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「…これで連絡事項は終わり。それじゃあ、みんな気を付けて帰るんだよ〜。」


「「「柚ちゃんもね〜。」」」


…ううう……先生らしくいかないよ…。


みんなして子供扱い。


私、もう25なのに…。


…なんて、今日は悩んでられないよね♪


今日は待ちに待った日なのだから。


信也と2人きりの面談。


柚は待ち焦がれていた、一月ぶりのそれを…。


柚としてはできるだけ早いうちにそれをしたかったのだが、先生としてまだ3年目と若輩ゆえ、入学式の段取りの確認や準備の手伝いをしなければならず、進級後、この機会を設けることができなかったというわけだ。


…それが今日…ようやく…ふふふっ。


自然と笑みが浮かび、流れのままに信也に声をかけた。


「し…安瀬くん、ちょっと…。」


「?どうかしたのか?…って、ああ…わかった。すぐ行く。」


やった♪OKだ♪


柚は内心でガッツポーズをすると、ウキウキしながら、今日やることを思い浮かべ、頭の中で段取りを確認した。


今日やるのは、今月の信也たちバンドの予定とそれに伴った、いつ学校を休んだり、早退したりといったことの確認がメインとなる。


…また…これは他の生徒たちももうしばらく経ってからやる予定のことなのだが、進路調査票も昨日配ったこともあり、進路についての話もしたいと思っている。


信也は【シグマド】というバンドのボーカル兼ギター。プロのアーティストなので、他の生徒たちと違った道を選ぶことも考えられたので、早い内に進学するのかしないのか、進学するならその先をはっきりとさせておくことは、担任としてのやるべきことだと柚は考えていた。


面談というのは、【SHINYA】を独占できる時間。


世間一般の教師ならば、それにあぐらをかいて碌なことをしないのだろうが、柚は責任感もあり、基本的に真面目で、その役目の範疇で楽しむことに喜びを覚えていた。


柚自身未熟で、3年でも担任を任されたのは単なる繰り上げだと思っている。


でも、それだからこそ未来ある若者の力になりたいと時間がない中、できるだけの準備をしてきたのだ。


その成果が試される時、そう思い、頑張って調べた()()()()()()()を持ち、信也とともに進路指導室に向かうのだった。


いつもはメールなのに、今日は直接、柚から呼び出されたことに、信也は疑問に思いつつも、彼女に従ってついていく。


そこはいつもの進路指導室で、もし普通の生徒ならば、入る前に居住まいを思わず正してしまいそうな雰囲気がある。…まあ、信也はここに入り慣れているから、そんなことはなく、部屋に入ると、柚に促されるまま、普段の教室のようにソファに腰を下ろす。


すると、柚は部屋の奥に引っ込んでいき、電気ポットのスイッチを入れ、カップにドリップコーヒーのバッグをセットする。お湯が沸き、袋の中のものが溢れないように慎重に2つともお湯を注ぎ終えると、一つにはこれでもかというほど砂糖やミルクを入れ、信也のもとに持ってきてくれる。


「信也くん、コーヒーどうぞ。あっ、ちゃんと砂糖入れてないから。」


「どうも。」


もちろん砂糖やミルクたっぷりの方は柚のものだ。


じゃないと、こんな苦いものは柚のお子様舌は受け付けない。ビールはどうなのかって?それは…大人ならわかるはず♪あの麦とホップのハーモニー♪クイッとやって♪あのシュワシュワとした喉越しが…ジュルリ♪おっと…今はそんなこと考えていてはいけません。信也くんに変な目で見られてしまいます。


柚は咳払いをすると、話しかけてきた。


「こほん。それじゃあ、始めよっか?」


話はまず、信也の仕事のスケジュールについてのことから始まった。


信也は今月の中では来週が一番忙しいので、そこが話の中心となりそうだ。


「そうだな…まず来週は、放課後が全部仕事。それと半分ほどは学園を休ませてほしくて…。」


信也は柚に要求を伝えていく。


一応カナが出席日数の計算をしているらしく、そのあたりの問題はないのだが、学園が許可しているのとしていないのでは、教師陣の評価の仕方がまったくといっていいほどに違うらしい。


まあ、なんの理由もなく、学校を休んでいるのは単なるサボりで、それでもし信也のようなテストの点を取っているようならば、目の敵にするような相手が生まれてもおかしくはあるまい。


たとえ、移動中の楽器に触れないところでは、しっかりと教科書を読み込んだり、宿題をしたりしていたとしても…。まあ、期限内に学校に行けないこともあり、睨まれることもあるのだが、それは仕方がないことだと割り切っている。


「うん、わかりました。じゃあ、他の先生たちに小テストや宿題がないかなんかを確認しておくね。あと、まだ今学期始まったばかりだから、もし小テストなんかがあったら、補習になるかもだけど…そこは頑張って。」


「…はい。」


こんなふうにして、コーヒー一杯分が丁度飲み終わる程度の時間で、柚との話し合いは終わる。


そして、信也がさて帰ろうかと思ったところで、柚が待ったを掛けてきた。


「信也くん、ちょっと待って。」


そう引き止めた柚の表情はなぜかよくわからないのだが、自信に満ちていて、いわゆるドヤ顔をしていた。


なんとなく、漫才のフリのような空気を読み取った信也だったが、もしかしたら気のせいかもしれないと思い、再びソファに腰を下ろす。


「信也くんは大学進学は考えてるのかな?」


「ああ…まあ…。」


そう信也が口にすると、その小さな胸を張るようにして、鼻を鳴らす柚。


「ふふんっ、だと思いました♪信也くん、授業とか真剣に受けてるから大学に行って勉強したいんだろうって♪」


頑張ったことを褒めてもらいたい子供のように、ノリノリで柚は話を続けていき…。


「なので今回は先生頑張っちゃいました♪」


この言葉で信也はやはりあれはフリだったのだと確信した。


あっ…これは…いつものやつだ…。


以前から柚は信也にあれこれと先生として、提案してくるのだ。毎回なにかしら調べてきては教えてくれる。しかし、それは何一つとして取り入れられたことはない。


だから、信也は柚のことを表現するときはいつも()()()()()()と形容する。


今回もそのパターンだと気がついた信也が「先生…。」と止めようとしたところ、そんな信也の声も聞こえないほど興奮しているらしく…遂に…。


「有名人と言えば、AO入試!なので、先生、これについて頑張って調べちゃいました!!」


……やってくれた。まったくもってやってくれた。


「柚先生。」


「なんです?」と喜び勇んだ彼女に、信也はそっと一枚の紙を取り出し、先日のカナとのやり取りから生まれた考えもついでに伝えた。


「ふえぇぇ……。」


信也はそう声を上げた彼女が落ち着くまで側にいてやり、帰り際、ライブチケットを何枚かあげると、笑顔で信也を見送ってくれた。


…まあ…いい先生なんだよな…本当に…これさえなければ…。



そう信也が学園を後にしようと歩いていると、夕焼けの中、桜の花びら散る校門のところに…。


「亜美?」


「あっ、信也くん…遅かったね…。」


「?…まさか待ってたのか?」


「うん、まあ…ね…。一緒に帰りたくて…。」


「それじゃあ、帰るか?」


「うん♪」


そして、帰り道、信也が遅かった理由を話し……。



亜美は家に帰るなり、()()()()()である母絵美にこう声をかけた。


「ママ、勉強教えて!!」


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