で…。どうやら珍しくも単独行動だったらしい。


この位置からは中庭くらいしか最短距離にはならない。だからあいつの目的地は中庭のはずなのだが、わざわざたった一人で行く理由がわからなかった。


なんであいつこんなところにいたんだ?と信也は思いつつ、思わず抱きとめたナーシャに声を掛ける。


「…大丈夫だったか?」


「え?う、うん、大丈夫。お兄さんが助けてくれたから。」


信也はその咄嗟に出たナーシャの言葉遣いに違和感を覚えたが、そのまま流すと、購買でパンを買っていくことにした。


残念ながら、時間も時間なので、人気のメロンパンはなかったのだが、面白そうなパンがいくつかあり、信也もそれをついでに一つ購入。そして、忘れないように割り箸を一つ貰うと、中庭に戻っていく道中…。


「あぁぁぁぁ〜〜っ!!ホントなんなんですか!!あの人はっ!!」


…なぜかナーシャは今頃になってキレていた。


いや、なぜかというのは、適切ではないか…なにせナーシャはさっき、あいつにぶつかられたのだから…。


「お兄さんもなんで怒らないんですかっ!!あんなこと言われてっ!!」


?…もしかして俺のことで怒ってんのか?この娘…良い娘だな…。()()()()()()()()()()()()()()()…。


「別に。だって本当のことだしな。」


そう、あっけらかんと言う信也。


それが気に入らないのか、ナーシャは信也に詰め寄るようにして、こんなことを言ってくる。


「はぁん?じゃあ!お兄さん、あんなやつに彼女さんを取られたんですか!!あいつが言っていたことが本当だとでも?ありえないでしょ!!」


ナーシャの表情は怒り一色。それからもナーシャの言葉は続いた。


まだ知り合って間もない信也のことを結構ベタ褒めしてくれ、そしてあいつのことは非難のみ。そんなあまりにも都合が良いことに、本当にこんな良い娘がいるのかと思う信也だったが、事実はしっかりと認識させねばと言葉を尽くしていき…最後…。


「まあ、ありえないって、言ってもらえるのは嬉しいんだが、本当なんだよ…な…。」


そんな信也のしみじみと言う言葉に、睨みつけるように信也を見ていたナーシャの様子は変わっていき…。


「…ホントなんですか?」


「本当。本当にあいつに彼女取られたの、俺。」


そんな冷静な信也のその返しを聞き、徐々に徐々にナーシャの怒りは落ち着いていくと、いつの間にやらどこかしょぼんとした様子となっており、今度は打って変わったテンションで…。


「……ごめんなさい。私のせいで嫌なこと、思い出させてしまいました。」


とか言い始めた。


「…お前のせいじゃないだろ。」


…まあ、おかげで実際気分が悪くなるようなこと、ガッツリ思い出したけど…。まあ、自分も色々見つめ直さなきゃとは思ったけれども…それはいずれ自分でしなきゃいけないことだったのだから。


「でも…。」


今度はウジウジウジウジしているナーシャに、笑顔で人を幸せにするという、せっかくの人間的良さを殺しているのが我慢できなくなったのか、はたまたせっかくなら今こそ笑顔で癒してくれとでも思ったのか、信也は紙袋の中を弄りだし、あるものを取り出した。


「ほれ、これでも食って元気出せ。」


「ハグッ!?」


信也はナーシャの口に、面白そうと思って買った()()クリームパンを押し込むと、苦しそうにしながら食べ進めていき、全て飲み込むなり、信也に怒りを顕にした。


「ムグムグムグムグ…ごくり。ハアハアハア…お、お兄さん!な、なんてことするんですかっ!!危ないでしょ!!危うく喉詰まらせて呼吸が止まるところでしたよっ!!まったく…。」


「美味かったか?」


「なにを言ってるんですか!!それどころじゃないですって!!…いや、確かにクリームの中から仄かに漂うベリーの香りはなんとも言えませんでしたが…って、そういうことではなくっ!!あ〜〜っ!!って、どこに行くんですかっ!?」


「いや、なんか当たりっぽかったから、まだ余っていたから、いくつか買ってこようかって…。」


「マイペースですかっ!あなたはっ!!……まったく…私がせっかく反省していたというのに…。」


「…だから別に反省なんてしなくていいって気にすんな。」


「でも…。」


「…次はなににしようか?」


そうキラリと紙袋を取り出したのを見て、ナーシャは平謝りした。なにせその中には、ナーシャがねだった大福なんてものまであるのだから。今度は餅、別名サイレントキラーに本当に殺されかねない。


「…いや、ホント勘弁してください。さっきのでも結構喉越しがキツかったんで…。」


「…仕方がない。またの機会とするか…もう元気みたいだしな。」


残念そうに呟く信也。その口元は軽く緩んでおり、その言葉でナーシャは気がついた。


「あは♪あははははっ♪」


「…なんだ?気持ち悪い笑いなんて浮かべて。」


「だって、()()、下手なんだもん!慰めるの。だからなんか可笑しくて…。」


「…別に慰めてなんかない。ただ女の口にパンをブチ込みたかっただけだ。」


こんな言葉を言う信也の頬は髪に隠れてわかりづらいが、やはり仄かに赤くなっていて…。


「いやいや、それどこのサイコパスですか…。そんな人いませんって、ありがとうございますね♪信也♪」


そして、ぎゅっと信也の腕に抱きついてくるナーシャ。それを振り解こうとするが、きっちりと密着したナーシャは、ただ信也の腕の動きに従って揺れるだけで……。信也はそんな抱き着きのプロの技を認め、早々に諦めると、購買へと戻っていく。


「あれ?本当に戻って、パン買うんですか?なら、私ももうさっきの一つ食べたいです♪なんだったんですか?奢ってください、慰め下手な信也♪」


「ん?確か新作(の()())クリームパンとか書いてあったな…(味は秘密と書いてあったか?いい毒見だったぞ、ナーシャ。)。いや、まあ、それは別にいいが…。」


「やった♪」と軽く喜ぶナーシャに、それに加え、もういい加減に面倒になった信也はぶちまけることにした。


「…それにお前の日本語下手っていう演技ほど下手じゃない。」


「え〜っ?下手ですよ~……ん?今なんて言いました?日本語下手な演技?……まさかバレて…。」


ニヤリ。


信也がそう笑うと、ナーシャの血の気はサッと引いていき…。


「ちょっ…マジで誰にもバラさないでくださいね!な、なんでも言うこと聞きますから!ねぇ!ねぇ!!」


そんなこんなで仲良くしてながら、購買に戻ると、ナーシャに謎のクリームパンだったことに気が付かれ、怒られたりとかはあったが、単なるじゃれ合いで、別段不和になることなく買い物をして中庭に戻ると、2人に出迎えられ…そして、ナーシャが信也に予想以上に懐いていることに驚かれた。


それから急いで昼食を摂ると、もう残りは軽い食休み程度の時間しかなかった。


すると、昼食後、冬美はもうすでに剣道部に入っており、ナーシャが部活動見学に行く相手がいないと言うから、なぜか信也が付き合うことになってしまい、信也が不満を言うと…。


「変なもの食べさせられたんですから!その責任くらい取ってください!」


と言われてしまい、信也は放課後の自由を諦めた。


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