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双子魔女なのに1人で家を飛び出しちゃいました  作者: 夕ノ森風花
中等科・一年
1/15

入学式&入寮

人間は貴族

エルフは平民

獣人は先生

やんちゃ坊主は傍若無人

 お姉ちゃんと私は、顔が似ていても性格まで似ることはなかった。

 今やこんなに離れたところまで来てしまった。

 もう一緒に暮らすことはないだろう。


「次、レディシュ・ツンドラ」


 名前が呼ばれたので緞帳裏からすべり出して舞台の中央へ。

 今日は王立魔術学園の入学式。全校生徒が見ている。

 自立心を養うだかなんだかで家族の参加は許されない。

 良かった。両親やお姉ちゃんが来ているってことはない。


 膝を折ってお辞儀をして校長先生の発したきらめく魔法を身に受けると、来た方向とは反対側の舞台袖の方へと歩き去る。同室になった子と昨夜練習をしたためあまり緊張はしなかった。先に終えて待っていてくれたのか、今も私の出番が終わるなり腕を掴んで耳を寄せて来た。


「可愛く出来ていましてよ」


 彼女は貴族出身で家名や爵位もとても長い。未だに覚えることができていない。

 ごめんね、新しい友よ。私は貴族じゃないからお辞儀を覚えるのに精一杯だったの……。

 通り名だけはしっかり覚えてるけど!


「ユウ=レイ、ありがとう」


 にこぉと笑うと、眩しいものを見たかのように長いまつ毛を伏せて「どういたしまして」と言いながら、鋭くこちらに視線を這わせてきた。出たな、貴族様お得意の伏し目。見ているものや感情を悟られないように観察する仕草。これほど近くに身を寄せ合っていなければ分からないだろう。この子はどんなに私に親切な態度を取ってくれていても、生まれ育ちが違うよね。もうみんなさっさと私達を通り過ぎて教室に向かっているから、誰も遠くからでも見てなんかいなくても。


「ユウもさすがノーブルな身のこなしだったよ」

「それは私、生まれてからずっと、朝夕のカーテシーは欠かしませんもの」


 何を言っているかよく分からないが、お辞儀は得意だということだろう。

 視線を上げて真っ直ぐこちらを見て来ていた。自信のあることははっきりと申し入れる、堂々とした態度。やっぱりこういうところが私達とは違うよね。一挙手一投足に感心してしまう。次はこの子の長い家名を覚えなきゃなぁ。爵位は学園にいる限りそうそう使うこともないんだろうから、後回しでいいや。


 『幽霊』の名が付いたのは銀色の豊かな波打つ髪が物語に出てくる善の魔女に似ているからなんだそう。私も平民とはいえ、その有名な絵本のタイトルは聞いたことがある。実際、読んだことはないのだけども。


「私達も行きましょうか」


 足音も立てず靴も長いスカートから必要以上に見せず、彼女が優雅に歩み出す。腕を取られたままの私は最初はちょっと態勢を崩してしまったけれど、どうにか横に並んで足を交互に動かし始めた。連れて行ってもらわないと教室の場所も覚えていなかった。初等科からこの学園に通う貴族達は慣れっこなんだろう。


 平民は中等科から占める割合が増えてくる。理由は簡単だ。通える距離ではない場合は入寮することになるので、近く住む貴族が子女教育として最適な学園だと選ぶことはあっても、なかなか私達には立地的に通えない上に幼くまだ魔法の素養があるかも分からないうちから子供を手離して選ぶ親は少ない。


 王立魔術学園の名の通り、王宮に近い高級街に位置している。随分遠いところまで来ちゃったな。お姉ちゃんとはもう違う道を選んだのだ。私は地べたを這いつくばってでも、たとえ人間の貴族様の靴を舐めてでも、真に平等になんかなっていない、この実社会を生き抜いてみせる。


「まずは自己紹介してもらおう。私から始めるか。教師歴2×年のウデナガだ」


 教壇に立った鋭い目をした獣人の先生がしゃべっていた。ばんっと壁を叩いたような音がした。私はユウの隣の席に収まり、身を小さくして前を眺めている。私達はいちばん前の席なので先生の口元の長い銀色のひげまで見えた。

 猫獣人かな?


「先生、ずるいです!魔法使ったでしょ」


 そのとき後ろの方から元気な男子の声が聞こえてきた。


「わざと年齢誤魔化してます!」


 畳み掛けるように言い募る。何だろう、この子は。

 お高く止まった貴族ばかりじゃなかったのかな、この学園は。


「わざと音を立てていた!」


 なるほど自己紹介の不都合な箇所を生徒達に聞こえないように上手くすり抜けたと言いたいんだろう。だからどうだというのだ。耳を見たら何だか分かるだろうし、私だってそうでなくとも平民であることを隠していたいよ。貴族からしたら今日初めてこんにちはした、馴染みのない顔だというだけで、一発モロバレなんだろうけどさ、それでも。


「はっはっは。君にもそのうち教えてやろう。教科は体術だ」


 大人の態度でスルーする。教師歴2×年だから11歳の子供の扱いはお手のもの。

 元気いっぱいなその子はちぇっと舌打ちして教室の後ろの方の元の席に着いたような気配がした。


 私はどうやって自己紹介しようかな。飛び出て尖った長い耳、見てすぐ分かる種族のことより、まずは村のことかなぁ。どこから来たのか見当も付かないだろうし。

 魔法使いにとって真名は契約に使用する大切なものなので通り名を使うのが一般的だ。レッド(赤)みたい(イシュ)は説明するまでもないだろうから、なぜツンドラなのか、まずはここからだろう。


 貴族は特に家名すら隠すことができないので大変だ。なるべく真名から遠ざけて説明しているのだろうが、あまりにも深淵で行間を読まなければならず、前提知識も皆から遅れている私はほとんどクラスメイトの名前を覚えられなかった。結び付かないんだもの。

 私や腕の長いこの獣人の先生みたいに見た目で分かりやすい名前すらしていない。ユウ=レイみたいな可憐な美少女が不名誉な名を負っていることも少なくなかった。


「俺の番かな。ブライス。無頼漢なことをするって意味だ」


 あっ。これは覚えた。


***


 ユウと寮の相部屋に戻った。気落ちしている様子だった。

 魔法の授業はまだ何も実施されず、貴族女子達はさっそくホームルーム担任のウデナガの腕を取って意気揚々と自己紹介後の校内案内へ消えていったにも関わらず、なぜか彼女は私のそばにいてくれる。


 お辞儀を覚えなければならず慌ただしかった昨夜と比べて余裕のある私は、部屋に着くなりため息を吐いた彼女のベッドに並んで腰掛けて、貴族ではめずらしい入寮みたいだから、お礼を兼ねてメイドよろしく着替えを手伝ってあげるつもりで長い髪の毛を片側に寄せた。丸い耳。すべすべしている。

 エルフは身体の中でも特に魔力の宿る頭髪が大好きだ。


「ありがと。おかげで恥をかくことがなかったよ」


 気持ちを引き立てようとして声をかける。

 こういうの、双子のお姉ちゃんがいたからかな。気になってしまって見過ごせない。

 お姉ちゃんとは小さい頃はよく部屋で2人きりになってから、両親にも話せない打ち明け話をしたものだ。


「礼には及びませんことよ」


 視線を床に落としたままだ。ピンクで蔦模様が端っこに描かれたふかふかの絨毯。

 毛並みが長いのでヒールの高い靴で歩くとつまづきやすい。よく皆、貴族女子は転んだりしないよね。簡素な家の木の床とは全然違っていた。


「制服、しまっちゃおうか」


 今日は入学式だったので同じローブにファシネーターと呼ばれる帽子姿だった。より正確に言うと今日も学園指定の制服の中に着ていた上着や靴は自分のものだが、足元までのふんわり膨らんだベル型スカートが指定されていた。暑くて動きにくいので明日からはスカートも私服になる。


 家から持って来たのは白い木綿の一枚布を腰で結いたような服ばかり。靴は絶対氷土を踏みしめても温度を伝えない、いつもの固い木靴。

 茶色という無難な色の靴はともかく白い服に赤髪の組み合わせ、やけに目立つんだよなあ……。


「ね、ユウの明日の服を見せて」


 育ちのいい彼女は言われた通り指で印を結び、さっと立ち上がった瞬間には制服よりも更に枚数を重ねてふんわりした長いドレス姿になった。

 着替えの魔法かな、初めて見た。なんだ、手伝いが必要とかいうわけでもなかったんだ。


「ふふっ。あなたは考えていることがすぐ顔に出るのね」


 ようやく笑ってくれた。

 リラックスのために着替えさせようとしただけなんだけど、選んだ話題、正解だったみたいだ。ドレスが好きなんだろうな。

 つられて私も微笑んだ。友達までみすぼらしくなくてよかった。自分の姿は常に見えることはないけど、中等科の5年、高等科の2年、合計この先7年間はずっと視界に彼女の姿が映るんだろうから。


「見たことない光沢のある生地。触り心地も滑らか。私の出身の村の話はしたよね。とても寒いところだったって」


 王都は砂漠にあるサバンナの真ん中に位置する。

 100年ほど前に発見された地下遺跡の周りにできた城郭都市の中心にそびえ立ち、私が物心ついたときにはもう王様は今の王様だった。

 物心とはいっても私は寿命の長いエルフ種で、人間の子供が物心の付くよりだいぶ時間が経ってからなんだけどね。ウデナガ先生じゃないけど年齢の話はあまりしたくない。

 本来であれば森や山の近くに固まって身を寄せ合って暮らし、人間の貴族が大多数で構成されている王都になど、わざわざ移住するなんてしないのだけど、そこはちょっと訳ありとでも言っておこう。


「寒いところに生える木は種類が多くなくてしかも貴重だから、こんな木靴だけど一応、私の持ち物の中ではいちばん高価なんだよ」


 まだローブ姿の私。

 明日も同じ木靴。

 着替えて見せるほどの服は持っていないというのはあちらも察しているだろう。

 だけどユウがいてくれるなら、そんなに悪くない学園生活のスタートかもしれない。


「木靴って初めて見ましたわ。私達は生き物のなめし革で靴を作ることがほとんどですの」


 馬鹿にするでもなく真剣な興味に彩られた瞳を投げかけて来た。

 服だけではなく装飾品や製法にも詳しいみたいだ。


「コルセットは砂漠クジラの骨ですのよ」


 たとえローブを着ていてもコルセットを付けていたらしい。

 着替えがスムーズだったもんね。恐れ入るわ、その根性。


「この光沢生地はシルクと言いまして、とても希少な昆虫の巣を作る糸で出来ていますの」


 目をきらきらと輝かせて熱弁を振るう。

 私の知らない多種多様な生物が王都の周辺にはいるみたいだ。温かくて水も豊富な一帯では暮らしが豊かになるんだろうな。

 お姉ちゃんの残る、あの全てが氷結した暮らしとはまるで違う。


「初等科の頃よりも、試験が難しくなるそうですわ」

「実技も外部演習も、王都騎士団どの関わりも増えるそうですわ」

「国の産業に関わる実際的な教科も増えますのよ、あなたは覚えることたくさん頑張らないとね」


 色々と親切に教えてくれるけど、すでにパンクしそうだ。

 とりあえず顔を上げてくれただけでも良かったな。


 それにしてもなぜユウは寮に入ることにしたんだろう。

 メイド不在の生活になることを意識して着替えの魔法を使えるほど練習して来たんだろう。

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