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『それでは【シグマド】の先日のライブ映像どうぞ!!』


「冬美、テレビ見ながら食べるのやめなさい。」


「母さん、これだけ!これだけだからな!!」


「まったく。ふふふ、でも冬美は本当に【シグマド】が大好きなのね。」


「ん?う…う〜ん…ま、まあな…。」


【シグマド】とは、ボーカル兼ギターの【SHINYA】以外は、ベース、キーボードにドラムが全員女性のバンドで、1年ほど前からインディーズで流行っていたのだが、半年ほど前にメジャーデビューし、それ以来、飛ぶ鳥を落とすような勢いでスターダムを登っていき、いつの間にやら頂点に君臨していたのだ。


人気の理由というのは、曲はもちろんのこと、メンバー全員が超絶イケメンに美女、美少女だというのがある。


キーボードの美女の【カナリア】、ベースとドラムの双子の美少女の【ミイ】と【メイ】。


そして、冬美の推しであるボーカル兼ギターの…。


「ふふふ、【シグマド】というよりも【SHI…】」


「母さん、ちょっと黙ってくれ!今【SHINYA】が話すから!!」


おっと、危ないところだった。危うく聞き逃すところだった。


ナイスだ、母さんと内心でお礼を言うと、冬美は再びテレビに集中し始めた。ご飯は冷めるが、仕方がない仕方がない。



『お疲れ様でした。凄い熱気でしたね、SHINYAさん。』


『ん?ああ、そうだったな。…本当によかった。』


『?どうかなさったんですか?』


『…実は今日、ちょっと不安だったんだ。』


『あっ!わかりました!!緊張なさったんですね?ファンの方がたくさんで!』


『いや、それはあんまり…でもちょっと…私用で…な…。』


『?』


リポーターは【SHINYA】の言葉に首を傾げると、おどけた様子で聞き始めた。


『あはは…もしかして彼女さんに振られたとかですか?なんて、まさかね…。』


ミシリッ!!(箸が軋む音)


なんてことを言うのだこのリポーターは!!


SHINYAに彼女なんていない!!というのが公表されてはいないが、ファンの間での暗黙の了解だというのに、そこにズカズカと踏み込んでくるとは、これは絶対に炎上したな!!終わったな…このリポーター、うん!!


『……まあな。3ヶ月付き合ったやつに…。』


『……えっ?』「……えっ?」


テレビの中の観客たちがざわつきだし、おそらく全国のお茶の間も同様だろう。なにせ冬美も、テレビを見ていた母も「まさか…。」なんて言っているくらいだからな。もちろん母も【SHINYA】推しだ。


『…初めての彼女だったんだけどな…。』


珍しくしょんぼりした様子の【SHINYA】に画面内外のファンたちがキュンとしていたところ、リポーターが再びやらかす。


『そ、そうだったんですね!それなら私とかどうです!!』


「「は?」」


母と声がシンクロした。


ミシリッミシリッ!!(母の箸が軋む音)


『自慢ではありませんが、合コンとかでモテますよ!人気すぎて最近呼ばれず、なんと!!別名!!合コンクラッシャーって呼ばれてますからね!!』


いきなりなにを言い始めるのかと思い視線を鋭くさせる冬美たちだったが、合コンクラッシャーの別名を聞き、「ああ…単に残念な人なのだな…これなら間違っても【SHINYA】見初められはしまいと送り出されたんだな…。」と納得すると、冬美は、今度は立ち上がりテレビの前まで行き、張り付くようにして見始めた。


当然、母も後ろについてきている。


『私が忘れさせてあげます。あんな女の子のことなんて(誰か知らないけど)。なんだったら、今ここでキスしてみます?ん~~♪』


「キャーーー、やめろ!!や・め・ろーーーーっ!!」


「冬美!!」


ガッシャンガッシャンとテレビを揺らす冬美に流石に止めねばと、母が怒ろうとするが、すでに母の手もテレビに掛かっている。


「母さん!!それどころじゃない!!この女!【SHINYA】にキスしようと!!おのれ…このアバズレ〜めっ!!」


『ちょ!待て待てって!!』


そう【SHINYA】が手で押し留めると…って、あっ!!こいつ今!!【SHINYA】の手、舐めた!!このクソアマ……っ!!


『はい!待ちます!!待てばチュ〜してくれるんですね、はい!』


『いや、しねぇから。』


『え〜。』と不満げなリポーターに対し、画面の中とお茶の間のファンたちはようやくホッと胸を撫で下ろすと、【SHINYA】の声に耳を傾ける。


そして、今日一の話題を掻っ攫っていく一言がその口から出たのだ。



『…だって初めては好きな人としてぇから…な…。』



【SHINYA】のその言葉は時を止めた。


「「『っ…………。』」」


しばらくそのまま音のない映像が流れ、あらゆるお茶の間からも音が消えていた。


それを破ったのも、もちろんこの空気の読めないこの女。


『…………はい、つ・ま・り!!私ですね♪ではいただきます♪ちゅ〜〜〜〜♪』


『ちょ!迫ってくんな!!あ〜、とりあえずこれで以上!!またそのうちライブあるから楽しみにしてくれ!!また!!』


そうして逃げるように舞台袖に引っ込む【SHINYA】に追いかけていくリポーター。


映像がスタジオに切り替わると、冬美は立ち上がり、姉である春香の部屋にノックもせずに入って確認する。


「うわ!急にどうしたん、冬ちゃん!!」


以前との変わりように、正直お前こそ急にどうしたんだとツッコミたい冬美だったが、それを飲み込むと端的に尋ねた。


「姉さん、信也くんと別れたのか?」


そして、冬美の予想通りの返事が返ってくると、普段絶対にみせない満面の笑みとなり、スキップするように下へと降りていく。


下へと降りていく時やご飯を食べている時に、あんなやつやめた方がいいとかいう姉のことなど目に入らず、冬美は喜びに身を任せていた。


どうしたものか…ふふふっ、本当にどうしたものかな〜♪まさか信也くんと姉さんが別れるなんてな〜♪本当に困ったな〜♪ふふふっ♪


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