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第1章 いざ、異世界へ!

高藤史郎は給与明細を見てため息をついた。

新卒から10年、そこそこの勤続年数はあるのにこの給料。

それなりに有名な私立大学を卒業しているのに、同世代平均年収にかろうじて届く程度。

勤め先は東京都内の老舗の医療機器メーカーだが、営業職を重んじる人事をしているため、総務や経理など裏方の課での勤務が多い史郎はなかなか出世しないのである。

史郎自身、同年代の医師に頭を下げるのが嫌で営業を避けているのでもあるが。


「高藤さん、営業2課長から、先月の出張の精算はまだかと問い合わせがありましたが。」


上司である経理課長の質問に、史郎はアタフタしながら答える。


「あっ…あっ…今からやります」


忘れていた。

課長なんだからそこそこ給料もらってるだろうに、精算くらい待てよと心の中で舌打ちする。


「お願いしますよ、営業部は出張が多いですから、なるべく早く精算してあげないと。」


課長の小言にクスクス笑う周りの社員。

…ムカつく。


営業2課長の出張精算を終え、退社したのは既に定時後。

他の社員はとっくに帰っている。

まるで史郎が要領が悪いかのように思える。


「あいつら、適当な仕事してるからな。」


課長にも小言を言われず、他の部から精算はまだかとせっつかれず、涼しい顔をして仕事を定時に終わらせる隣の席の女の顔を思い出す。

ああいうのがいるから自分みたいな慎重型が仕事が遅いように見えて困る、だいたい隣の自分がせっつかれているのをみたら「私、手伝いましょうか」くらい言えよ!!と史郎は心の中で毒づいた。


苛々しながら会社を出て、横断歩道を渡ろうとする。

そこに、トラックが突っ込んできた!!


高藤史郎の意識は、そこで消えてしまった。



「目覚めて…」

声のおかげで目が覚めた。

そこには、草原が広がっていた。

青々しい草、風は気持ちがいい。

そして、ひとりの女。

「あなたは、死んでしまいました。」

唐突な台詞、意味がわからない史郎。

「いや、俺、生きているよ。」

トラックの記憶はあるが、痛みもない、助かったんじゃ?ここがどこかはわからんが。

「ここは、世界の狭間。一度目の人生に悔いがある方はここに召喚され、女神たる私の力により転生するのです。」

「世界の狭間?転生?何言ってんだ?家に帰るよ、お袋がうるせえんだ。」

史郎の母親は、30過ぎた息子の食事や洗濯、部屋の掃除を今だにやっている。

夕食の準備のために史郎に遅くなるのか毎日聞いてくるのである。

ろくに友人がいない史郎が遅くなる理由は残業しかないのだが。

スマホを取り出すためにポケットを探るが、ない。

というか、服もまったく違う。スーツではない。

ゴワゴワした貧相な麻のシャツにズボンである。

まるで、RPGゲームの村人が着ているような…。

女の服装も現代日本のものには見えない。

美術の教科書に載っていたヨーロッパの絵画に描かれている女神が着ているような服装だ。

それに、金髪。顔立ちは完璧に整っていて彫りも深い。

日本人には見えない。


「あなたは、元の世界へは帰れません。」

「な、、そんな」

見渡す限りの草原。

そんなもの、都内にあるようには思えない。

「あなたの人生には悔いがあった、だから、二度目の人生を生きてみませんか?」

悔いは…あった。

小言がうるさい課長、協調性のない同僚…。

そもそも、俺の学歴にはもったいない会社なんだと何度も思っていた。

それなりに知られた私立大学を出たのに、その経歴を誰も評価しない!

転職しようと思い転職サイトにエントリーしたこともあるが、「今の会社での培ったスキルが不明確」と狙っていた会社には落とされた。

その「今の会社」がろくな経験を積ませてくれないんだよ!と歯がみしてしまった。

親も当てにならない。

中小企業のサラリーマンだった父にはろくなコネがないから、就活もうまく行かなかった。

しかも実家は千葉の田舎。都内の会社まで通勤に1時間以上かかるのだ。

もっと都心に家を買えと、何度思ったことか!!


「二度目の人生は、日本で送るのか?」

「いいえ、違います。あなたの生まれた国とはだいぶ異なる…魔法や神の奇跡がある世界です。文明レベルは落ちますが…。」

「能力とか身分は選べるのか?」

「身分は平民です。私を信仰してくれるある世界のシャルマル地方というところにある村の子供として生を受けます。シャルマル地方の中であれば、私の加護をあなたは受けることができます。受けた傷は自動で癒され、また、あなたが他者を癒すこともできます。魔法の威力も高くなります。」

「シャルマル地方っていうのは、広いのか?人はどれくらいいるのか?」

「そうですね…あなたの生まれた国の、本州と呼ばれるエリア並の広さでしょうか。人口は、だいたい1000万人。」

「それだけ広くて人もいるところで加護が受けれるんならなんとかなるな。どうやって使うんだ?」

「我が名はシャーリー。シャーリー神の加護を、と唱えなさい。」

それは楽でいい。

医療機器メーカーに勤めていたからわかる、医療者は食うに困らない。

命がかかっているんだ、貧しい奴でも必死で治療費を工面する。


あのまま日本で生きていても、つまらない親、上司や同僚に囲まれて生きていくだけだ。

なら、いっそのこと異世界に!!


「心の準備はできましたか?」

女神の言葉に頷く。辺りが光に包まれる。


「それでは、二度目の人生を。」


光に包まれながら、史郎は女神の目に涙が浮かんでいるのを見た。


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