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第3章 幼馴染ディアン


史郎の朝は遅い。

同級生が既に農作業に勤しんでいる中、

やることもない(親曰く、そんなことはない)ので、ゆっくり寝ている。

両親と兄は早朝から農作業に励んでいるが、そもそも田畑を受け継ぐのが兄なのだからあたりまえだと史郎は思っている。

いずれは兄のものになる田畑を何故自分が手入れしなければならないのだ!!


母の罵声で目覚めたとき、すでに陽は高くなっていた。

また、父のため息と母の小言を聞かねばならない。

兄はもう、史郎の存在を無視している。

史郎はそれに、腹が立つ。

だいたい、15歳で働かなければならないなんて、ありえない話ではないか?

日本だと学生生活を謳歌していてあたり前の年齢だ。


あの女神、シャーリーもずいぶん文化レベルの低い世界に送り込んだものだ。

それなりに名前の知られている大学に進学した自分には不釣り合いな文化水準だ!!


文句を心の中に浮かべつつ、史郎は台所に向かう。

日本の母は、毎日史郎の食事を準備してくれていたのだが、こちらの世界の母は世界が異なるにも関わらず「働かざる者食うべからず」精神を持っているので、史郎の食事は準備しない。

文化水準が低いから、倫理観も乏しいのか、かわいい息子の食事を準備しない母などいるものか!!と史郎は腹に据えかねている。

(口喧嘩で確実に勝てないから何も言わないが)


台所には誰もいなかったので、こっそり食べ物を漁る。

先ほど史郎を怒鳴った母は、また田畑に戻ったようだ。

台所と言っても、日本のようにボタンひとつで火がつくことはない。

火をつけるために毎回魔法を使わなければならないし、火を消すために水瓶に水も準備しておかなければならない。

史郎は魔法が不得手である。

そんなちょっとした魔法でも、彼にとってはそれなりの労力だ。


ちなみに神学校の試験には魔法の実技がある。

他国軍やモンスターから街を守る際、ヒーラーとして教会から軍や自警団へ派遣されることもある。

神学校の試験を早々に諦めた最大の理由でもある。


ということで、朝食はいつものパンとミルクとチーズ。

農業牧畜で生計を立てている村なだけあって乳製品だけはまぁ豊富だ。

しかし、味気ない‥

日本の母が準備してくれていた、雑穀ごはんと具沢山の味噌汁が懐かしい‥。

硬いパンをミルクで無理矢理流し込む。


玄関から戸を叩く音が聞こえる。

「ルーク、起きてるか?」

荒々しい声、この時間にくるのは、幼馴染のディアンしかいない。

いらっしゃい、の返事もしていないのに、ディアンが台所に入ってくる。

「なんだ、ルーク。起きてたのか。部屋空っぽだからこっちに来たんだ。」

勝手に人の家を徘徊するな、史郎は苛立つ。

しかし、ディアンは大柄で顔もイカツイ。

逆らうのは、怖い。

「もう昼だ。あたりまえだろ」

「いつも寝てるだろ。おばさんが起こしにきたか?」

「まあな。」

「お前の母ちゃん、ハズレだよな。厳しすぎる。」

それは同意だ、史郎はうなづく。


ディアンは、史郎の(この世界の)母をよく思っていないし、母もディアンをよく思っていない。

こう見えて、ディアンは、村一番の秀才であり、史郎の同級生の中で唯一神学校の試験に合格した。

その時は、史郎の家族もディアンを褒め称えたものだった。

しかし、ディアンは入学早々に落ちこぼれ、登校拒否となった。

有名校に入学した田舎の中学の秀才が周りのレベルの高さに圧倒され、井の中の蛙だったと思わされるパターンである。

もはや、退学になったと噂されるほど。

それ以来、母含め村人たちのディアンへの評価はだだ下がりである。

ディアンより成績が優れなかった同級生は、今はそれぞれ職業訓練学校に元気に通ったり、家業にいそしんだりしている。

とてもじゃないが、そんな同級生に会えるわけがない。

だからこそ、ディアンは、劣等感を抱えずにすむため同じような境遇の史郎に会いにくるしかないのだ。

史郎もディアンの思惑は感じている。

が、家族からは鼻つまみ者、親しい同級生も他にいない史郎にとって、つるむ相手はディアンしかいないのだ。

「なあ、街に行かないか?」

「はぁ?なんだ?」

街とは、この村の近くにある港町のことだろう。

「旅芸人が来たんだよ、その中にめっちゃキレイな踊り子がいる」

「だからどうした。」

「キレイな女だよ、見たくないのか?」

「見てなんになる?」

「つまらないやつだな、声をかければワンチャンありかもしれないだろ。」

この世界の貞操観念は、現代日本より低い‥

ちょっとお気に入りの異性がいたら、ヤル。

性病とかの脅威もよく知らない者が多いからだろう。

が、もてない男に身を捧げる奇特な女はそういない。

大柄で男らしく、かつては将来性もあったディアンは村の学校時代にはもてていたからそういう考えになるのだろうが、史郎には縁のない話だ。

しかし、毎日樽みたいな体型の母親ばかり見続けるのも飽きた。

「旅費はおまえ持ちな。」

ディアンの家は、史郎の家より裕福だ。

「しみったれたやつだな。もてないぜ」

そう言いながらも、ディアンはにやりと笑った。



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