1.1.1
艶めかしい映像が安瀬信也の携帯から流れていた。
もし知らない人が横から覗けば、誰もがAVだと思ったに違いない。
『ハアハアハアっ!!さっさと言わねえとやめちまうぞっ!!』
『あん♪ハアハアハア…ご、ごめんね〜ん♪信也く〜んっ♪アタシっ、身も心もこの人のものになっちゃった~の〜っ…ハァ〜〜んっ!!』
…それが完全に無修正で、自分の名前を呼んでいなければ……。
彼女だった女のその様を見れば、普通どう思うことだろう?
怒りに震える?
それとも焦燥感で動けなくなる?
しかし、信也の答えはそのどちらとも違った。
「……はぁーーーっ…マジか…。」
純粋な驚きだった。信也は拗れたときのため、それを保存し、さっさと髪型なんかの身支度を整えると、仕事場へと向かった。
それから数日が経ち、安瀬信也が高校3年生となった。
クラス分けを見ると、運悪くも彼女?である三瀬春香と同じクラスで…。
教室に向かい、信也は春香を見つけると、声をかけた。
「春香、俺たち別れるのか?」
「あれ見たんでしょ〜♪ならわかるはずじゃ〜ん♪」
こんな言葉遣いは確か彼女はしなかったように思う。もともと彼女は銀縁眼鏡に三つ編みという地味な見た目で、おどおどしていた。
しかし、今ではすっかり垢抜けて、せっかく綺麗だった黒髪を金髪に染め、メガネからコンタクトに。それから制服も着崩し、もともとよかったスタイルを見せつけるような風体へと様変わりしていた。
映像では見たが、あまりの変わりようにまるで別人と話しているような感覚を持ちつつ、明確な言葉にせねばと思い、しつこいとは思いながらも、口を開く。
「…本当に?」
「ちっ、しつこいな〜。あんたと付き合ったのは気の迷い。別れよ。」
信也が案外すんなりと、「わかった。」というと春香は少し見直したとばかりに、面倒そうな表情から悪い笑顔になると、楽しそうにこう言ってきた。
「アタシには本当に好きな相手ができたんだから、男なら応援しなよね〜。縁がなかったの♪じゃ、そゆことで〜♪」
そう告げると、彼女はいわゆる陽キャという連中のところへと戻っていき、媚びた声を上げた。
「きゃ〜ん♪空也〜♪」
「ねぇねぇ、春香ちゃん、何があったの?」
「う〜ん?ちょっと別れ話。」
「別れ話?あ〜…そういや、春香ちゃん、あの陰キャと付き合ってたんだもんな〜。ぷ〜くすくす。」
「ちょ!やめてよ!!あんなやつと付き合っていたなんて、思い出したくもない黒歴史なんだから!!手は繋いだことあったけど、念入りに消毒したし、チューもしたことないも〜ん♪アタシは空也一筋だし〜♪」
「おいおい、そのへんでやめろよ。聞こえたら可哀想じゃねえか。」
と、どう見ても誰が見ても聞こえさせるためにやっているようにしか見えないそれを見て、ある者は信也を見下し、ある者は同情したような視線を向けていた。
まあ、当の信也は完全に終わったこととして、スッパリと割り切り、むしろ面倒ごとが終わり心晴れやかに準備をしていたのだが、それが周りには強がっているのだと思われていたらしい。