41<学校交流会前日②>
レインに代わって、呆れ顔のリザが仕切り直すように話を進めた。
「えーと、もしそうならティナさんから情報を聞き出そうとするとナディア校長から目を付けられてしまいそうですね」
「ああ。ティナが事件詳細を知っている、という情報を掴んでいるのは俺と賊の一味だけだ。逃げ延びたティナを始末しに来たと思われかねない。そもそもティナが知ってることは俺も知ってるし、何より――事件をもう一度思い出させるのは忍びない」
リザは頷き、ひとつ提案をする。
「ではティナさんを巻き込まず、お兄様のアルト・フロックハート先輩から情報を集めましょうか」
俺も二つ返事で同意した。
「そうだな。事情聴取もあっただろうし、事件の調査が何処まで進んでいるかをある程度把握しているだろう。魔法警察の担当者が分かるだけでも御の字だ。尚且つ味方についてくれれば最高だな」
「恐縮ですが、その……味方にならない可能性もあるのですか?」
リザは恐る恐る疑問を呈す。
姉妹仲がお世辞にも良いとは言えない、リザの家庭環境故に出てきた質問にも聞こえた。
「兄貴は誰にでも優しい奴だ。敵に回ることは絶対に無いさ。ただなんというか、陰キャ……じゃなくて人見知りだから、やり方を間違えると表に出てきてくれなくなるかも。こっそり会いに行った方が良いだろうな。人前に出るの嫌いだし」
そう言うと顔に足形の付いたレインが復活してきて、茶々を入れる。
「表に出るタイプのノエルとは真逆だな」
「あー? 別に俺だって好き好んで舞台に立ってるわけじゃ……」
きょとんとしているリザが目に映る。
しまった、と俺は咳払いして話題を逸らそうとする。
「あー、今その話はいい」
「部活の話だよ。僕とノエルは演劇部でね」
「あぁっ!? 言うんじゃねえよー!」
レインに掴みかかる俺に、リザの輝く眼差しが飛んでくる。
「俳優をされているのですか!?」
「あーやめろやめろ! 絶対もうやらないからな!」
否定する俺を余所目に、レインはリザに余計なことを言う。
「10月の文化祭までにノエルの体を元に戻せば、君も演劇を見れるさ」
「元に戻るための理由がまた増えましたね、ノエルさん!」
リザは振り向き、明るい声色で俺に同意を求めてきた。
「リザ、そんなに張り切らなくていいから……」
その声が届くわけもなく、リザは奮起して宣言する。
「さあ、善は急げです。校長先生のことは気にしても仕方ありません。早速アルトさんのもとへ向かいましょう!」
――――――
俺は自傷で魔剣状態に戻り、リザとレインに同行する。
兄貴の自室がある宿舎棟は、普段俺達が入らない3・4年次生徒専用の区画になる。
用も無く1年次生が入り込めば呼び止められるかもしれないが、そのときはちゃんと体の良い理由を持ち出すことが出来る。
リザとレインは対抗戦の出場メンバーだ。そして明日に交流会パーティを控えている。
前日に挨拶に来たとでも、気を付けておくことが無いか質問しに来たでも良い。何とでも言い様がある。
「貴方達、ちょっといいかしら」
宿舎棟の前まで来ると、とある生徒に声を掛けられた。
4年次生のエイル・ライラック。
俺達と同じく交流戦の代表メンバーであり、通信魔術に長けた銀髪の少女だ。
生徒達のリーダーやまとめ役を買って出ることが多く、規則・規律に厳しいタイプの生徒でもある。
ここに来た理由を問われるのだろうなと思った矢先、思いもしない質問が飛んできた。
「アルト・フロックハートを見かけなかった?」
リザとレインは目を見合わせた。
「……私達もアルト先輩を訪ねて来たのですが」
エイル先輩はうなだれた様子で腕を組む。
「なんだ、私と同じね。自室には居ないわよ。はあ、全く何処へ行ったのかしら……」
エイル先輩は俺達を咎めることなく踵を返し、嘆息しながらその場から去って行った。
「……空振りですね」
リザは肩を落とし、レインは肩をすくめた。
<ま、そういうこともあるさ。もしかしたら明日の交流会に出たくなくて逃げたのかも>
「そんなに人見知りなんですか? いくらアルト先輩が比類無い傑物といっても、それは先生達や代表メンバーから怒られますよ」
<だよなあ。兄貴もそれを分かってるから、ぶつくさ言いながらも参加してるイメージだったけれどな>
あのエイル先輩に引っ張られて、兄貴が渋々連れ出される姿が容易に想像できる。
「では、流石に当日にはお会い出来るでしょう。会場でアプローチをかけることにしましょうか」
リザの提案にレインと俺は同意し、帰路につくことにした。




