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05<試験勉強編➁>

 魔剣学園に入るためには魔剣を自在に扱えなければならない。

 適性試験で見られるのは魔剣との同調性能だ。


 所持している魔剣との親和性を適性試験によって数値化し優劣をつける。

 これは木刀や模造刀の訓練では習得出来ない分野。リザにも魔剣を使って訓練してもらわないといけない。


 だが、リザは普通の魔剣を扱えない。

 魔力回路を魔剣と同調させた瞬間に魔剣が壊れる、だけで済めばまだ良い方だ。

 行き場を失った魔力が弾け爆発を生んだり、リザ自身の魔力回路を傷つけるようなこともあったらしい。


 つまりリザが扱える魔法武器は、決して壊れることの無いバカみたいに頑丈な魔剣状態の俺だけ。必然的に俺を振るって訓練することになる。


「魔剣状態になると会話が出来ない。先に伝えておこう」


 俺はまず、ここ数日でわかった自分の魔剣特性を伝えることにした。


①:衝撃を受けると衝撃を与えた物質に変化する。


➁:衝撃のラインは耐久性能に依存する。つまり人体や本に変わっているときは魔剣状態よりも小さい衝撃で姿が変わる。


③:姿に変わるのは衝撃を受けてから30分程度の時間のみ。その後は自動的に魔剣の姿に戻る。


④:自傷した場合、即時元の魔剣の姿に戻る。


「姿形はコロコロ変わるけど、魔剣特性故にどうあがいても傷一つ付かないことがわかった」


「無敵じゃないですか……?」


「自走できない物質に変えられたら無力化するけどな。でも死にはしない。俺のことは気にせず思い切りやってくれ。まずは回路接続の試験だ」


 俺は魔力を行使して手元に小さな火を付ける。

 本来なら魔力障壁を用いて自分の手を守るが、今回は無し。手元を焼かれたことをトリガーにして俺は魔剣の姿に変わる。


 そのまま地面に転がる寸前、慌ててリザが俺を両手でキャッチした。


 事前に言われた通り、リザは魔剣の俺に魔力を流し込み魔力回路を接続する。

 普通の魔剣ならこの時点でリザの魔力量と脈動に耐えきれず魔力回路が破損、融解するが、俺なら問題なく耐えられる。


 徐々に魔力回路へ流す魔力を増やし、制御可能な範囲を探っていく。すると、一定の魔力量を越えたところで小さな衝撃音がした。

 その瞬間、俺はリザの姿に変わっていた。


「大丈夫か?」


「ええ、何ともありません」


 魔力回路の瞬間的遮断は本来危険な行為だが、俺がリザの姿に変わるというワンクッションを置くことで緩やかな魔力減衰が出来ている。


「今のは回路の細い箇所に過剰な魔力が流れたみたいだな。慣れるまでは今くらいの魔力量で扱うことを心がけよう」


「はい。もう一度お願いします」


 操作に失敗すると致命的な事故が起こる前に俺がリザの姿に変わる。訓練を安全に行える非常に便利な性能だ。

 そのまま実技訓練と休憩兼講義を繰り返した。


 今まで心理的なブレーキをかけていた魔力回路の操作が、この訓練によってみるみるうちに上達した。扱える魔力量についても、魔剣の魔力障壁強化・剣速強化などの基礎スキルも順調に習得していった。


 入試当日まであと20日。


―――――


「当たった! 当たりましたよ!」


 魔剣を扱う訓練と並行して、魔力を使わない模造刀での訓練も続いている。魔道書による紙の使い魔を倒すことに成功したリザはその場で飛び跳ねて全身で喜びを表した。


 魔力回路のコントロール性能上昇が運動性能の向上にも寄与しているのか、レベル1の使い魔は難なく倒せるようになった。

 今倒したのはレベル5だ。


「まだ動けます。次来て下さい!」


「わかった。じゃあ次はレベル50だ」


「えっ!?」


 俺はレベル50のページを開き、魔力を込めて使い魔を5匹呼び出した。


 当然、飛び交うスピードと動きの不規則さは段違いだ。適宜フェイントを入れてこちらを翻弄してくる動きもある。

 だが最も大きな違いは別にある。


「レベル30を越えた使い魔は攻撃を行う。当たっても傷つくことは無いが、上手く避けてくれ」


「ふごふがっ」


 リザの顔面には既に使い魔が数匹張り付き、前が見えなくなっていた。

 リザは使い魔を手で剥がし、涙目で俺を糾弾する。


「さっ、先に言って下さい! というかなんでいきなりレベル50なんですか!?」


「それ位じゃないと遊びにもならないからな」


「……というと?」


「今度は木刀や模造刀で無く、魔剣を使って戦う訓練だ。俺を使ってこの使い魔と戦ってみよう。魔力回路の操作は俺がサポートする」


 俺は手元に火を付けて魔剣に変わる。それを掴んだリザは魔力を込め、俺の回路と同調した。


 回路同調を行うことで、リザの魔力回路を俺が一部操作する事が出来るようになる。

 この魔力操作により少し足を浮かすように重心移動をし、リザに歩くように促す。リザもその流れに逆らわず前に進んでいき、徐々にスピードを上げて走り出した。


「ちょっ、ちょっと止まらないんですけど!?」


 そりゃそうだ。まだ加速中だからな。

 リザは為す術無く俺に身体の操作を任せ、目にも止まらぬ動作で使い魔を攻撃し始めた。


 ピンボールのように素早い動きで飛び跳ねながら使い魔を追い詰めて行き、1匹また1匹と落としていく。

 使い魔の攻撃を回避しつつ、すぐに5匹の使い魔全てを倒した。


 俺が魔力回路の操作から解放するとリザはその場に座り込んだ。


「は、早すぎます。目が追い付きません……」


<今のうちにレベルの高い敵と戦っておけば、わかりやすい目標になるだろ?>


「それはそうですが……」


 そのとき、俺とリザははっとした。


 俺はまだ魔剣の状態だ。だが――――


<会話できてる?>


「出来てます、出来てますよ!」


 魔力回路の同調訓練によって、接触状態であれば意思疎通を取ることが出来るようになっていた。

 硝子越しのような少々くぐもった声質だが、きっちりリザには伝わっているようだ。


「こんな声していたんですねノエルさん」


<やめろ恥ずかしい。だが訓練がやりやすくなったな。さっさと続きをするぞ>


「はい、頑張りましょう!」


 また一つ成長を重ね、俺達は試験に向けて前進していく。



 入試当日まであと15日。

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