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40<学校交流会前日①>

 魔剣学園内の体育館(室内運動場)は大きく分けて三つある。


 学園内最大、延べ床面積30,000平方メートルの広さを誇る第一体育館。

 大きなイベントや主たる授業で使われる。使用予約には3名以上の教師の許可が必要。生徒の主導で借りるにはハードルの高い施設だ。


 次に広い、第一体育館の6分の1程度のスペースを持つ第二体育館。

 レインと決闘した施設もこれだ。空いていれば5日前予約で使用可能、学生達が個人練習や部活動で使用する場合はこの施設を使う。

 教師1名の使用許可が必要だが、特待生はほとんどフリーパスでその手続きをすっ飛ばせる。決闘前の特訓時にリザ(になった俺)が使ったりできたのもその理由が大きい。


 そして第三体育館は、建物自体の大きさは第二とほぼ変わらないが20程度の部屋数に区切られており、最も小さな部屋は教室程度の広さだ。

 当日予約可能で一般学生にも借りやすく、より個々に合わせた訓練が出来る施設になっている。



――――――



 図書迷宮ライブラの襲撃事件から2週間が経過した。学園の優秀な治癒士のおかげでレインは学校生活に復帰し、先日授業で負ったリザの怪我も完治済み。

 そして、学校交流祭――魔剣学園と魔法学院合同で行われるパーティの前日を迎えていた。


 帝国の国旗、そして両学校の校旗が学園内の諸処に掲げられ、雰囲気は既にお祭りモードだ。


 そんな中、リザと俺、そしてレインは第三体育館の一室を借りて戦闘訓練をしていた。


 お互いに固有魔術を使用するには狭すぎる(施設備品を壊してしまう)ため、体術メインの軽い打ち合いに終始した。


 汗一つかかないレインに対し、リザは手持ちのタオルで汗をぬぐいながら足下をふらつかせる。

 小休憩を促されたリザは、それに応じ壁際の椅子に腰掛けた。


 リザは息を切らしながら、涼しげなレインに問いかけた。


「付いていくだけでやっとです……。ライブラで酷い怪我をされていたのが、まるで嘘のようです」


「全快とはいかないが、体力面ではほとんど元に戻ったんじゃないかな。学園の治癒士は本当に優秀だ。流石に今回ばかりは、医務室はお前の自室じゃないぞと叱られてしまったが」


 リザとレインは苦笑したが、今までのレインの怪我は大半俺のせいなので正直ちょっと笑えない。魔剣状態でなければ表情に困っていた所だった。


「ただ、随分間が空いて勝負勘が落ちてしまったからね。対抗戦も近いことだし、早く実戦レベルまで復帰したかったところだった。打ち合いに付き合ってくれて助かったよ」


「いいえ、とんでもありません。度々ご協力頂いたのもありますし、胸を借りさせて頂いたのはこちらの方です。何から何までありがとうございます」

 

<おーい、礼節も大事だけどそこまでにしようか。この部屋を借りられるのは夕方までだ。時間も無いし、そろそろ本題に移ってくれないか?>


「ええ、そうでしたね」


 リザの返答にレインは一瞬困惑した後、魔剣の俺に話しかける。


「……ノエル、相談事をするなら姿を変えてくれないか? こちらには声が聞こえないんだ」


 魔剣状態だとリザ以外には俺の声が伝わらない。今の姿のままだと打ち合わせに不向きだ。

 そういうことならと、リザに魔法を行使して貰い、俺はリザの姿になり変わった。 



 俺達はレインに、クラリス皇女の画策――入学時に結んだ魔道契約書の回収計画についてかいつまんで話した。


「学校交流会中の隙を狙って窃盗か……皇女殿下はその……豪快な人だな」


「ええまあ……そうですね」


 リザとレインはお互いに言葉を濁す。


「言うまでもないけど、校長の金庫室が破られれば大騒ぎになる。ノエルのことを公にしたくないならば余り良い方法とは思えないな」


 レインは難しい顔で計画をやんわりと否定する。


 今後のことを思えばそうなのだろうが、俺にはタイムリミットがある。少々乱暴な方法でも前に進まなければならない。 

 とはいえ、俺の寿命の件をリザに伏せている以上それをそのままは言えない。


「……仮に潜伏に徹しても、遅かれ早かれ俺の正体はバレるだろう。素性が割れていない今のうちに行動を起こした方が良い、と考えられないか?」


レインは少し考え込み、一呼吸置いて話す。


「そうだな、理に適ってはいる。でも僕が懸念事項に思っていることはもう一つあるんだ」


「……何だよ?」


「ナディア校長を不用意に刺激することだ。校長が敵で無いとは断定出来ないよ」


 俺ははっと息を呑んだ。


「ナディア校長は魔道契約書によってノエルが生きているか死んでいるか知っている。死んでいるなら正式に退学処分の通知が下る。生きているならフロックハート家への捜索隊が正式結成される――しかし、現時点でどちらも為されていない。変だと思わないかい?」


 確かに、そうだが……。

 俺は小さな綻びを突いてみる。


「前者はともかく、後者はしたくても出来ないだろ。魔獣災害の爆心地を捜索なんて不可能だ。一級の魔術師レベルですら魔力濃度が落ちるまで10年は待たないと災害区域に入れられない」


「えっと、私は大丈夫でしたが……」


 リザがおずおずと手を挙げる。

 入学試験以前、魔獣ディッシュがガードナー邸を攻めたときのことだろう。

 


「あれは初期段階で魔力源の核を破壊出来たから魔力の霧散も早かった。触媒となった人間も1人だけで魔力貯蔵量もさして多くはなかったから、すぐに一般人でも支障ないレベルまで魔力濃度が落ちたんだ。でも俺の家はそうはいかない」


 俺は祈るように目を閉じて静かに指を折り、被害者の人数を数えていく。


「剣になった俺と父、逃げ延びた妹のティナを除いても、あの日あの場所には親族・執事等含め魔術師が8人いた。討ち倒した賊の魔術師も含めれば魔術師の遺体はもっと多いはず。全てが触媒になっていれば比にならない惨状だ」


 俺の説明で、リザは無言で手を下げた。


 藪蛇なので言わないが、リザの規格外の魔力保有量ならひょっとしたら足を踏み入れるくらいなら出来るかも知れない。

 ただ、魔獣災害の核付近は間違いなく強力な魔獣の巣窟になっている。リザを単身送り込むなんてとんでもない。



 俺の説明にレインはうんうんと頷きつつも、俺に質問を投げかけた。


「――それでも、あのナディア校長が何もせず指を咥えて待ってると思うかい?」


「思わない」


 俺は即答した。


 レインは大きく頷き、話を続ける。


「校長の性格からすれば、例え捜索が10年後でも捜索隊員を募ったり周辺地域への遠征を依頼したりするはずだよ。でも実際に行われたのは一連の事件に対して緩めの箝口令が敷かれただけだ」


「箝口令……」


「”憶測が飛び交い事実がねじ曲げられる可能性が有る、事件の詳細や顛末が正式発表されるまで口外しないように”――とね。事件直後、学園生徒への新聞記者から取材が殺到したことが要因と言われてるけど――怪しいだろう?」


「まあそうだが――」


 校長の言い振りは”事実とは異なる報道がされている”と示唆しているようにも聞こえる。

 

 そしてそれを知っている理由は――


「つまり、フロックハート家の襲撃に一枚噛んでいれば辻褄は合うと思えないか?」


「……そうとも言えない」


 校長はそれを知っていて隠していても不思議では無い理由がある。


「――ティナがいる。学園で匿っている以上、校長は兄貴かティナ本人から事情を聞いていてもおかしくない。報道の誤りもすぐにわかる。でも、その後俺や父がどうなったかまでティナは知らないだろう。もし魔道契約書で生存していることだけがわかったなら、人質に取られている可能性を考慮して騒がないようにしている可能性も有るんじゃないか」


「うん、まあ、もしそうなら校長は悪くないんだけど……」


 レインは怪訝そうに俺に問いかける。


「事件現場から逃げ切れた人がいたのか? そのティナって人は誰だ?」


「え? 俺の妹だよ」


 そう言うとレインは天を衝く勢いで立ち上がり、目を見張って驚いた。


「君に妹がいたのか!? 初耳だぞ!」


「そうか? 言ってなかったっけ」


 レインは俺の肩を掴み、激しく前後に揺さぶる。


「なんで今まで僕に紹介しなかったんだ! その子の足の美しさを是非とも見てみたい!」 


「紹介するわけ無いだろド変態がぁ!!」


 思わずレインの顔面を足蹴にして吹っ飛ばした。


 吹っ飛ぶ間際に、なんか『ありがとうございます』って聴こえた気がする。

 まさかそれを狙ってリザの姿にさせたんじゃないだろうな……。

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